数百人は余裕で入れるほどの大講堂。まるでヨーロッパのオペラハウスだ。ここが入学式を行なう会場らしい。
一階には固定式の椅子がビシッと並び、周辺の壁を百八十度囲うように個室が付けられている。そんな個室は二階、三階とあるのだが、アンリはなぜかクイニーと二階の一室で並んで座っていた。
一階の椅子は一般的な劇場や映画館にあるような赤い椅子だが、個室の椅子は革製でボタン留めがされているチェスターフィールドソファーだ。そんなソファーはアンリの体を包み込むのには丁度良く、隣に置かれたローテーブルにはボトルとグラスまで置かれている。
一階に視線を落とせば、前方にはストライプのネクタイを巻く学生が、後方には無地のネクタイの学生が座っている。
フレッドは一目で階級が分かるようにネクタイの柄が決まっていると言っていたが、ネクタイで見分けなくても一目瞭然だ。
なぜなら前方に座る貴族階級の子息や令嬢と思われる学生は後方に座る学生と制服が同じでも髪を綺麗に結っていたり巻いていたり化粧をしている。それに身に付けている装飾品がアンリの目でも高価な品だと分かる物ばかりだ。そんな彼らと違い、労働者階級の学生は化粧っ気も薄く、装飾品の類いは身に付けていない。
だが、改めてなぜアンリはここに座っているのだろう。貴族階級の学生全員に個室が用意されているのなら分かるが、一階にはストライプ柄のネクタイを巻いた学生が大勢座っているのだ。
「ねぇクイニー」
「ん、なんだ?」
「どうして私達は一階の席じゃないの?」
「なんだ、そんな事か。伯爵家の俺らがここに座らずに、どこに座るんだよ」
「だから一階に座れば良いじゃない」
「はぁ、お前には伯爵家の娘だという自覚はあるのか?」
呆れたようにクイニーは言うが、アンリにはいまいち分からない。確かこの個室に入るとき、扉にはアンリとクイニー、両家の名がドアプレートに書かれていた。まるで初めからこの部屋はアンリとクイニーのために用意されていたかのように。
だからって、どうして伯爵家だから高待遇なのかなんて分かるわけもないし、昨日まで階級制度なんて存在しない世界で生活していたのに、これが当たり前だという風に言われても理解できない。
頭を悩ませていると、クイニーはいまいち腑に落ちない表情を浮かべるアンリに呆れながらも再び説明し出す。
「良いか?一階は主に子爵と男爵、それから後ろの方に座っているのが労働者階級の奴らだ。そしてここのロイヤルボックスは伯爵と侯爵の家の奴らが座る席だ」
「それ、わざわざ分ける必要あるの?」
「はぁ、めんどくせぇな。とりあえず当たり前の事なんだ。いちいち説明するような事じゃない。金が無ければパンや服は買えない、それと同じで当たり前の事なんだよ」
「ふーん…」
クイニーが説明してくれること自体はアンリにとってはありがたい事だが、言葉の節々に呆れとイラつきが見え隠れするクイニーにそれ以上深く聞く気にはなれず、大人しく入学式が始まるまで待った。
入学式はこんなに豪華な会場でやっているくせに、特別な事は何もない。学園長の話や校内の説明、最後に生徒会長からの話、それで終了だ。
入学式後はそれぞれ教室に向かう事になった。教室はレベルごとに分けられているようで、よく分からないまま案内された教室で適当に一番前の席に座る。パッと見たところ、この教室には労働者階級の学生はいない。全員、アンリと同じストライプ柄のネクタイを巻いている。
ちなみにクイニーとは違うレベルだったらしく、軽く挨拶をすると別の教室へ向かっていった。
教室に学生が集まり全員が席に着いた頃、タイミングを見計らったようにやって来た事務科のスタッフだと名乗る男が話を始めた。
前に立つスタッフの話は様々な手続きや明日以降のこと。最後に学園についての決まりを三つ。
一つは学園に通う一人として、そして貴族として家柄を背負っている自覚を日々持って生活すること。二つ目は殺人や密売、法を犯すことは絶対にしないこと。ここまでは普通のことだ。
だがアンリが引っかかったのは最後の一つ。この教室に居る貴族階級の学生には関係ない話だがと前置きを置いたスタッフは、貴族階級の者に制限区域は無いが、労働者階級の者は最上階フロアと別館への立ち入りが禁止されていると言う。
正直、身分でなぜ行ける場所が限られてくるのか、いまいち分からない。だが恐らくクイニーに言われた通り、この世界では当たり前の事なんだろう。アンリはひとまず深く考えずに聞き流した。
