伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く1

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 別館から本館の最上階にあるラウンジに向かうと、そこには誰も居ない。昨日の昼間、あんなに女学生に囲まれた場所と同じ場所だとは思えない。

 ラウンジでは既に夕食が用意されていて、そのまま席に座り料理を堪能する。
 夕食はいくら貴族専用のラウンジだったとしても、学園のメニューだし学食のような簡単に作れる料理が出てくるのだと思っていた。だが実際はホテルの夕飯で提供されそうな、一つ一つ丁寧に作られた創作料理だ。これを直前の予約で食べさせて貰えるって、なんて贅沢なんだろう。

 食後の紅茶まで飲みきると、すっかり暗くなってしまった空の下を歩いて別館に戻る。夜の学園は昼間と違って本当に静かだが、等感覚に置かれた電飾がオレンジ色の綺麗な光を放つためとても綺麗だ。

 そのまま部屋に戻る前に別館の一階にある大浴場を利用し、一日の疲れをのんびり落とす。きっと今頃、男湯では三人でワチャワチャと楽しんでいるんだろうけど、女湯はアンリ一人だ。こんな広いお風呂に一人というのも寂しい気がするけれど、全く知らない女学生と入浴することを想像すると丁度誰も居ないタイミングで入浴できて良かった。

 制服から寝間着のワンピースに着替え部屋に戻ると既に寝間着姿の三人は入浴を済ませ各々の時間を過ごしていた。

「お待たせ」
「あ、アンリちゃんお帰り~」
「よし、じゃあアンリも帰ってきたことだし、そろそろ横になるか」
「あ、そう言えば寝室はダブルベッドが二つだったよね。どこで寝る?」
「あ?俺らはこっちで寝れば良いだろ。そのためにザックも俺らに布団を取りに行かせたんだろうし」
「えぇ、私達は適当に寝るしアンリ様はベッドを使うと良い」
「え?そんな、みんなに悪いよ」
「悪いも何も、どうせベッドが足りないんだ」
「じゃあせめて二つベッドがあるんだし、もう一人だけでも寝室で寝れば良いじゃん」
「あ、じゃあ僕が一緒に寝る~」
「止めとけ。いくらミンスとは言っても、アンリ様は女性なんだぞ?」
「そんなの分かってるよ。でも別に良くない?」
「私もミンスくんと一緒で全然いいよ?」
「アンリ様はもう少し自覚を…。何よりミンス、お前は私達と大人しくこっちで寝るんだ」
「え~」

 クイニーとザックはスタスタと眠る支度を始める。最後の最後までミンスは寝室で「アンリちゃんと一緒に寝るの」と粘っていたが、最終的にクイニーに連行されていった。

 なんだか申し訳ない気持ちのまま屋敷のベッドより固めのベッドに入り込むが、いつも眠る前に「おやすみなさい」と声を掛けてくれるフレッドの姿が無い事に途端に違和感を感じる。
 さっきまでは楽しくて寂しさを感じなかったが、その分、一人になると反動が来てしまう。そんな寂しさをぶつけるように隣の部屋に向かって「おやすみ!」と叫んでみると、笑いながらも三人は「おやすみ」と返してくれた。

 いつもとは違う部屋のベッドは落ち着かずに寝付けないかと思っていた。が、体は一日遊んだ分、しっかり疲れが溜まっていたようで瞼はどんどん重たくなった。