「と、いうわけで!
今年は二人、入部希望してくれました!」
後日、声をかけてくれた金髪君とそのお友達(二年の守宮の弟君)が入部を希望してくれて、一応みんなに紹介する。
「まだ仮入部です」
「あー、ごめんごめん!嬉しくてつい。
それじゃあ自己紹介いい?」
「早坂航です。
こんな頭してますが、怖くないです。よろしくお願いします」
『先輩と仲良くなりたい』と言う目的があるからか、自分から『怖くない』とか紹介しちゃって、必死で可愛いヤツ。
「オレは守宮悠人です。
そこの、悠貴の弟です」
「オレの弟だからイジメないでねー」
もう一人は緊張も全然してない自己紹介。おまけに守宮がノッてくるからガヤガヤとうるさくなる。
「私語の前に『よろしくお願いします』だろー。先輩なんだからちゃんと歓迎しろー」
「さーせん!一年生、よろしくなぁー!」
部員がみんな歓迎してくれている。
先輩たちと仲良くしたがってた早坂はさぞかし喜んでいるだろうと思ってチラッと様子をうかがった。……けど。
「……」
特に嬉しそうな顔をするでもなく、ペコッと小さく会釈をしていた。
……なんだよ、もっと喜べばいいのに。
クイ、と早坂の体操服の裾を引っ張ると、早坂は驚いたように俺を見た。
「…っ、先輩、どうしたんすか?」
「いや、全然嬉しそうに見えないから。
顔に出した方が、みんな喜ぶと思うぞ」
「……喜んでますよ、これでも」
一年生なのに三年生の俺を見下ろす早坂は、俺と目を合わせて初めて、嬉しそうに微笑んだ。
……顔に出すのが苦手なタイプかと思ったけど、そういうわけでもない、のか…?
「つーか早坂背ぇでけーよなー。
髪色も相まって圧やばすぎ!」
「髪染めんなよ〜!」
「……いや、染めてるっていうか…なんというか…」
部員たちの言葉に、早坂は困ったように頭を掻く。
……あ、こういうノリは苦手なタイプなのかも。
「あーあー、お前らもう無駄話やめ!
俺は一年生たちに話あるからお前ら自主練しとけー」
「「はーい」」
バラバラと散っていく部員たちを見届け、残った早坂と守宮弟に向き合った。
「二人はバスケ経験者?」
「いえ。中学の授業でやったくらいです」
「僕も」
「そっか。緩い部活だからそのくらいの方が俺も気楽だわ」
幼少期からクラブとか入ってるエリートだったら場違いにも程があるもんな。
俺だって、中学時代多少他より上手いくらいの実力で入って大会じゃ全然歯が立たなかったし。このくらいの方が部活としてはやりやすい。部長としては、怠慢かもだけど。
怠慢ついでに、体育館の隅で部活の説明じゃなく雑談を始めてしまう。
「二人は元々友達?」
「はい。席近くて友達になりました。
こんな頭してる一年生っすよ、めっちゃ興味出ますよね」
「ハハッ、たしかに!」
部員たちの言う通り圧がすげぇけど、入学してすぐ金髪に染めてるやつなんて気にはなるよな。
「早坂ヤンキーじゃん」
「違いますよ。染めてるわけじゃないんで」
「地毛?」
……にしては、かなり髪が傷んでるように見えるけど…。
「今は染めてますけど、もともと色はこんなです」
「へぇ〜。かっけぇな」
ニカッと歯を見せて笑うと、早坂は照れくさそうに『ありがとうございます』と呟く。
「それも本当かはわかりませんよ、地毛見たことないし」
「僕嘘ついてない!」
「まーまー!染めてる染めてないはどっちでもいいから!
まぁ金髪は目立つから、変な先輩に目ぇつけられないように気をつけろよ?」
早坂の背中をポンポンと叩いて宥める。『嘘ついてない』と怒った早坂の態度を見ても、髪のこと言われるのは好きじゃないのかも。
こういう喧嘩になりそうな空気、嫌いなんだよな。だから喧嘩に発展する前に止めちゃう。俺の体は不思議とそう動いてしまう。
自分では良いことだと思ってるけど、言いたいことを言わせず止めてしまうから悪いことでもあるのかもしれない。だから後でこっそり、早坂の言い分を聞いてあげよう。
部活の説明に入ろうと、まず準備のために使う体育倉庫へ案内する。
そこで一つ不便なことが。
「あのさ、守宮って兄もいてややこしいから、悠人って呼んでいい?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ悠人、早坂、こっち来て」
二人に手招きすると、悠人は歩いてきてくれた。でも、早坂は立ち止まったまま。
「おーい。早坂ー?」
「………」
もう一度呼んだら、やっと歩いてくれた。すごく、不機嫌そうな顔してたけど。
……俺、なんか気に障ることしちゃった?
そんな早坂が気になりつつも、一つ一つ説明していく。
「……バスケ部で使うものはだいたいこんなもんかな。
他の部活のものとかは触らないようにね。うるさい人もいるから」
「はい」
「早坂聞いてる?」
「……聞いてます」
なんか、明らかにテンション下がってね?
先輩と仲良くなりたいっつってたもんな。誰か目当ての人いたのか。俺じゃ不服なわけだ?
「俺の話つまんないだろうけど、そういうの態度に出すなよ。傷つくんですけど」
「あっ…ごめんなさい…」
「あっ、違いますよ先輩。コイツは」
「うわーっ!言わなくていいから!!」
早坂のテンション低い原因を悠人は知ってるのか、俺に伝えようとしたら早坂が全力で阻止してる。
……で、結局不機嫌な理由はなんなの。わかんねーほうが俺は困るんだけど。
「(余計なこと言うな)」
「(わかった言わねーよ)……あー…あ!
先輩、せっかくなんで、コイツのことも名前で呼んでやってくださいよ」
「あっ、てめっ…(だから余計なことを…!)」
「名前?別にいいよ。
〝航〟の方が文字数少なくて呼びやすいしな」
指を折り数えながら名前を呼ぶと、早坂は何故か顔を赤くしている。照れてるのか。先輩に名前呼ばれて照れてるのか。可愛い奴め。
「……城戸先輩って、タラシですよね」
「え、そうか?
ていうか、俺のことも名前で呼んでいいぞ。
みんな皐月先輩って呼んでるからな」
「……(やっぱタラシだ…)」
ポンポンと早坂の背中を叩いてご機嫌取りしていると、悠人が面白そうにニヤッと笑って。
「じゃあ、皐月先輩」
「は?」
悠人が俺をそう呼んだら、航が一段と鋭い視線を悠人に向けた。
「おまえなぁー!」
「ごめんってぇ」
身長の高い航が悠人の頭を掴んで揺らす。悠人、すごいヘラヘラ笑ってるけど…大丈夫なのか?
あぁ、でも。
「お前ら仲良いな」
「航かわいいですからね」
「不本意…。
僕は先輩ともこれくらい仲良くなりたいんですけど」
航が俺をまっすぐ見ながら言う。
あまりにも真剣な顔で言うから驚いた。
「おまえ……そんなに上下関係嫌いなの?」
「…………そういうことにしときます」
なんか恨みを込めた目で見られたんだけど…。
俺は『仲良くなりたい先輩』の中に入ってないのかしら。悲しい。
