隣の席になってからはや数日、波乱のテスト期間も無事終わり……無事では全くないけれど、一悶着ついて、夏休みまで三日前となった。俺たちはずっと寮にいるから、実質休みではないのだけれど。
実家にも帰りずらいし、ずっと寮にいようかなーなんて。
「叶愛、やっほー!」
「碧くん! やっほ……!」
碧くんとの仲も日に日に良くなっていっている。それもこれも翠のおかげ。
俺といるときの碧くんはご機嫌すぎて暴走してしまうときもある。でも最近、翠の受け情報やお似合いな攻めが全然見つからない。
席替えを失敗してから、俺は運が悪すぎる。いい出会いが全然ない……。ついてないなぁ。
「あれ、叶愛?」
「翠……」
翠は日に日にモテ度がましている気がする。そんなんじゃ攻めの入る隙なんてないのに。
机に頬杖をつきながら、ぼーっと考える。最近隣に翠がいるからか、全然授業にも集中できないし。
……翠はなぜかいつも通りノートを綺麗にとっていて、俺とは正反対だ。
というか、この隣の席という状況に慣れてしまっている俺がいて怖い。俺が距離を置こうとしても翠はそれに合わせてどんどんくっついてくる。
「ねぇ叶愛?」
「え、あどうしたの?」
目の前にいる彼は、ずっと俺に話しかけてくれていたらしく、瞳がユラユラと揺れている。
無視するなんて俺……オタク失格だ。
「教科書貸してほしくて。……一緒に、見ない? 机くっつけたら叶愛も見れるでしょ?」
なんだ、そんなことか……って。ん?
「ま、待って。翠教科書持ってるじゃん? 使わないの?」
「んー……叶愛にもっと近づきたいから?」
俺より身長は高いはずなのに、俺には翠がなぜか、まだ小さな子供に見える。かと言って、これ以上くっつく訳には行かない。
「……なんで疑問形なの」
「いいじゃん。先生に忘れたって言えばいいし」
「そういう問題じゃ……」
「ダメなの?」
「うっ……」
……かわいい。俺へのねだり方を徐々に習得していっている気がする。
「い、いいよ……」
「やった」
机を翠に近づけて、教科書を真ん中に置く。
……想像以上に近くて目を見開く。オーマイガーだよほんとに。
ここ最近の翠はとてつもなく甘えたがりやになった気がする。俺に懐いてくれてるのはとても嬉しいのだが、俺の心臓は持つ気がしない。あ、変な意味じゃなくてな。
なんで俺なんだ……! と毎日思うばかり。
この前だって勝手にベッドに入ってきたり、なぜだか布団が勝手にかけられていたり。
もしかして、俺が攻めだと思われてる……? いやいやいや落ち着け。そんなことはない。俺は美形と美形のカプが好きだ。
近くてドキドキしているのを隠すように、翠から視線を逸らしながら考える。ドキドキしているっていうのは、その、推しとして、だからね? なんか特別感扱いされてる気がするけど……流石に自意識過剰すぎだ。
特別感扱いされてるんじゃなくて、翠を、俺が、特別感扱いしているから。
「叶愛! ねぇ、叶愛ってば!」
「うわっ!?」
なぜだか肩を揺らされている俺と、なぜか俺の肩を揺らしながら心配そうに見つめる翠が。
というか、授業中なのにこんな大きな声だしても怒られない……。ということは。
「もう授業終わってる!?」
「うん。帰ろ」
もうそんな時間か……。時の流れって早いなぁ。あっという間に一年がすぎて、あっという間に卒業してしまう。じゃあ、時間を無駄にしないように、絶対に翠の攻めを見つけなきゃ。じっとして待ってるだけじゃなにも起きないし。毎日毎日翠を眺めてるばかりじゃ、俺の評判が悪くなって、一緒にいる翠にも迷惑がかかるかもしれない。だから、翠が隣にいるとしても、明日からは絶対にちゃんと授業を受けよう。
