私を選べばよかったのに

 その日の放課後。いつものように図書室のカウンターに白柳と並んで座っていると、「あのう」と遠慮がちな声が背中にかけられた。

 「今日、私、当番で……いつも白柳さんにばっかりまかせて悪いと思って」

 振り返ると、銀縁の眼鏡をかけた女子生徒が立っていた。

 すぐに合点がいって、俺は広げたばかりの教科書を片づけはじめる。カウンターには席がふたつしかない。めったに来ない白柳以外の図書委員がせっかくやる気になってやってきたのだ。「ここ、いいよ」と俺は女子生徒に席を譲ると、長机のほうへ移動した。

 椅子に腰かけ、ふとカウンターへ目をやれば、白柳とさっきの女子生徒がふたりでなにやら話をしていた。ちょっと緊張した様子ながら白柳が笑っているのを見て、なんとなくほっとする。

 仲良くなればいいな、とぼんやり思う。見た感じ、白柳と似た雰囲気の子だったから、気は合いそうだし。

 白柳の人見知りの激しさは、初対面のときによくわかった。あれでは友だち作りもなかなか難しいだろうし、せっかくならこれを機にあの子と仲良くなって、いっしょに昼ごはんを食べるようになれればいいのに。とか考えていると、ふたりの会話が弾んでいるのかばかり気になって、あまり勉強が手につかなかった。

 五時近くになって、女子生徒が帰ると、白柳もカウンターから出てこちらへやってきた。その顔がうれしそうに輝いていて、どうやらさっきの子との会話が弾んでいたらしいことをすぐに察する。

 「楽しかった?」

 目の前に立った白柳に、ついそんな自分でもよくわからない質問をしてしまったけれど、白柳は「はいっ」とうれしそうに笑って頷いた。

 「(あら)()さん、すごいんですよ。たくさん本読んでて。今度、この前読んだ面白い本を貸してくれるって」

 あの子は新井さんというのか、と思いながら、「よかったな」と返す。

 「あの子、白柳と同じクラス?」

 「いえ、新井さんは四組らしいです。わたしは三組なので、お隣です」

 「そっか。なんか気が合いそうだよな、ふたり」

 俺の言葉に白柳が照れたようにはにかんだとき、司書の先生が閉館の時間を告げた。白柳が荷物を取りにカウンターへ戻ったので、俺も教科書を鞄にしまって肩にかける。そうして鞄を抱えて戻ってきた白柳といっしょに、図書室を出た。

 白柳は、新井さんとの会話がよほど楽しかったらしい。昇降口に着くまで延々と、新井さんとした話の内容を俺に聞かせてくれた。どの本が面白かったとか、新井さんとは本の趣味が合うだとか、もっぱら話題は本のことで、あまり本を読まない俺にはよくわからない話だったけれど、白柳が楽しそうだったのでつられて笑顔で相槌を打っていた。

 「そういえばさ、新井さんとは連絡先交換した?」

 「え? してませんけど……」

 「しとけよ。次に会ったときにでも」

 お節介なことを言っていることはわかっていたけれど、これだけは助言しておかなければ気が済まなかった。メッセージなら、口下手な白柳でもうまく続けられそうだし。もしかしたらそれで一気に仲良くなれるかもしれないし。

 もちろん俺がそんなことを考えているとは知らない白柳は、きょとんとした表情で、「は、はい」と首を傾げつつ頷いていた。