間宮と喧嘩した次の日。
学校では、指定校推薦やらなんやらの話題で盛り上がっていた。
人が死んでも、友達との関係性が揺らいでもこの世界はなんの変わりようもなく進んでいく。
昨日のことなんてなかったかのように目の前で痴話喧嘩をする僕と彼女。
クラスメイトにも付き合っていることは伝えていない。
なのに、どうしてこうも騒がしいのかというと、平に話を聞いたあの時、彼女との連絡を途中ですっぽかしたことにあるらしい。
「やっぱり、女の子といたでしょ、絶対そう。嘘なんて言わせない」
友達が死んで、その友達の同級生が女の子だっただけというにはとても厳しいものがあった。
あまりにもセンシティブだし、生々しい話をしなきゃならないし、彼女にその重荷を背負わせたくない。
「そんなことないから、ほんとに。もし、本当に会うなら、絶対言うって前約束したじゃん。僕は、約束を守るタイプだよ」
「自分で言う人のこと信じられないから」
「……」
あんまそんなこと言うなよ、悲しくなるだろ。
「図星なんだ!!」
怒っている彼女も好きだけれど、面倒臭いがやはり勝ってしまうのは、女子と恋愛することに向いていない証拠になるのだろうか。
「違うって」
彼女の言葉に否定してみる。
すぐチャイムがなって、席に戻る時でさえ、彼女は睨みを効かせていた。SHR中、担任が話している時でさ睨んでいた。
隣の席の女の子が声をかけてくる。
「ずっと見てるけど、何かあった?」
「いや、何もないよ。大丈夫」
愛想よく振り撒くと一層睨みがキツくなった気がして、彼女を見やるのをやめた。
面倒な女とは、彼女のことを言うのだろうか。
そろそろ別れたくなってきた。
怒った時の女ってどうしてこうもめんどくさいのか。
ため息を漏らす。
次の授業の準備でもして、気を紛らわせる。
電源を切っていなかったスマホから着信のブザーが聞こえた。
SHRが終わり急いでトイレに駆け込む。
着信は、今沢からだった。
「何?何度もかけてこないでくれる?学校なんだけど」
「あ、やっと出た。文句ばっか言わないで。今度、また会えるよね。私もあなたに聞きたいことあるから」
「パス。なんで、会わなきゃいけないんだ。電話でいいだろ」
「……。私に会いたくないんだ」
「お前みたいなやつ、一人で十分なんだよ」
イライラをぶちまける。
「一人でってことは、もう一人いるの?え誰?」
思わず舌打ちをしてしまう。
「はあ!?」
電話越しからでも馬鹿でかい声が耳を貫通する。
僕はいつかこいつに殺されるんじゃないだろうか。
いや、殺されるなら今のところ今カノなんだけれど。
「いや、彼女だよ。もういい?また連絡して」
「やっぱ、彼女いるんだ。聞きたかったんだよねぇ、モテそうだし、羨ましいって」
最後まで聞かずに電話を切る。どうせ雑談に身を投じるだけ。
LINEの通知が溜まっていたため、見返していると郡山からもLINEが来ていた。
『間宮と平と三門から怒りの文章届いたけど、何したん?宣戦布告?』
多少は面白いブラックジョークを送ってくれる郡山は、面白さだけで言うのなら、一級品だった。
冗談もわかりやすいし、人の好きなものに合わせてくれる良さがある。
「何でもない。村野の死の真相を知りたいってやつに協力してる」
『協力してどうするの?大沢は、それで何か得られるの?』
思いの外、すぐ既読がついた。彼は既読が遅いで有名だと言うのに今回ばかりは友達関係だからか早いのか。
だけど、その質問にすぐ答えられなかった。
既読もつけてしまっているが、スマホを閉じて、ポケットにしまった。
放課後に、スマホを触ると通知が三件ほど来ていた。
一つは公式LINEからだったが、今沢と郡山からだ。
『電話が無理なら、一度会って話すか?』
意外にも郡山は僕と会うことに躊躇いはないらしい。
いつも村野が誘う時は渋々といった感じらしいが、それはいじめの件がきっかけで関わりを減らしたいからなのかもしれない。
「少しだけでいいから会いたい」
『おけ。じゃ、今から会うか』
部活も引退して、帰るだけの日々。
郡山とは学校も近いため、たまに会うことはあった。
確か、近くにカフェがあった覚えはず。
「すぐ近くのカフェはどう?郡山の学校の近く」
『あー、あそこね。いいよ、いくか』
郡山の学校の近くを通るとすぐ向かいにカフェがある。
こぢんまりとしているお店で有名な店のような新作が毎月出ることもないため、学生に人気がない。
たまにくるのは、気分を変えるべく勉強するためだ。
静かだし、落ち着いたBGMも流れるのでリフレッシュできる。最高の環境だ。
同じ学校のやつが来ることはまずないし、人の目を気にする必要もない。
腹が減ったら、ガッツリ食べれる飯も安い価格で売っている。
「あら、久しぶりね」
店のオーナーのおばちゃんが声をかけてくれる。
以前、学生が来るのは珍しいと顔も名前も覚えられた。
「今日、ちょっと友達を連れてこようかなって。そこの席借りてもいいですか?」
と、四人掛け席の利用の許可をとる。
「ええ、いいわよ」
席に腰をかけて、暗記ブックを読んでいるとドアの開く音が聞こえた。
そこにいたのは、郡山だ。
「うい、お待たせ」
「いやいや、さっき来たところ。何飲む?」
と、メニューを見せる。
「僕、ここ来たことないからなぁ。おすすめとかあればいいけど」
「ブレンドがいいんじゃないかな。苦味もそんな強くないし」
「じゃ、それで」
おばちゃんが席まで来て、注文を確認する。
すぐに提供してくれた。
