「あ、そうですよね。えっと……その時、いろいろ置いてくれた袋の中に電話帳が入っていたんです。そこに名前が書かれていてページをめくらせてもらって、電話をかけた次第です。失礼だと思うんですけど……」
「いえ、そうでしたか。それで……私になにかご用ですか?」
電話越しから聞こえてくる学生らしき若い声がだった。
「…あ、今どこですか?」
「え? なんで」
「なにか話したいことがあれば、直接話した方が早いかなと思いまして」
さやかは電話越しから聞こえてくる男の子の声に問いかける。
「あ……そうですね。できれば、そうして頂いた方が助かりますが……今からでも大丈夫ですか? ご都合とかは……?」
男の子はさやかの様子を伺うように、少し声を落として聞いてきた。
「あっ、大丈夫ですよ。私今上野の方にいるんですけど……そちらはどこにいますか?」
電話で話しながら、止めていた足を一歩踏み出して駅の方へ進んでいた。
「……え? 俺も今上野にいるんですよ。どのあたりですか?」
「へぇ? そうなの?」
さやかは驚いたように目を丸くし、再び足を止めた。
「……私は上野駅に向かっている最中で」
今いる場所を聞かれても、どう伝えたらいいか分からず、言葉に詰まる。
だが、男の子は詳しく聞こうともせず、「あ、そうですか」とだけ言い、数秒黙った。
「……でしたら、上野駅で待ち合わせしませんか?」



