ラディが私の家へとやって来て、同じ家で暮らす様になってから5ヶ月が経ち、季節は春から夏に移り変わり、蒸し暑さを感じさせる日々が続いていた。
「あー、暑いわね……」
「そうだね、あ、イレーネ、明日の夏祭りどうするの?」
「夏祭り……? あー、そういえば明日は王都で行われる aqua carnival祭だったわね」
aqua carnival祭は年に一度、フィアルゼ国の王都で8月14日に行われる祭りである。
私は毎年、側近のランドルと共に行っていたのだが、今年はラディがいる為、ランドルと3人で行くことになりそうだ。
そんなこと思いながら私は自分と同じように向かいの椅子に座っているラディに目を向ける。
「ラディは aqua carnival祭に行きたい?」
「勿論、俺、行ったことないから行ってみたい!」
「じゃあ、行きましょうか。ランドルも一緒に来ることになるかもしれないけれど」
「うん、全然構わないよ! 楽しみだなぁ」
嬉しそうに弾んだ声でそう返答してきたラディを見て私は優しい笑みを溢しながら、「明日が楽しみね」と心の中で呟いた。
*
翌日。
イレーネとラディと共に aqua carnival祭に行くはずだったランドルは急遽予定が入ってしまいイレーネとラディの2人で aqua carnival祭が行われているフィアルゼ国の王都へとやって来た。
「うわ~! 凄い人が沢山いるね!」
「そうね、他国からの観光客も結構いるわね」
私とラディはいつもよりも倍の人々で賑わう王都の街並みを見つめながら歩いていた。
今日がお祭りの日であるせいか、他国からの観光客も沢山訪れていた。
観光客をガイドする女性の声が賑やかな人々の声に混ざって私の耳にも届いて聞こえてくる。
「時間も沢山あるし、ゆっくり見て周りましょう」
「そうだね!」
ラディと私は賑やかな王都の街に溶け込みながら、人混みの中へと消えていった。
*
私とラディが王都の街並みを周っている途中、私の侍女であるエリザを見掛けた私はエリザの元へと駆け寄り声を掛ける。
「あら、エリザじゃない」
「イレーネ様、こんばんは。あら、ラディ様も」
エリザは私と共にいたラディを見てにこやかにそう言えば、エリザの隣にいた茶髪の青年は私とラディを見てからエリザに問い掛ける。
「エリザ、この方々は?」
「私が侍女として働いているエルディア伯爵家のご令嬢のイレーネ様と、イレーネ様の恋人のラディ様よ」
「おお、この方達がよく話しに聞く。いつもエリザがお世話になっています。俺はエリザの婚約者のディリックといいます」
爽やかな笑顔でそう挨拶した青年の言葉にイレーネは驚きの声を上げてしまう。
「エリザ、貴方、婚約者いたのね!?」
「はい、あら、言ってませんでしたっけ?」
「言ってないと思うわよ」
「そうでしたか。まあ、そういうことなので。イレーネ様もラディ様、私達はこれで失礼致します」
エリザはラディと私を見て優しく微笑み、軽く会釈をしてから婚約者のディリックと共に立ち去って行く。
イレーネとラディはそんな2人の姿を見送ってから再び歩き始めた。
「驚いたわ、まさかエリザに婚約者がいたなんて……」
「婚約者の方、優しいそうでしたね」
「ええ、そうね。爽やか好青年って感じだったわ」
*
空が茜色に染まり始めた夕方頃。
私とラディは賑わう王都の街を後にして家へと帰って来た。
「ただいま帰りました。お母様、お父様」
私はラディと共にリビングに入るなり、夕食の最中の父と母に声を掛けるとアルフとカルラはイレーネとラディを見て口を開く。
「おかえりなさい、イレーネ、ラディ」
「 aqua carnival祭に行っていたそうだな。どうだった?」
「ええ、今年も凄い賑わいだったわ。楽しかったわよね、ラディ」
「うん、初めて行ったけど、凄かったし、楽しかったよ!」
初めてお祭りという行事に行ったラディは終始とてもはしゃいでいた。
そんなラディのことを側で見ていた私は自分より年上であり、普段はしっかりしているラディの子供のような無邪気な一面を知れてとても満足していた。
「そうか、それならよかった」
「ほら、2人とも、手を洗ってきなさい! 2人の分の夕飯用意しておくから」
「ありがとう、お母様」
「カルラさん、ありがとうございます」
ラディと私の2人はカルラにそう言ってから手を洗う為、リビングを後にしたのであった。