郡山は、ブラックで行くようで、僕はシロップをもらった。
「この時期にホットを選ぶなんてやっぱセンスが冴えてるね」
中学の頃から何かと理由をつけて、センスがいいだのかっこいいだの言われてきた。
小学生の頃はそんなこと一切なく普通の友達として仲良くしてくれていたはずなのに。
いつからお互いそんなくだらないことで距離ができていってしまったのだろう。
「そんなことないよ。それより、ブラックいけるんだね」
「甘くするの好きじゃなくて」
「そっか」
「シロップかける手を止める必要はないぞ」
気づかれてしまったので、そのままシロップをかけることにした。
「シロップ入れとけば、胃が痛くなることないからおすすめだけどね」
「そうなの?」
「ほら、勉強する時無駄なこと考えたくないじゃん?」
「まぁそうだな。そこまで考えたことなかったわ」
「僕も、親に言われるまではブラックだったよ」
「前まで紅茶じゃなかったっけ?」
「紅茶切らしてから、ずっと親の買ってるブラック」
中学生の頃の話をよく覚えているなと感心した。
僕も覚えていないわけじゃないけれど、言われるまではよく忘れている。
それに間宮と話していた時も過去の話はそんなしてこなかったし、今の話ばかりしていた覚えがある。
村野とは柄にもなく未来の話ばかりしていたのに、いつからしなくなったのだろう。
そんなことを一番覚えているのは僕自身だと言うのに。
「ブラックが一番よ。学生で紅茶飲んでるなんて珍しい」
「確かにね」
「それで、なんで間宮と喧嘩したの?」
本題に入られて少し面くらう。
喧嘩ってほどじゃないだろうと思う反面、あれだけ怒りを滲ませた間宮の顔も初めてだった。
「もっと本人から話を聞けば、嘘に流されることもなかったんじゃないかって言っただけ」
「嘘?」
「村野がいじめられていた話は嘘の可能性が高いって話をしたんだ」
「……え、あぁ、村野」
もしかして、と彼は何かに気づいたよう。
「大沢は、この大事な時期に村野の死について調べてるの?」
大事な時期とは、受験期のこと。
「あぁ、調べてる。村野の同校の今沢って女が村野は自殺するような人間じゃないって言うんだ。だから、少し協力しようかなって」
「おせっかいなイメージなかったんだけど」
「そうだよな」
「でもそれさ、人の死に首突っ込むってやってることだいぶ酷いと思うんだけど」
「ちょっと協力するだけ。今沢のことも信じてないし」
「その今沢って子を知りたいけど。そもそも村野が女子と一緒にいる話なんて聞いたことない」
それはその通りだ。
僕らはインスタをやってない。
村野だけがやっていて、以前フォローしたいと言われたがみんなして断ったことを覚えてる。
それに、彼は自分の話をよくするので、女関連だったら自慢くらいはするだろう。
郡山や間宮に女関連で浮ついた話なんてないのだから。
「いじめられてたのが嘘だとして、女子と関わりもあるとして、なんで死ぬのか……、酷いとか言ったけどわからんね」
郡山の言う通り今の所死ぬ理由なんてものが思いつかない。
「そもそもなんで間宮に訃報が届いたのか」
と、今更ながら疑問を口にする。
「それはあれだろ?間宮の弟が村野の弟と同級生だからだろ?」
「そうなの?」
「知らんかったのか?」
初めて知った。そもそも間宮の弟に会ったことがない。
あいつは一人っ子だと思ってた。
だとしたら、弟くんは家族に迷惑かけないようにとか考えて公立高校に進学するんだろうか。
親の圧とか凄そうだ。
うちの家ではそんなことないけれど、学力の低い子供を持つ親は大変だなと思う。
「僕は、何度か会ってるけど、あんまり性格のいい人には見えないね」
と、郡山が言う。
「じゃあ、やっぱり」
「まさか弟に原因があるって言うんじゃないよな」
「考えるのは自由でしょ」
「自由だけど、詮索しすぎれば、後悔するかもしれないよ」
「後悔って……」
お互い、気づいていることがある。だけど、それを言えないのは、自分を責める結果になるから。
「あくまで自殺なんでしょ?自殺した原因を知りたい理由はなんなの?」
「それは、今沢が」
「今沢じゃなくて……。自分が知りたいんじゃないの?じゃなかったら、大沢が動くわけない」
「……」
すぐに言い返すことができなかったのは、彼のその目の真剣さが今までに見たことがなかったから。
「何を求めてるの?まるで、やましいことがあるように見える」
「……そんなことは」
ない、なんてことあるわけなかった。
現にいま、彼女がいる事実をみんなに隠してる。
学校でも目の前の彼にも言っていない。
隠し事が多い事実は認める。
だけど、まさかこんなにもあっけなく勘付かれると思っていなかった。
それを言われるのは、何だか久々だ。
みんなどこか一線を引いて、踏み込まないようにしている。
僕は今、村野の死因を追求してる。一線を超えてしまっている。
一つくらい彼に何か言わないと、勘繰られるだけ勘繰られて誤情報を流されるかもしれない。
三門と同じだ。彼が流したデマで村野が生きづらさを抱えていたなら、きっとこの先で僕は追体験することになる。
それだけは、避けたい。
「少しはあるよ。実は、大学受験の模試判定が悪いんだよね」
言い直すつもりが、嘘をつく結果になった。
やはり僕は、いまだに彼らの前で本心を言うことに躊躇いがあるらしい。
思い返してみれば、友達や彼女の前で本音を言ったことはなかった。
強いて言うのであれば、村野くらい。
「それを信じろって?」
目の前の彼は全く信じてくれなかった。