……今更だけど、テストの点数が想像以上に悪かったから。そこは触れないとして、翠にできることはなんでもしたい。
翠の方を見ながら、そう決意した。
「あれ? 雨降ってない?」
「あ、ほんとだ……」
寮までの道のりは、意外と遠い。どこかに校舎と寮を繋ぐ隠し扉があるらしいのだが、そんなもの入学したばかりの俺にはわかるわけが無い。
……にしても、あの距離傘なしかぁ。うーん。
「入る、?」
「え……」
昇降口の前で、折りたたみの傘を広げながら言う翠。
あ、翠傘もってたんだ。という考えはどこかにいってしまって、翠の隣をじっと見つめる。
「濡れるよ? 入りなよ」
「え、 ──んぉ!?」
頭が回転するよりも先に、翠が俺の肩を引っ張って、傘の中に入れる。
「ちょ、なにして……」
「風邪ひかれたら困るから」
心臓の鼓動が速い。こういうところ、本当に好きだなぁと思う。優しくて気配りができるけど、表に出すと恥ずかしいからそうやって誤魔化す。俺の理想の受けだ。
「あ、ありがとう……!」
「ほら、行こ」
「うん……!」
今の状況を俺はあまり理解していない。推しと相合傘……今になって気づく。
翠はそんなこと思ってないかもしれないけど、罪悪感がありすぎて。俺も傘持ってくればよかった。
これで翠の傘に入らずに濡れてびしょびしょのまま寮の部屋に入るなんて、それの方が翠に失礼だと思う。だから、これは仕方ない。仕方ない。と、自分に何度も言い聞かせた。
「本当に、ありがとね」
同じ傘に入りながら、寮までの道を歩くけど、言葉を発したのはそれだけで。ずっと沈黙が続いていた。
とてつもなく気まづいけれど、ずっとこの時間が続けばいいのにな、なんて思ってしまうのは、推しを独り占めしてしまうのと同じかな。
翠が傘を持ってくれているけれど、俺の方が大分傘に入っていて、翠は今にも濡れてしまいそうだ。近いのは耐えきれないけど、推しが風邪を引いてしまうのは嫌だから、そっと翠を抱き寄せた。
実家にも帰りずらいし、ずっと寮にいようかなーなんて。
「叶愛、やっほー!」
「碧くん! やっほ……!」
碧くんとの仲も日に日に良くなっていっている。それもこれも翠のおかげ。
俺といるときの碧くんはご機嫌すぎて暴走してしまうときもある。でも最近、翠の受け情報やお似合いな攻めが全然見つからない。
席替えを失敗してから、俺は運が悪すぎる。いい出会いが全然ない……。ついてないなぁ。
「あれ、叶愛?」
「翠……」
翠は日に日にモテ度がましている気がする。そんなんじゃ攻めの入る隙なんてないのに。
机に頬杖をつきながら、ぼーっと考える。最近隣に翠がいるからか、全然授業にも集中できないし。
……翠はなぜかいつも通りノートを綺麗にとっていて、俺とは正反対だ。
というか、この隣の席という状況に慣れてしまっている俺がいて怖い。俺が距離を置こうとしても翠はそれに合わせてどんどんくっついてくる。
「ねぇ叶愛?」
「え、あどうしたの?」
目の前にいる彼は、ずっと俺に話しかけてくれていたらしく、瞳がユラユラと揺れている。
無視するなんて俺……オタク失格だ。
「教科書貸してほしくて。……一緒に、見ない? 机くっつけたら叶愛も見れるでしょ?」
なんだ、そんなことか……って。ん?
