伯爵令嬢になった世界では大切な人に囲まれ毎日が輝く1

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「着きましたよ」

 今日の外出は家の馬車ではなく、いわゆるタクシーのような形で運用されている民用馬車に乗り、フレッドと二人、向かい合うように座った。
 と言うのも本来は屋敷ごとに御者が雇われ、どこかへ行っても主人が戻るまで御者が責任を持って馬車を見ているのだが、今のオーリン家には御者がいない。どうやらアンリがこの世界に来る少し前までは専属の御者が雇われていたようだが歳を取り、思うように体が動かなくなったため仕事を辞め田舎へ帰ったらしく、新たな御者を雇うまでの期間、アンリの外出の際にはフレッドが御者の代わりとして馬車の運転をしていたらしい。

 フレッドは屋敷の馬車で行けないことを何度も謝っていたが、アンリからしたら移動中に話し相手が居てくれるのは素直に嬉しい。それに何ともないような顔をしているが、昨日朝から一日ずっと動き回ってくれていたフレッドには少しでも休んで欲しかった。だからこうして民用馬車で出掛けられて良かったと改めて思う。

 目的地に到着すると御者がドアを開けてくれる。フレッドはアンリの手を取り、馬車から降ろすと御者に代金を支払う。

「わぁ素敵」

 馬車を降りた先にはレンガ造りのブティックがたくさん並んでいる。服屋だけでなく、装飾品店や本屋、カフェやレストランなんかが並んでいて、通りにはオシャレをした令嬢、執事と共にシルクハットを被った紳士が優雅に歩いている。

「せっかくの機会ですし、色々と見て回りましょう」
「うん!」
「まずはどこから見ますか?」
「うーん…、この辺りってすごく高そうな雰囲気のお店ばかりだよね」

 どこを見ても店構えからして、明らかに高級店ばかりだ。学園に行く途中、馬車の中から見えるお店とは雰囲気が違う。だからこそ見た目は貴族でも心は庶民のアンリには簡単に足を踏み入れづらい。

「ここら辺の店舗は貴族の方をターゲットにされているからだと思いますよ」
「そうなの?」
「えぇ、そもそも貴族の方が自ら買い物に出掛けるのは、自身の装飾品を買いに行かれる時や外食を楽しまれる時くらいです。ですから貴族の方がお出かけになる店舗は手間が掛からないように、なるべく周辺に集められているんです」

 中々どの店舗に入るのかを決められないアンリにフレッドは「百貨店に入ってみますか?」と提案した。

 白と青のレンガ造りの大きな建物が百貨店だった。百貨店と言われて日本で全国展開されているようなショッピングセンターや駅前のデパートを想像していたアンリは外観の豪華さに驚く。

 円形に設計された店内に入ると中央は吹き抜けで天井のドームにはステンドグラスが張り巡らされ、カラフルな光が降り注いでいる。
 一階は主に化粧品や香水の専門店が並び、ドレスを着た同じ年頃のご令嬢が吟味している。上階には衣服や装飾品、小物類が売られる店舗が並んでいるようだ。