「なんかさ、最近よくわかってきたんだよね。間宮ともよくゲームの最中に話すけど、大沢の扱いはむずいけど、思ってるよりも素直なやつだって……。だから、なんか今わかった。本当はもっと隠したいことがある」
「……」
「村野の死の原因を知りたいって言うのは、今君が思うような気持ちを村野にさせることなんじゃないか?死人に口なしだけど、僕はやっぱりこんなのよくないって思ってる」
郡山と喧嘩腰で話すことはなかったけれど、今はもう気にすることもないのかもしれない。
「本音を言うならさ、郡山。僕は、踏み込まれたくないんじゃないよ。勝手に作られたキャラクターの中で、僕はそれに徹してるだけ。本当の僕を見てくれる相手なら、こんな回りくどいやり口しないよ」
なのに、どうして今目の前の彼ではなく村野を思い出したのだろう。
「……それは」
気を遣ってくれている。
そんなこと、わかってる。
だけど、こんな言い方になるのは、昔からずっとイケメン、かっこいい、きっとスポーツも万能だなんて言われ続けてきたから。
それに応えるのがどれだけ大変だったか、誰も知らない。
運動が得意なわけじゃない。顔の良さなんてちょっと清潔感あれば作れるもの。
なのに、みんなそんな話に興味がない。
惚気だなんだと言われるくらいなら、話さないほうがマシだ。
「間宮には伝わらないと思って言わなかったけどさ、僕は昔から本音で会話してたよ」
「……!?」
何かに気づいたらしく、目の前の彼は顔を引き攣らせた。
「僕が本音を言えば、羨ましいだなんだって取り合ってくれなかったのは君たちの方じゃないか。だから、ちょっと距離置いてたのは事実だよ。取り合ってくれなかった話題をこちらから話すなんてことしない」
「おま、それ……本気で言ってんのかよ……」
血の気が引いたのか、だんだん声が小さくなっている。
「本気だよ。村野は、一番普通に接してくれた。そんな大切に思える人が死んだら、流石に知りたいって思うでしょ?」
「……」
「ごめんね、郡山のことを信じてないわけじゃない。でもさ、どちらを大切にするかなんて考えてみればすぐにわかるでしょ」
コーヒーを口に含む。
温かったはずのコーヒーがぬるく口の中に広がる。
ぬるいと苦味が増したように感じるのは、熱さのおかげで誤魔化していただけなのだろうか。
「これは本音だよ。もし、郡山がそれでも止めるって言うなら止めてみてよ。僕はこれから今沢に会って、村野の二年から現在の話を聞こうと思う。ついてくるか?」
「……」
「他人の言葉だけを信じてきたんだから、今沢の言葉も信じられると思う」
皮肉をぶつけると彼は乾いた笑みを浮かべた。
もう何も言う言葉がないのかもしれない。
「ごめんね、こんな時期に。じゃあ、もう行くわ」
お金を机に置いて店を出た。
間宮といい、郡山相手にもぶつかってしまった。
喧嘩をしたいわけじゃないのに、どうしてこうなってしまうのか。
いや、本当はわかっているんだ。
わかっているのに、こんなことしかできていない。
そんな未熟さに腹が立った。
その夜、日付を超える頃にスマホの通知で目が覚めた。
適当にスマホをバシバシ叩いて眠りにつく。が。
「おい!起きろ!起きろって!いつまで未読のつもり!」
うるさい声に目を開ける。
暗い部屋の中ではスマホの画面は眩しい。
凝視するとそこには今沢の文字が書いてあった。
「……うわ、最悪」
「え、なんか言った?」
「なんでもない。ていうか、今何時だと思ってんの?」
「まだ十二時過ぎたくらいじゃん。未読ってどういうつもり?」
「……」
疲れてんだし、寝させろやブス。とか、いいたい。
「ちょっとー?起きてますか?」
「何?」
「事件解決したって思ってないよね?」
「……」
「まだ、調べることあるでしょ」
「こんな夜に電話するなよ」
「はぁ!?」
「はぁ!?はこっちのセリフだわ」
「いやいや」
「明日じゃダメなのか?」
「どうせ、学校だったとか言って逃げるじゃん。校舎まで行ったら行ったで、また逃げるくせに」
「……」
なんで知ってんだ。
「逃げてるの知ってるんだからね?」
「……」
思わず、舌打ちをした。
人の睡眠の邪魔をしやがって、挙句、ネチネチと恨み言を言い出す始末。
ほんと、なんでこんなやつと村野が仲良いんだよ……。
変な女引っ掛けてもろくなことないと言うのに、村野はそんなことも知らないのか。
言い寄ってくる女は碌でもねぇのばかりなのは世の常識だぞ。
「なんか言った?」
「なんも言ってない。良い加減にしろよ」
「言いたげじゃん。何か文句あるなら、聞くよ?」
涙声がスマホから聞こえてくる。舌打ちを我慢して口をひらく。
「なんもないよ。大丈夫。それより事件解決したなんて思ってない。今沢、君の知ってることを話してほしい」
「……それは」
数秒の間が空く。
彼女は何も言い返してこない。
すると、通知がなった。
別の相手だった。
『最近冷たい』
彼女からだ。
この短文はきっと寂しさからだ。
構ってやれてない自覚はある。
だけど、今は、それ以上に知りたいことがある。
「自分から電話してきたのに、答えてくれないのか?」
「じゃあ、私からの質問に答えてからにしてよ」
「何?」
催促すると彼女はキッパリと告げる。
「あなたと村野が仲良いと思えない」
「……」
「だって、私、村野からあなたの話、一度も聞いたことないよ」
「…………」
それは、今日、郡山に言った言葉を思い出すのに十分な発言だった。
彼もまた僕らに一線を引いていた?
