皆、誰かをいじめてる

 あっという間に時間は過ぎていく。
 死にたいなんて思うこともなく、ただ虚しく。
 最後の制服を着るタイミングがやってきた。
 いじめに遭うこともなく生活できたのは、佐久間やお墓に眠る村野のおかげ。
『村野が、今沢の脚本を良いって言ってくれたのは、今沢に夢があるからだろ。叶えなくてどうするんだ』
 専門学校進学を諦めようとしていた私に投げかけてくれた言葉。
 好きな人が死んで、もしかしたら本心じゃないのかもと思っていた言葉を信じることができたのは佐久間のおかげ。
「来月からは名古屋だよー。どうしよ、ちゃんとできるかな」
 体育館に向かう道中、隣の佐久間君に話しかける。
「無理でもやってけ」
「えー、ひどい。たまには遊びに来てよ。友達なんだし」
「……、わかった」
「なんか、冷たいね」
「そんなことない」
「そうかな」
「それより、本当にいくのか?」
 村野のお墓に。
 あの日から四十九日が経過して、お墓が建てられた。
 佐久間とタイミングを合わせて一度向かったけれど、道中で過呼吸になって断念。
 それ以来、一度も行っていない。
「いくよ。絶対」
 卒業式が終わり、母さんの車でお墓に向かう。
 佐久間は、多少渋っていたが無理やり乗せると緊張しているのか一言も喋らなかった。
 お花と卒業証書とアルバム。
 彼の墓の前に置く。
 あれから半年、一瞬だった。
 当たり前に村野の席に行っていたものだから、何をしたら良いものかわからなかった。
 心に空いた穴は何もしていても満たしてくれない。
 何度も死にたくなったよ。
 死にたいって気持ち、きっとあなたとは違う感情だけれど。
 焦燥感に似たものを感じてさ、どうしても会いたくなって。
 あの時、いじめられてる私なんかのために取られたものを一緒に探してくれた。
 助けてくれた。
 だから、今度は私が助けるんだって思ってた。
 でもね、違ったよ。
 助けることもできないで、あなたは死んだ。
 今でも考えるよ。
 あの時、どうしたら死なないルートを見つけられたんだろうって。
「ねぇ、卒業、しちゃったよ」
 あなたが言った言葉、信じて、進学するんだから、ちゃんと何か言ってよ……。
 あなたがいないことだけが心残りだよ。
 だけどね、いつかあなたみたいな人を救える作品を作るよ。
 ねぇ、その時はまたあの時の言葉を言ってよ。
 今度は本心で。
 目を開けて、合わせていた手を下ろす。
「いこっか、佐久間君」
「ああ。でも、良いのか?花、まだ、新しいよ?」
「いいの。どうせ、わかってる」
 クイッと体を向ければ、そこには大沢たちがいる。
 きっとその周りには村野の日記に出てきた人たち。
「やめとけ、話すのか?」
「うん。聞きたいことあるから」
「気をつけろよ」
「ありがと」
 大沢だけを借りて、少し道を逸れる。
 あの頃よく一緒にいた時に比べて、目元にはクマができて、痩せ細っていた。
「なんで、いるの?」
「ちゃんと謝ろうって思って」
「あなたは傍観者でしょ?」
「……そうかもしれない。だけど、何か言えたはずの場面で何も言わなかったのは、僕だ」
「責任感があるなら、すぐ守れば良かった」
「そうだ。だから、謝りに来た」
 制服姿の彼は、今日、私と一緒で卒業式だったんだろう。
 もう一人制服姿があったということは、その人もだろう。
「こんな花、村野君が受け取ってくれると思う?」
 手に持っていた花を彼に渡す。
「そうだよな」
「傍観者なら、傍観者らしくしてなよ」
「……僕と話してくれるのはどうして?今沢はもう、会いたくないだろ?」
「そうだけど、ひとつ気になって。……夢は、どうしたの?」
「……国公立大学にはいけた。でも、医者になって良いかはわからない。悩み続けるよ、一生」
「そっか。んー、でも、……ほどほどにしてよね」
「なんで、……今沢は僕のこと」
「言ったでしょ?あなたは傍観者。死なれたら私、また苦しくなっちゃう」
 それに。
「もう誰にも死んでほしくないよ」
 唖然とする彼に踵を返す。
 佐久間の元に戻る。
 九月の初め、大沢らと中学が同じだった平や三門は居場所を失ったのか学校には来なくなった。
 因果応報というべきか。
 目の前の墓の彼は、理不尽に居場所を奪われた。
 そんな残酷な事実をきっと他にも受けている人がいる。
 私はその人たちのために作品を書きたい。
 居場所はあるんだよって。
 いてほしいって思っている人もいるんだよって。
 あなたに死んでほしくないんだよって。
 冷静になる時間なんてないのかもしれない。
 助けを求めることなんてできないのかもしれない。
 何をしても許されないと思うかもしれない。
 全部が、無駄になるかもしれない。
 それでも、未来を信じられるような物語を作っていく。
 生きていて良いんだって思えるような、そんな作品に。