四人法

 みんな速足で通り過ぎていった。

 ――怖い。結局みんな、他人だ。

 他人よりも自分の身が大事。

 きっと心の中では「関わったら面倒」とか「後始末が大変」って思っているのだろうな。

「離してよ!」

 さやかが大きな声で叫んだ瞬間、その声とに重なるように、誰かが彼氏の手首を掴んだ。

「……あの…何してるんですか。嫌がってますよね。それ、見えませんか」

 彼氏の腕を掴んだその人にさやかは目を向けた。

 その人は、休日だというのに仕事だったのだろうか。

 スーツに青いネクタイ。

 黒く短い髪、整えられた眉、丸い眼鏡――

 鋭い目つきは、威圧感すらある。

「はぁ? 嫌がってなんかないだろ。こいつが俺に不愉快な態度を取るからだよ。お前には関係ないだろう」

 彼氏はさやかの肩から手を離し、目の前の男に詰め寄った。

「……あなた、本当に自分本位なんですね。この子はあなたを操る道具でも、所要物でもない。彼女ははまっすぐに想いを伝えているのに、あなたは自分しか見てない」

 その男は、静かに、それでも強い意志を込めて言葉を投げた。

「…っ、めんどくせ。勝手にしろよ。じゃあな、さやか」

 彼氏は舌打ちをして踵を返し、その場を去った。

 呆然としたまま、さやかは彼氏の後ろ姿をただ見つめていた。

「…あの、大丈夫ですか?」