「そうか」
言い返す言葉なんてなかった。
あの時、郡山に言った言葉がどこかで自分に刺さることになるんじゃないかって思ってた。
こんなにも早く刺さることになるとは思ってもみなかったけれど。
「あの葬儀に来たのはなんで?彼の弟になんで喧嘩売るようなこと言ったの?」
『お前は、何になりたい。何を変えたい。何を原動力にする?』
村野の弟に伝えた言葉。
「聞こえてたよ。何になりたいとか何を変えたいとか、兄弟が死んでそんなことを考えてる余裕なんてないよ」
「……」
「あの時、不謹慎だって私に言ってたけど、あなたも十分不謹慎じゃないの?」
「……そんなことを言うために電話したのか?」
「そうじゃないけど」
「村野が僕のことを隠したのは、後ろめたさがあったからだろ。質問には答えた。もういいか?」
「……待って、もう一つだけ」
「それなら、会って答えるよ。それじゃ、ダメなのか」
「…………わかった」
返事が聞こえてすぐに電話を切る。
……これは、彼女の口車にはめられたんじゃないか?
盛大なため息をつく。
LINEを見返すと通知が六件ほど来ていた。
彼女からだ。
後で返そうとベッドで横になる。
目を閉じてみてもすぐには寝れないようで、何度も目を覚ましてしまう。
村野が僕のことを一言も話さなかった。
それはなんだか寂しいような気もしたけれど、仕方ないことなんだと言い聞かせる。
だってそうだよな。
『僕が、女じゃなくて男が好きだって言ったらどうする?』
あの時、あんなこと言わないければもう少し村野と一緒にいられた。
今年の八月だって真っ先に会おうといい出したのは、もう会えないかもしれないと思ったから。
少しでも話せる時間が欲しかった。
和解できるのであれば、和解したい。
そんな切なる願いは、叶わなかった。
『ごめん、やっぱ男と付き合うのは考えられないかも。それにほら、女子からも十分モテるでしょ?きっとまだ女子と付き合ってないからそんなこと口走っちゃうわけで』
彼の拒否反応に拒絶した。
そんなこと言わないで欲しかった。
距離を置くような声音も目も怖かった。
逃げ出したかったはずなのに、逃げるどころか距離を詰めて……。
『嫌だ。もっと考えてほしい……。お願い……』
『村野が嫌わないように最善を尽くすから』
それでも拒絶されて、言わなくて良いことさえ口にした。
『お前が、底辺校に進学した時点でわかってた。医者になる気もないんだろ。夢だけ語るなよ』
妬んで、苛立って、先のことなんて考えることもせずいいたい事だけ言って逃げた。
だから、死んだって聞いた時、時間が止まった気がした。
僕のせいだって。
本当に死ぬべきはどっちだったか。
答えは出てる。
もっと考えるべきなのは僕だった。
最善を尽くすべきなのは僕だった。
LINEを開く。
通知の溜まっていく彼女に電話をする。
「もしもし」
『珍しい。やっと出てくれた』
「別れようか」
そして、切り出したんだ。
村野に言われて、告白されていた子と付き合った。
気持ちは変わらなかった。
やっぱり、村野が良かった。
どこか違ったんだ。何かはわからないけど。
だから、ろくにデートにも行かなかったし、形だけ付き合ってることにした。
本気で好きじゃないから、キスもしなかった。
何もしなかった。
好きでもないのに時間を奪うのは、もうやめだ。
「別れてほしい。好きじゃなくなった」
「……なんで」
「君も気づいてるでしょ」
全く名前で呼ばなかったどころか、名前すらろくに覚えてない僕なんかと一緒にいても良いことはない。
「……知ってた。でも、そんな急に」
「ごめん」
「ねぇ……、じゃあ、私と付き合ってる時間、楽しかった?」
縋る様に聞こえた。でも。
「ごめん……」
答えは変わらなかった。
今更、村野の気持ちがわかった気がした。
あれでも最大限、僕のことを考えての発言だった。
そんなこともできない僕は、一番底辺だ。
底辺高がとか言っておきながら、配慮もできない馬鹿なやつが生きてる。
なぁ、村野。ほんとに死ぬべきだったのは、誰だったんだろうな。
学校では、指定校推薦やらなんやらの話題で盛り上がっていた。
人が死んでも、友達との関係性が揺らいでもこの世界はなんの変わりようもなく進んでいく。
昨日のことなんてなかったかのように目の前で痴話喧嘩をする僕と彼女。
クラスメイトにも付き合っていることは伝えていない。
なのに、どうしてこうも騒がしいのかというと、平に話を聞いたあの時、彼女との連絡を途中ですっぽかしたことにあるらしい。
「やっぱり、女の子といたでしょ、絶対そう。嘘なんて言わせない」
友達が死んで、その友達の同級生が女の子だっただけというにはとても厳しいものがあった。
あまりにもセンシティブだし、生々しい話をしなきゃならないし、彼女にその重荷を背負わせたくない。
「そんなことないから、ほんとに。もし、本当に会うなら、絶対言うって前約束したじゃん。僕は、約束を守るタイプだよ」
「自分で言う人のこと信じられないから」
「……」
あんまそんなこと言うなよ、悲しくなるだろ。
「図星なんだ!!」