「ま、待って。翠教科書持ってるじゃん? 使わないの?」
「んー……叶愛にもっと近づきたいから?」
俺より身長は高いはずなのに、俺には翠がなぜか、まだ小さな子供に見える。かと言って、これ以上くっつく訳には行かない。
「……なんで疑問形なの」
「いいじゃん。先生に忘れたって言えばいいし」
「そういう問題じゃ……」
「ダメなの?」
「うっ……」
……かわいい。俺へのねだり方を徐々に習得していっている気がする。
「い、いいよ……」
「やった」
机を翠に近づけて、教科書を真ん中に置く。
……想像以上に近くて目を見開く。オーマイガーだよほんとに。
ここ最近の翠はとてつもなく甘えたがりやになった気がする。俺に懐いてくれてるのはとても嬉しいのだが、俺の心臓は持つ気がしない。あ、変な意味じゃなくてな。
なんで俺なんだ……! と毎日思うばかり。
この前だって勝手にベッドに入ってきたり、なぜだか布団が勝手にかけられていたり。
もしかして、俺が攻めだと思われてる……? いやいやいや落ち着け。そんなことはない。俺は美形と美形のカプが好きだ。
近くてドキドキしているのを隠すように、翠から視線を逸らしながら考える。ドキドキしているっていうのは、その、推しとして、だからね? なんか特別感扱いされてる気がするけど……流石に自意識過剰すぎだ。
特別感扱いされてるんじゃなくて、翠を、俺が、特別感扱いしているから。
「叶愛! ねぇ、叶愛ってば!」
「うわっ!?」
なぜだか肩を揺らされている俺と、なぜか俺の肩を揺らしながら心配そうに見つめる翠が。
というか、授業中なのにこんな大きな声だしても怒られない……。ということは。
「もう授業終わってる!?」
「うん。帰ろ」
もうそんな時間か……。時の流れって早いなぁ。あっという間に一年がすぎて、あっという間に卒業してしまう。じゃあ、時間を無駄にしないように、絶対に翠の攻めを見つけなきゃ。じっとして待ってるだけじゃなにも起きないし。毎日毎日翠を眺めてるばかりじゃ、俺の評判が悪くなって、一緒にいる翠にも迷惑がかかるかもしれない。だから、翠が隣にいるとしても、明日からは絶対にちゃんと授業を受けよう。
……今更だけど、テストの点数が想像以上に悪かったから。そこは触れないとして、翠にできることはなんでもしたい。
翠の方を見ながら、そう決意した。
「あれ? 雨降ってない?」
「あ、ほんとだ……」
寮までの道のりは、意外と遠い。どこかに校舎と寮を繋ぐ隠し扉があるらしいのだが、そんなもの入学したばかりの俺にはわかるわけが無い。
……にしても、あの距離傘なしかぁ。うーん。
「入る、?」
「え……」
昇降口の前で、折りたたみの傘を広げながら言う翠。
あ、翠傘もってたんだ。という考えはどこかにいってしまって、翠の隣をじっと見つめる。
「濡れるよ? 入りなよ」
「え、 ──んぉ!?」
頭が回転するよりも先に、翠が俺の肩を引っ張って、傘の中に入れる。
「ちょ、なにして……」
「風邪ひかれたら困るから」
心臓の鼓動が速い。こういうところ、本当に好きだなぁと思う。優しくて気配りができるけど、表に出すと恥ずかしいからそうやって誤魔化す。俺の理想の受けだ。
「あ、ありがとう……!」
「ほら、行こ」
「うん……!」
今の状況を俺はあまり理解していない。推しと相合傘……今になって気づく。
翠はそんなこと思ってないかもしれないけど、罪悪感がありすぎて。俺も傘持ってくればよかった。
これで翠の傘に入らずに濡れてびしょびしょのまま寮の部屋に入るなんて、それの方が翠に失礼だと思う。だから、これは仕方ない。仕方ない。と、自分に何度も言い聞かせた。
「本当に、ありがとね」
同じ傘に入りながら、寮までの道を歩くけど、言葉を発したのはそれだけで。ずっと沈黙が続いていた。
とてつもなく気まづいけれど、ずっとこの時間が続けばいいのにな、なんて思ってしまうのは、推しを独り占めしてしまうのと同じかな。
翠が傘を持ってくれているけれど、俺の方が大分傘に入っていて、翠は今にも濡れてしまいそうだ。近いのは耐えきれないけど、推しが風邪を引いてしまうのは嫌だから、そっと翠を抱き寄せた。

