学校に行こうと歩いている暖に、さやかは声をかけた。
「暖!」
「さやかさん?」
「……なんかあった?」
さやかは午後から仕事のため、買い物に出かけるところだった。
「なんで」
暖は首を傾け、不思議そうに聞き返す。
「なんとなく。暖って悩んでる時、目を細める傾向あるでしょ。だから」
さやかはエコバックを持ったまま、暖の目をじっと見つめた。
さやかは少し目を合わせてから、ふっと逸らし、また見返した。
「……いや…まだ言えないけど。…悩んではいる」
「私たちには言えないこと?」
「うん。まだ……」
さやかはエコバックを持ち直し、暖の左隣を歩きながら、ふと問いかけた。
「暖さ、楽しい? 最近」
風が強く吹き、さやかの髪がうねって口元にかかった。
髪を口に入りそうなのを手に取った。
暖は髪を手で払いながら、まっすぐ前を見て答える。
「…うん。俺はこの生活、気に入っている。さやかさんは? 楽しい?」
「私も楽しいよ。この生活があるから仕事頑張れるし」
ちょうど、道が左右に分かれていた。
さやかは右へ、暖は左へとそれぞれ歩き出した。
暖は別れた後、何か胸に引っかかるものを感じて立ち止まる。
「……さやかさん。本当にそう思ってるのかな」
暖は首を傾げながら振り返り、さやかの背中を見つめる。
その背中はどこか小さく見えた。
さやかはうっすらと笑いながらも、視線を落とし、愛想笑いのように下を向いていた。
本当はさやかは何かを考えてるんじゃないのか――暖はそう感じていた。
それは、暖自身も同じような思いを抱えているからこそ、わかることだった。
「……っ…学校行くか」