怒っている彼女も好きだけれど、面倒臭いがやはり勝ってしまうのは、女子と恋愛することに向いていない証拠になるのだろうか。
「違うって」
彼女の言葉に否定してみる。
すぐチャイムがなって、席に戻る時でさえ、彼女は睨みを効かせていた。SHR中、担任が話している時でさ睨んでいた。
隣の席の女の子が声をかけてくる。
「ずっと見てるけど、何かあった?」
「いや、何もないよ。大丈夫」
愛想よく振り撒くと一層睨みがキツくなった気がして、彼女を見やるのをやめた。
面倒な女とは、彼女のことを言うのだろうか。
そろそろ別れたくなってきた。
怒った時の女ってどうしてこうもめんどくさいのか。
ため息を漏らす。
次の授業の準備でもして、気を紛らわせる。
電源を切っていなかったスマホから着信のブザーが聞こえた。
SHRが終わり急いでトイレに駆け込む。
着信は、今沢からだった。
「何?何度もかけてこないでくれる?学校なんだけど」
「あ、やっと出た。文句ばっか言わないで。今度、また会えるよね。私もあなたに聞きたいことあるから」
「パス。なんで、会わなきゃいけないんだ。電話でいいだろ」
「……。私に会いたくないんだ」
「お前みたいなやつ、一人で十分なんだよ」
イライラをぶちまける。
「一人でってことは、もう一人いるの?え誰?」
思わず舌打ちをしてしまう。
「はあ!?」
電話越しからでも馬鹿でかい声が耳を貫通する。
僕はいつかこいつに殺されるんじゃないだろうか。
いや、殺されるなら今のところ今カノなんだけれど。
「いや、彼女だよ。もういい?また連絡して」
「やっぱ、彼女いるんだ。聞きたかったんだよねぇ、モテそうだし、羨ましいって」
最後まで聞かずに電話を切る。どうせ雑談に身を投じるだけ。
LINEの通知が溜まっていたため、見返していると郡山からもLINEが来ていた。
『間宮と平と三門から怒りの文章届いたけど、何したん?宣戦布告?』
多少は面白いブラックジョークを送ってくれる郡山は、面白さだけで言うのなら、一級品だった。
冗談もわかりやすいし、人の好きなものに合わせてくれる良さがある。
「何でもない。村野の死の真相を知りたいってやつに協力してる」
『協力してどうするの?大沢は、それで何か得られるの?』
思いの外、すぐ既読がついた。彼は既読が遅いで有名だと言うのに今回ばかりは友達関係だからか早いのか。
だけど、その質問にすぐ答えられなかった。
既読もつけてしまっているが、スマホを閉じて、ポケットにしまった。
放課後に、スマホを触ると通知が三件ほど来ていた。
一つは公式LINEからだったが、今沢と郡山からだ。
『電話が無理なら、一度会って話すか?』
意外にも郡山は僕と会うことに躊躇いはないらしい。
いつも村野が誘う時は渋々といった感じらしいが、それはいじめの件がきっかけで関わりを減らしたいからなのかもしれない。
「少しだけでいいから会いたい」
『おけ。じゃ、今から会うか』
部活も引退して、帰るだけの日々。
郡山とは学校も近いため、たまに会うことはあった。
確か、近くにカフェがあった覚えはず。
「すぐ近くのカフェはどう?郡山の学校の近く」
『あー、あそこね。いいよ、いくか』
郡山の学校の近くを通るとすぐ向かいにカフェがある。
こぢんまりとしているお店で有名な店のような新作が毎月出ることもないため、学生に人気がない。
たまにくるのは、気分を変えるべく勉強するためだ。
静かだし、落ち着いたBGMも流れるのでリフレッシュできる。最高の環境だ。
同じ学校のやつが来ることはまずないし、人の目を気にする必要もない。
腹が減ったら、ガッツリ食べれる飯も安い価格で売っている。
「あら、久しぶりね」
店のオーナーのおばちゃんが声をかけてくれる。
以前、学生が来るのは珍しいと顔も名前も覚えられた。
「今日、ちょっと友達を連れてこようかなって。そこの席借りてもいいですか?」
と、四人掛け席の利用の許可をとる。
「ええ、いいわよ」
席に腰をかけて、暗記ブックを読んでいるとドアの開く音が聞こえた。
そこにいたのは、郡山だ。
「うい、お待たせ」
「いやいや、さっき来たところ。何飲む?」
と、メニューを見せる。
「僕、ここ来たことないからなぁ。おすすめとかあればいいけど」
「ブレンドがいいんじゃないかな。苦味もそんな強くないし」
「じゃ、それで」
おばちゃんが席まで来て、注文を確認する。
すぐに提供してくれた。
郡山は、ブラックで行くようで、僕はシロップをもらった。
「この時期にホットを選ぶなんてやっぱセンスが冴えてるね」
中学の頃から何かと理由をつけて、センスがいいだのかっこいいだの言われてきた。
小学生の頃はそんなこと一切なく普通の友達として仲良くしてくれていたはずなのに。
いつからお互いそんなくだらないことで距離ができていってしまったのだろう。
「そんなことないよ。それより、ブラックいけるんだね」
「甘くするの好きじゃなくて」
「そっか」
「シロップかける手を止める必要はないぞ」
気づかれてしまったので、そのままシロップをかけることにした。
「シロップ入れとけば、胃が痛くなることないからおすすめだけどね」
