「ちょっと聞いてくれる?」
拓がリビングにいた暖・潤子・さやかの三人に、どこか意味深な表情で声をかけた。
「え? なに。どうしたの? 病気? それかここ出ていくの?」
潤子は眉を下げて、尋問するように矢継ぎ早に問いかけた。
「潤子、落ち着いて。出ていかないし、病気でもないよ」
拓は苦笑いを浮かべながら椅子に腰を下ろし、三人に向かって「来て来て」と手で合図を送った。
「じゃあ、なんなの?」
潤子は椅子の背もたれに手をかけ、そのまま座り込む。
「…拓さん。それって、前に俺に言っていたことですか?」
暖は思い当たるのか、頬杖をついたまま顔を上げて尋ねた。
「そう、前に暖にちょっと相談したことなんだけど。やっぱり皆にちゃんと話しておこうと思って。今、僕が塾の講師してるのは知ってるよね。実はその関係で研修があって、二週間ほど海外に行くことになったんだ。だから、その間は家を空けることになる」
やっと言えたとばかりに、拓は天井を見上げて、深く息を吐いた。
「……なんだ、そんなことか」
潤子はふっと肩の力を抜いて立ち上がり、キッチンの戸棚からコップを取り出す。
「潤子、なんだはないんじゃない? 一応、日本を出るんだよ、僕。ちょっと心配してよ」
拓は口を尖らせて、少し拗ねたように言った。
「だってさ、拓さんが自分で決めたことなんでしょ? 私たちがどうこう言うことじゃないし。何も言えないし。ちゃんと帰ってくることが分かってるなら、応援するしかないでしょ。ねぇ、暖?」
潤子は暖の方を見ながら、軽く頷いた。
「…応援してるよ」
暖はそっぽを向いたまま、手元のスマートフォンをいじりながら答えた。
「素直じゃないなぁ」
さやかは暖の背中を軽くもたれかかり、彼の表情を伺うように覗き込んだ。