一階には固定式の椅子がビシッと並び、周辺の壁を百八十度囲うように個室が付けられている。そんな個室は二階、三階とあるのだが、アンリはなぜかクイニーと二階の一室で並んで座っていた。
一階の椅子は一般的な劇場や映画館にあるような赤い椅子だが、個室の椅子は革製でボタン留めがされているチェスターフィールドソファーだ。そんなソファーはアンリの体を包み込むのには丁度良く、隣に置かれたローテーブルにはボトルとグラスまで置かれている。
一階に視線を落とせば、前方にはストライプのネクタイを巻く学生が、後方には無地のネクタイの学生が座っている。
フレッドは一目で階級が分かるようにネクタイの柄が決まっていると言っていたが、ネクタイで見分けなくても一目瞭然だ。
なぜなら前方に座る貴族階級の子息や令嬢と思われる学生は後方に座る学生と制服が同じでも髪を綺麗に結っていたり巻いていたり化粧をしている。それに身に付けている装飾品がアンリの目でも高価な品だと分かる物ばかりだ。そんな彼らと違い、労働者階級の学生は化粧っ気も薄く、装飾品の類いは身に付けていない。
だが、改めてなぜアンリはここに座っているのだろう。貴族階級の学生全員に個室が用意されているのなら分かるが、一階にはストライプ柄のネクタイを巻いた学生が大勢座っているのだ。
「ねぇクイニー」
「ん、なんだ?」
「どうして私達は一階の席じゃないの?」
「なんだ、そんな事か。伯爵家の俺らがここに座らずに、どこに座るんだよ」
「だから一階に座れば良いじゃない」
「はぁ、お前には伯爵家の娘だという自覚はあるのか?」
呆れたようにクイニーは言うが、アンリにはいまいち分からない。確かこの個室に入るとき、扉にはアンリとクイニー、両家の名がドアプレートに書かれていた。まるで初めからこの部屋はアンリとクイニーのために用意されていたかのように。
だからって、どうして伯爵家だから高待遇なのかなんて分かるわけもないし、昨日まで階級制度なんて存在しない世界で生活していたのに、これが当たり前だという風に言われても理解できない。
頭を悩ませていると、クイニーはいまいち腑に落ちない表情を浮かべるアンリに呆れながらも再び説明し出す。
「良いか?一階は主に子爵と男爵、それから後ろの方に座っているのが労働者階級の奴らだ。そしてここのロイヤルボックスは伯爵と侯爵の家の奴らが座る席だ」
「それ、わざわざ分ける必要あるの?」
「はぁ、めんどくせぇな。とりあえず当たり前の事なんだ。いちいち説明するような事じゃない。金が無ければパンや服は買えない、それと同じで当たり前の事なんだよ」
「ふーん…」
クイニーが説明してくれること自体はアンリにとってはありがたい事だが、言葉の節々に呆れとイラつきが見え隠れするクイニーにそれ以上深く聞く気にはなれず、大人しく入学式が始まるまで待った。
入学式はこんなに豪華な会場でやっているくせに、特別な事は何もない。学園長の話や校内の説明、最後に生徒会長からの話、それで終了だ。
入学式後はそれぞれ教室に向かう事になった。教室はレベルごとに分けられているようで、よく分からないまま案内された教室で適当に一番前の席に座る。パッと見たところ、この教室には労働者階級の学生はいない。全員、アンリと同じストライプ柄のネクタイを巻いている。
ちなみにクイニーとは違うレベルだったらしく、軽く挨拶をすると別の教室へ向かっていった。
教室に学生が集まり全員が席に着いた頃、タイミングを見計らったようにやって来た事務科のスタッフだと名乗る男が話を始めた。
前に立つスタッフの話は様々な手続きや明日以降のこと。最後に学園についての決まりを三つ。
一つは学園に通う一人として、そして貴族として家柄を背負っている自覚を日々持って生活すること。二つ目は殺人や密売、法を犯すことは絶対にしないこと。ここまでは普通のことだ。
だがアンリが引っかかったのは最後の一つ。この教室に居る貴族階級の学生には関係ない話だがと前置きを置いたスタッフは、貴族階級の者に制限区域は無いが、労働者階級の者は最上階フロアと別館への立ち入りが禁止されていると言う。
正直、身分でなぜ行ける場所が限られてくるのか、いまいち分からない。だが恐らくクイニーに言われた通り、この世界では当たり前の事なんだろう。アンリはひとまず深く考えずに聞き流した。

