伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く1

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 オーリン家の朝は早い。というのもお父様とお母様は早い時間に馬車に乗って学園に向かうからだ。そしてそれ故、朝食は両親とは別々に取っている。
 だからこそ、夕食の時間は余程のことがない限り全員揃って食事するのがオーリン家の決まりだ。そんな親子団らんの時間には、お父様とお母様がいつもアンリの話をニコニコと微笑みながら聞いてくれる。

 今日も夕食の時間になると食堂の定位置の席に座り食事が始まる。フレッドやジーヤ、ディルべーネはそれぞれの主人の近くに立ち、いつでも紅茶を淹れたり要望を聞けるように待機している。

 黙々とフォークやナイフを動かし食事を口に運ぶが、内心では隣の空席に置いてある”それら”の話をいつ切り出そうかと考えながらウズウズしている。

「アンリ、どうしたんだい?今日はずいぶんとソワソワしているね」

 お父様はアンリのちょっとした異変はお見通しのようで、一度持っていたフォークやナイフを置くとお父様はアンリに話を促す。だからありがたく、このタイミングを使わせてもらうことにする。

「実はね、プレゼントがあるの」

 フレッドやメイド達に渡した時は感じることの無かった緊張に心臓は早鐘を打っている。アンリは隣の椅子の上に置いていた包みを四つ、テーブルに優しく乗せる。それに対し二人は興味津々の様子で、中身が焼き菓子だと分かるとお母様は明らかにテンションが上がったように「まぁ!」と声を上げる。

「もしかしてアンリが作ったの?」
「うん、ルエにも手伝ってもらって作ったんだ」
「すごいわ!アンリにはお菓子作りの才能があるのね。ありがとう」
「あぁ、本当にすごい。アンリにこうして贈り物をもらうのは初めてだな。とても嬉しいよ、ありがとう」

 そんな光景を見守っていたジーヤとディルベーネにも包みを一つずつ手渡すと初めは戸惑っていたようだが、お父様が促してくれたことで二人も素直に受け取ってくれた。

「いやぁ、本当に楽しみだ」

 そんな風にお父様が言ってくれるものだから、嬉しくなったアンリは自信を持ってこう返す。

「フレッドのお墨付きだから楽しみにしてて」
「おっ、それなら余計に楽しみだな」

 食卓に笑顔が溢れる。いきなり名前を出されたフレッドも「甘く、とても優しいお味でしたよ」なんて味の感想を告げ出す。

 しばらくしてその場が落ち着いた頃、アンリはクッキーの包みと一緒に置いていたプリントを取り出しお父様に差し出す。

「お父様。これも書き終えたのだけど、今渡しても良い?」
「あぁ、構わないよ。急がなくて良いと言っていたが、ずいぶん早くに書き上げたんだね」
「理事長室を出た後、みんなで考えたの」
「そうか、でも大変だっただろう?特に活動内容のところは」
「うん、他の箇所はすぐに書き終えたのだけど、活動内容だけは中々決まらなくて」

 そんな会話をしていると、理事長室での一幕を知らないお母様はアンリとお父様の会話の意味が気になっている様子だ。

「ちょっと二人で話し込んじゃって何の話?私にも教えてちょうだい」
「あぁ実は今日アンリ達が私の部屋に来たんだ。そこでクラブを作りたいと言ってきてね」
「クラブ?素敵じゃない。それでどんなクラブなの?」
「それが、その時はやりたいことは決まってないと言ってきたんだ」
「え?」
「ほら、君も知っての通りクラブを作ると別館の部屋が活動部屋としてもらえるだろう?それが目的だったらしい」
「まぁ面白い理由ね。それを言い出したのはクイニーくんかしら」
「うん、よく分かったね」
「クイニーくんとは私達も長年の付き合いだもの。それくらい想像が付くわ」

 そうクスリと笑うと書類に目を通していたお父様に続いて、お母様の視線も書類に向く。

「さて、アンリ達はどんな活動内容にしたのかな」

 そう言いながらお父様の視線はプリントの中間辺り、活動内容が書かれている辺りを目で追っている。そして読み終えたのか、プリントから目を離したお父様の目は孤を描いている。正直プリントを渡すまで、本当にこれでいいのかと内心不安でいっぱいだったが、その表情を見る限りだと大丈夫なのだろうか。

「やりたいことをやる、やりたくないことは無理強いしない、か。うん、良いじゃないか」
「本当?具体的な内容は何も書いていないのだけど…」
「これでいいさ。本来クラブはそこに所属する仲間が自分たちの好きなことを極めたり共有する場だからね。ってことで、この書類は預かってしまうよ」
「うん、ありがとう」
「ちなみにアンリ、クラブを作って最初にやりたいことは決まったのかい?」
「え?あ、えっとそれがね、私達のもらったお部屋ってとても広いでしょう?」
「そうだね、別館で一番広い部屋だからね」
「それで、話の流れでみんなで一緒にお泊り会をしたいねってなったの」
「お泊り会?」

 やはり言ってみたものの、いくら友達だと言っても、流石に男女が一晩を過ごすなんて両親は許してくれないだろうか。

「友達同士でお泊り会だなんて素敵じゃないの!」
「え、良いの?」
「あぁ、せっかくの機会だ。行ってきなさい」

 そんな風に言う二人はアンリの心配なんて吹き飛ばす程、優しい表情を向けてくれている。

「それでそのお泊り会はいつあるの?」
「それが次のお休みの日にすることになったの」
「そうか。それじゃあアンリ、その日は思いっきり楽しんでくること、良いね?」
「うん!お父様、お母様ありがとう」