次の日も雨が降っていた。
「1番は激しくてカッコよくて
でも、2番と、3番の中間部はすごくロマンチックなんだ」
響さんはその日
クライスレリアーナという曲を弾いた。
「曲調がコロコロ変わるんだよ」
確かにとても綺麗だったけど
俺は響さんが弾く甘い切ない旋律に
胸が苦しくなっていた。
好きだ
俺は響さんが好きだ
男を好きになったことはないけど
この気持ちは好きとしか言いようがない
あの日あの傘を手放して
響さんを抱きしめたかった
俺の前であんなふうに自分を曝け出す
響さんが愛おしかった
その次の日、
グラウンドには雨が溜まっていて
野球ができなかった。
でも俺は音楽室に足が向かわなかった。
俺のものじゃないあの笑顔が
俺に向けられるのが苦しい
優しくて美しいピアノの音を聴いていると
俺のどす黒い欲望が際立って浮かんで辛い
会いたい
顔が見たい
だけどどう接したらいいか分からない
かといって気持ちを伝えるなんて絶対できない
響さんを困らせてしまう
俺だけが好きで
それではダメなのか?
俺だけが好きで
そばにいられればそれでいいんじゃないか
俺は響さんにとって特別なんだろう
俺を頼りにしてるのも分かってる
だけど……
…それじゃイヤなんだ
俺を好きになって欲しい
俺だけを見て欲しい
あの白い指に触れたい
あの柔らかそうな髪にも触りたい
……俺は汚い
響さんのピアノを守りたい
……汚い俺が?
俺の気持ちは邪魔になる
俺が我慢すれば……
俺が響さんを諦めれば……
諦めて友達のままそばにいれば、
あのままの響さんでいられるのか
俺のおかげであんなふうに弾けるようになったと言った。
俺に救われたと言った。
俺が離れたら
今度は俺のせいであんなふうに弾けなくなる?
俺が大事なのは
失いたくないのは……
響さんのピアノ?響さん?
「おーい陽翔、次音楽だろー
一緒行こうぜー」
……音楽室には、行きたくない。
響さんのピアノだけ好きならよかった
