四人法


 学校に行こうと歩いている暖に、さやかは声をかけた。

「暖!」

「さやかさん?」

「……なんかあった?」

 さやかは午後から仕事のため、買い物に出かけるところだった。

「なんで」

 暖は首を傾け、不思議そうに聞き返す。

「なんとなく。暖って悩んでる時、目を細める傾向あるでしょ。だから」

 さやかはエコバックを持ったまま、暖の目をじっと見つめた。

 さやかは少し目を合わせてから、ふっと逸らし、また見返した。

「……いや…まだ言えないけど。…悩んではいる」

「私たちには言えないこと?」

「うん。まだ……」

 さやかはエコバックを持ち直し、暖の左隣を歩きながら、ふと問いかけた。

「暖さ、楽しい? 最近」

 風が強く吹き、さやかの髪がうねって口元にかかった。

 髪を口に入りそうなのを手に取った。

 暖は髪を手で払いながら、まっすぐ前を見て答える。

「…うん。俺はこの生活、気に入っている。さやかさんは? 楽しい?」

「私も楽しいよ。この生活があるから仕事頑張れるし」

 ちょうど、道が左右に分かれていた。
 
 さやかは右へ、暖は左へとそれぞれ歩き出した。

 暖は別れた後、何か胸に引っかかるものを感じて立ち止まる。

「……さやかさん。本当にそう思ってるのかな」

 暖は首を傾げながら振り返り、さやかの背中を見つめる。

 その背中はどこか小さく見えた。

 さやかはうっすらと笑いながらも、視線を落とし、愛想笑いのように下を向いていた。

 本当はさやかは何かを考えてるんじゃないのか――暖はそう感じていた。

 それは、暖自身も同じような思いを抱えているからこそ、わかることだった。

「……っ…学校行くか」