「そうなの?」
「ほら、勉強する時無駄なこと考えたくないじゃん?」
「まぁそうだな。そこまで考えたことなかったわ」
「僕も、親に言われるまではブラックだったよ」
「前まで紅茶じゃなかったっけ?」
「紅茶切らしてから、ずっと親の買ってるブラック」
中学生の頃の話をよく覚えているなと感心した。
僕も覚えていないわけじゃないけれど、言われるまではよく忘れている。
それに間宮と話していた時も過去の話はそんなしてこなかったし、今の話ばかりしていた覚えがある。
村野とは柄にもなく未来の話ばかりしていたのに、いつからしなくなったのだろう。
そんなことを一番覚えているのは僕自身だと言うのに。
「ブラックが一番よ。学生で紅茶飲んでるなんて珍しい」
「確かにね」
「それで、なんで間宮と喧嘩したの?」
本題に入られて少し面くらう。
喧嘩ってほどじゃないだろうと思う反面、あれだけ怒りを滲ませた間宮の顔も初めてだった。
「もっと本人から話を聞けば、嘘に流されることもなかったんじゃないかって言っただけ」
「嘘?」
「村野がいじめられていた話は嘘の可能性が高いって話をしたんだ」
「……え、あぁ、村野」
もしかして、と彼は何かに気づいたよう。
「大沢は、この大事な時期に村野の死について調べてるの?」
大事な時期とは、受験期のこと。
「あぁ、調べてる。村野の同校の今沢って女が村野は自殺するような人間じゃないって言うんだ。だから、少し協力しようかなって」
「おせっかいなイメージなかったんだけど」
「そうだよな」
「でもそれさ、人の死に首突っ込むってやってることだいぶ酷いと思うんだけど」
「ちょっと協力するだけ。今沢のことも信じてないし」
「その今沢って子を知りたいけど。そもそも村野が女子と一緒にいる話なんて聞いたことない」
それはその通りだ。
僕らはインスタをやってない。
村野だけがやっていて、以前フォローしたいと言われたがみんなして断ったことを覚えてる。
それに、彼は自分の話をよくするので、女関連だったら自慢くらいはするだろう。
郡山や間宮に女関連で浮ついた話なんてないのだから。
「いじめられてたのが嘘だとして、女子と関わりもあるとして、なんで死ぬのか……、酷いとか言ったけどわからんね」
郡山の言う通り今の所死ぬ理由なんてものが思いつかない。
「そもそもなんで間宮に訃報が届いたのか」
と、今更ながら疑問を口にする。
「それはあれだろ?間宮の弟が村野の弟と同級生だからだろ?」
「そうなの?」
「知らんかったのか?」
初めて知った。そもそも間宮の弟に会ったことがない。
あいつは一人っ子だと思ってた。
だとしたら、弟くんは家族に迷惑かけないようにとか考えて公立高校に進学するんだろうか。
親の圧とか凄そうだ。
うちの家ではそんなことないけれど、学力の低い子供を持つ親は大変だなと思う。
「僕は、何度か会ってるけど、あんまり性格のいい人には見えないね」
と、郡山が言う。
「じゃあ、やっぱり」
「まさか弟に原因があるって言うんじゃないよな」
「考えるのは自由でしょ」
「自由だけど、詮索しすぎれば、後悔するかもしれないよ」
「後悔って……」
お互い、気づいていることがある。だけど、それを言えないのは、自分を責める結果になるから。
「あくまで自殺なんでしょ?自殺した原因を知りたい理由はなんなの?」
「それは、今沢が」
「今沢じゃなくて……。自分が知りたいんじゃないの?じゃなかったら、大沢が動くわけない」
「……」
すぐに言い返すことができなかったのは、彼のその目の真剣さが今までに見たことがなかったから。
「何を求めてるの?まるで、やましいことがあるように見える」
「……そんなことは」
ない、なんてことあるわけなかった。
現にいま、彼女がいる事実をみんなに隠してる。
学校でも目の前の彼にも言っていない。
隠し事が多い事実は認める。
だけど、まさかこんなにもあっけなく勘付かれると思っていなかった。
それを言われるのは、何だか久々だ。
みんなどこか一線を引いて、踏み込まないようにしている。
僕は今、村野の死因を追求してる。一線を超えてしまっている。
一つくらい彼に何か言わないと、勘繰られるだけ勘繰られて誤情報を流されるかもしれない。
三門と同じだ。彼が流したデマで村野が生きづらさを抱えていたなら、きっとこの先で僕は追体験することになる。
それだけは、避けたい。
「少しはあるよ。実は、大学受験の模試判定が悪いんだよね」
言い直すつもりが、嘘をつく結果になった。
やはり僕は、いまだに彼らの前で本心を言うことに躊躇いがあるらしい。
思い返してみれば、友達や彼女の前で本音を言ったことはなかった。
強いて言うのであれば、村野くらい。
「それを信じろって?」
目の前の彼は全く信じてくれなかった。
「なんかさ、最近よくわかってきたんだよね。間宮ともよくゲームの最中に話すけど、大沢の扱いはむずいけど、思ってるよりも素直なやつだって……。だから、なんか今わかった。本当はもっと隠したいことがある」
「……」
「村野の死の原因を知りたいって言うのは、今君が思うような気持ちを村野にさせることなんじゃないか?死人に口なしだけど、僕はやっぱりこんなのよくないって思ってる」
