10月30日11時55分
私はそわそわしながら玄関の扉を見つめていた。綺麗にセットされた髪に新調した服。何度も何度も自分を落ち着かせようと深呼吸をした。

私には会いたい人がいる。
会いたい人、というのは3年付き合っていた大好きな人だ。お祭りごとが好きで、普段から騒がしい人。声がでかい上に、笑い方が独特だから余計に目立つ。でも、そんな君といる時間は本当に一瞬に感じて…君に会えなくなった日々はつまらなくて仕方ない。今も無意識に君の姿を探してしまうんだ。もうそばには居ないって分かっているはずなのにね。
でも、今日だけは違う。君とは今日、10月31日。つまりハロウィンにだけ会うことができる。
ハロウィンの起源、古代ケルトの暦では11月1日が新年とされ、大晦日にあたる10月31日の夜には先祖の霊が戻ってくると信じられていたらしいが、実際、今ハロウィンになると死んだ人が見えるようになっている。
もう分かったかもしれないね。そう、君はもう死んでしまっているんだ。1年前のことだった。
だから、大好きな君に会うことのできるチャンスは一年に一度しかない。約束したわけではないけれど、きっと10月31日になったら、君は扉の前にいる。私に「久しぶり!」って言ってくれる。そう信じて私は1番綺麗な姿で君に会おうと準備してきた。
11時57分
じっとしていられなくて靴を履いて扉に手をかける。
今までのハロウィンは幽霊で溢れた街が怖くて、友達を家に呼んで過ごしていた。だからハロウィンに外に出るのは初めてだ。
11時59分
ついにその時がくる。高鳴る胸。君の笑顔に早く会いたくて会いたくて。
3
2
1…
ガチャッ________
恐る恐る開いた扉の先には、大好きな大好きな君がいた。
「トリックオアトリート。君の1日を僕にくれない?」
「…もちろん!」
私の目から涙がこぼれ落ちた。

10月31日0時00分。
もうこの世にはいない君との24時間が始まる。