「……気付いてたの?俺が聞いてたの」
「さっきちらっと視界に入ったんで」
「はは…隠れるの下手かよカッコ悪ー…」
何も言い返さないで隠れてたなんて臆病者みたいだなって思って、恥ずかしくて航から目を逸らした。
「何もカッコ悪くなんてないですよ。
皐月先輩は僕のこと助けてくれたから、今度は僕が皐月先輩のこと助けただけです」
「優しいな、航って」
「皐月先輩のおかげですよ。
僕がこうやって誰かのために動くようになったのは」
「……え?」
まるで、昔はそうじゃなかったみたいな言い方。
「最初に助けてくれたのは、皐月先輩でしょ?」
「アイツらは俺が入った方が早く事が済むと思って…」
「ヤンキーの先輩たちのことじゃないですよ」
航はそう言うと、俺を壁に追いやって顔の横に手をつく。
……男にされるとは思ってなかった、壁ドンってやつだ。
「本当に僕のこと、覚えてないですか?」
下から覗き込むように俺を見る航。
普段は俺が見上げてたからわからなかったけど、俺に上目遣いをしているその顔は、俺の記憶に引っかかるものがあって…
「……あっ!
おまえ……あの時の小学生か!」
身長伸びてて体格もしっかりしてるし、昔はもっと女の子っぽかったから航の男らしい顔と一致しなくて全く同一人物だと考えもしなかった。
「いやでもあの子は金髪だったけどもっとサラサラな髪で…」
「だから、染めなかったらその髪になれたんですよ。
僕先輩が気付いてくれると思ってその話したのに」
「あ、そういうこと…」
なんでその時ピンと来なかったんだ。地毛だって言ってたのに。
最初見た時あまりにも髪質が違ったから別人だと思った。だから裏庭で話を聞いてもあの子と結びつけようとしなかったんだ。
「いや…おまえデカくなりすぎだろ…」
「どうやら大器晩成型みたいで、小学生の時は平均より低かったですけど中三で一気に伸びました」
「バケモンかよ…」
「でもデカくなれて良かったです。
皐月先輩と並んでも弱っちく見えないでしょ?」
航が小学生の時は俺が屈んでたくらいだし、あの時は泣き虫だったもんな。
今俺の隣に並んでる航からは想像できない。たしかにデカくなって強そうに見える。でも。
「……弱っちくなんてねーだろ、あの頃から。
かっけぇって言ったろ」
航はきっと強くなる。そう思ってた。
あの頃と同じように航の頭を撫でてやると、航は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……ずるいですよね先輩って。
僕が嬉しくなることサラッと言うんですもん」
「本音だ」
「……恥ずかしげもなく…。
僕、初めて会ったあの日もめっちゃときめいたんですよ?」
首を傾げて可愛らしく言ってくる航。
……あざとい。たぶん、今まで会ったどの女子よりも。
「恥ずかしげもなく言ってるのはどっちだよ…。
俺なんかにときめいてるなんておかしいんじゃね」
「なんで?
僕言いましたよね、『皐月先輩の誰にでも優しいところに惚れてる』って。
優しいからあの日僕を助けてくれた。
だから僕は皐月先輩に惚れたんですよ」
「惚れたってそれ…憧れとかそういう意味じゃ…」
「違いますよ。あの元カノさんと同じです。
信じられないなら、行動でわからせましょうか?」
そこで不敵な笑みを浮かべながらずい、と近付いてきた顔に、思わず俺が反応して顔に熱が集まった。
「……先輩、顔赤」
「ちがっ…これは、いきなりで、びっくりしただけ…!」
「そうですか。
僕、先輩のことをときめかせたいので、これくらいのことはこれからもやりますから、びっくりしないように慣れてくださいね」
ニコリと笑った航は、もう隠す気はありませんと言わんばかりに俺の頭を優しく撫でた。
さすがにここまでされたらわかる。航は…たぶん俺を恋愛的な意味で好きなんだと。
でも、何故か不思議と、嫌悪感はない。むしろ……
……『むしろ』、なんだよ!!
「俺は好きとかじゃないからな!!」
「はい、わかってますよ」
「……〜っ!!」
何故だか、航の顔がめちゃくちゃカッコよく見える。いや元々イケメンなんだけど、さらにカッコよく。
それもこれもあれだ、裏庭で話した時に感じてたんだ。
〝深い意味はなくともときめいてしまっていた〟時点で。
「……もうときめいてるんだよバカ…」
「え?先輩なんか言いました?」
たぶん俺は、この先ずっと航にときめかされるんだと思う。
今はまだ確信もないし、俺ばっかで悔しいから言ってやんない。
たぶん俺が航に惚れかけてることは。
「じゃあ先輩、今度僕とデートしません?」
「展開がはえーんだよ!!」
*おわり*