郡山と喧嘩腰で話すことはなかったけれど、今はもう気にすることもないのかもしれない。
「本音を言うならさ、郡山。僕は、踏み込まれたくないんじゃないよ。勝手に作られたキャラクターの中で、僕はそれに徹してるだけ。本当の僕を見てくれる相手なら、こんな回りくどいやり口しないよ」
なのに、どうして今目の前の彼ではなく村野を思い出したのだろう。
「……それは」
気を遣ってくれている。
そんなこと、わかってる。
だけど、こんな言い方になるのは、昔からずっとイケメン、かっこいい、きっとスポーツも万能だなんて言われ続けてきたから。
それに応えるのがどれだけ大変だったか、誰も知らない。
運動が得意なわけじゃない。顔の良さなんてちょっと清潔感あれば作れるもの。
なのに、みんなそんな話に興味がない。
惚気だなんだと言われるくらいなら、話さないほうがマシだ。
「間宮には伝わらないと思って言わなかったけどさ、僕は昔から本音で会話してたよ」
「……!?」
何かに気づいたらしく、目の前の彼は顔を引き攣らせた。
「僕が本音を言えば、羨ましいだなんだって取り合ってくれなかったのは君たちの方じゃないか。だから、ちょっと距離置いてたのは事実だよ。取り合ってくれなかった話題をこちらから話すなんてことしない」
「おま、それ……本気で言ってんのかよ……」
血の気が引いたのか、だんだん声が小さくなっている。
「本気だよ。村野は、一番普通に接してくれた。そんな大切に思える人が死んだら、流石に知りたいって思うでしょ?」
「……」
「ごめんね、郡山のことを信じてないわけじゃない。でもさ、どちらを大切にするかなんて考えてみればすぐにわかるでしょ」
コーヒーを口に含む。
温かったはずのコーヒーがぬるく口の中に広がる。
ぬるいと苦味が増したように感じるのは、熱さのおかげで誤魔化していただけなのだろうか。
「これは本音だよ。もし、郡山がそれでも止めるって言うなら止めてみてよ。僕はこれから今沢に会って、村野の二年から現在の話を聞こうと思う。ついてくるか?」
「……」
「他人の言葉だけを信じてきたんだから、今沢の言葉も信じられると思う」
皮肉をぶつけると彼は乾いた笑みを浮かべた。
もう何も言う言葉がないのかもしれない。
「ごめんね、こんな時期に。じゃあ、もう行くわ」
お金を机に置いて店を出た。
間宮といい、郡山相手にもぶつかってしまった。
喧嘩をしたいわけじゃないのに、どうしてこうなってしまうのか。
いや、本当はわかっているんだ。
わかっているのに、こんなことしかできていない。
そんな未熟さに腹が立った。
その夜、日付を超える頃にスマホの通知で目が覚めた。
適当にスマホをバシバシ叩いて眠りにつく。が。
「おい!起きろ!起きろって!いつまで未読のつもり!」
うるさい声に目を開ける。
暗い部屋の中ではスマホの画面は眩しい。
凝視するとそこには今沢の文字が書いてあった。
「……うわ、最悪」
「え、なんか言った?」
「なんでもない。ていうか、今何時だと思ってんの?」
「まだ十二時過ぎたくらいじゃん。未読ってどういうつもり?」
「……」
疲れてんだし、寝させろやブス。とか、いいたい。
「ちょっとー?起きてますか?」
「何?」
「事件解決したって思ってないよね?」
「……」
「まだ、調べることあるでしょ」
「こんな夜に電話するなよ」
「はぁ!?」
「はぁ!?はこっちのセリフだわ」
「いやいや」
「明日じゃダメなのか?」
「どうせ、学校だったとか言って逃げるじゃん。校舎まで行ったら行ったで、また逃げるくせに」
「……」
なんで知ってんだ。
「逃げてるの知ってるんだからね?」
「……」
思わず、舌打ちをした。
人の睡眠の邪魔をしやがって、挙句、ネチネチと恨み言を言い出す始末。
ほんと、なんでこんなやつと村野が仲良いんだよ……。
変な女引っ掛けてもろくなことないと言うのに、村野はそんなことも知らないのか。
言い寄ってくる女は碌でもねぇのばかりなのは世の常識だぞ。
「なんか言った?」
「なんも言ってない。良い加減にしろよ」
「言いたげじゃん。何か文句あるなら、聞くよ?」
涙声がスマホから聞こえてくる。舌打ちを我慢して口をひらく。
「なんもないよ。大丈夫。それより事件解決したなんて思ってない。今沢、君の知ってることを話してほしい」
「……それは」
数秒の間が空く。
彼女は何も言い返してこない。
すると、通知がなった。
別の相手だった。
『最近冷たい』
彼女からだ。
この短文はきっと寂しさからだ。
構ってやれてない自覚はある。
だけど、今は、それ以上に知りたいことがある。
「自分から電話してきたのに、答えてくれないのか?」
「じゃあ、私からの質問に答えてからにしてよ」
「何?」
催促すると彼女はキッパリと告げる。
「あなたと村野が仲良いと思えない」
「……」
「だって、私、村野からあなたの話、一度も聞いたことないよ」
「…………」
それは、今日、郡山に言った言葉を思い出すのに十分な発言だった。
彼もまた僕らに一線を引いていた?
「そうか」
言い返す言葉なんてなかった。
あの時、郡山に言った言葉がどこかで自分に刺さることになるんじゃないかって思ってた。
こんなにも早く刺さることになるとは思ってもみなかったけれど。
「あの葬儀に来たのはなんで?彼の弟になんで喧嘩売るようなこと言ったの?」
『お前は、何になりたい。何を変えたい。何を原動力にする?』
村野の弟に伝えた言葉。
「聞こえてたよ。何になりたいとか何を変えたいとか、兄弟が死んでそんなことを考えてる余裕なんてないよ」
「……」
「あの時、不謹慎だって私に言ってたけど、あなたも十分不謹慎じゃないの?」
「……そんなことを言うために電話したのか?」
「そうじゃないけど」
「村野が僕のことを隠したのは、後ろめたさがあったからだろ。質問には答えた。もういいか?」
「……待って、もう一つだけ」
「それなら、会って答えるよ。それじゃ、ダメなのか」
「…………わかった」
返事が聞こえてすぐに電話を切る。
……これは、彼女の口車にはめられたんじゃないか?
盛大なため息をつく。
LINEを見返すと通知が六件ほど来ていた。
彼女からだ。
後で返そうとベッドで横になる。
目を閉じてみてもすぐには寝れないようで、何度も目を覚ましてしまう。
村野が僕のことを一言も話さなかった。
それはなんだか寂しいような気もしたけれど、仕方ないことなんだと言い聞かせる。
だってそうだよな。
『僕が、女じゃなくて男が好きだって言ったらどうする?』
あの時、あんなこと言わないければもう少し村野と一緒にいられた。
今年の八月だって真っ先に会おうといい出したのは、もう会えないかもしれないと思ったから。
少しでも話せる時間が欲しかった。
和解できるのであれば、和解したい。
そんな切なる願いは、叶わなかった。
『ごめん、やっぱ男と付き合うのは考えられないかも。それにほら、女子からも十分モテるでしょ?きっとまだ女子と付き合ってないからそんなこと口走っちゃうわけで』
彼の拒否反応に拒絶した。
そんなこと言わないで欲しかった。
距離を置くような声音も目も怖かった。
逃げ出したかったはずなのに、逃げるどころか距離を詰めて……。
『嫌だ。もっと考えてほしい……。お願い……』
『村野が嫌わないように最善を尽くすから』
それでも拒絶されて、言わなくて良いことさえ口にした。
『お前が、底辺校に進学した時点でわかってた。医者になる気もないんだろ。夢だけ語るなよ』
妬んで、苛立って、先のことなんて考えることもせずいいたい事だけ言って逃げた。
だから、死んだって聞いた時、時間が止まった気がした。
僕のせいだって。
本当に死ぬべきはどっちだったか。
答えは出てる。
もっと考えるべきなのは僕だった。
最善を尽くすべきなのは僕だった。
LINEを開く。
通知の溜まっていく彼女に電話をする。
「もしもし」
『珍しい。やっと出てくれた』
「別れようか」
そして、切り出したんだ。
村野に言われて、告白されていた子と付き合った。
気持ちは変わらなかった。
やっぱり、村野が良かった。
どこか違ったんだ。何かはわからないけど。
だから、ろくにデートにも行かなかったし、形だけ付き合ってることにした。
本気で好きじゃないから、キスもしなかった。
何もしなかった。
好きでもないのに時間を奪うのは、もうやめだ。
「別れてほしい。好きじゃなくなった」
「……なんで」
「君も気づいてるでしょ」
全く名前で呼ばなかったどころか、名前すらろくに覚えてない僕なんかと一緒にいても良いことはない。
「……知ってた。でも、そんな急に」
「ごめん」
「ねぇ……、じゃあ、私と付き合ってる時間、楽しかった?」
縋る様に聞こえた。でも。
「ごめん……」
答えは変わらなかった。
今更、村野の気持ちがわかった気がした。
あれでも最大限、僕のことを考えての発言だった。
そんなこともできない僕は、一番底辺だ。
底辺高がとか言っておきながら、配慮もできない馬鹿なやつが生きてる。
なぁ、村野。ほんとに死ぬべきだったのは、誰だったんだろうな。



