「集合ーっ」
体育館の一部で部員たちを集める。
俺の声に集まってきたのは、男子バスケ部員だ。
「今日は一年生が部活見学に来るらしいからな。
サボってるとこ見せないように気をつけろよ」
「なんか今日だけ部長風吹かせてる」
「おいそこうるせーぞー」
同じ三年生でヤジを飛ばしてきたヤツにボスッとバスケットボールをぶつけた。そんな本気じゃない。戯れ合いのレベルだ。
城戸皐月、つい先日高校三年生になったばかり。そして、男子バスケ部の部長になった。
で、部長としてしっかりせねばと思っているのに、まぁ同学年のバスケ部員とはだいたい仲が良いから、こうして遊んでしまう節がある。
二年生にもそこそこ慕われてはいる。だから部長になったんだけど。
「皐月先輩大丈夫っすか?
今年の一年あんま部活乗り気のヤツいないっぽいっすよ」
「え、マジで?」
「一年に弟いるんすけど、なんかみんな帰宅部希望多そうっす」
あら。不健康な子が多いのかしら。
心の中で謎キャラを発動していると、『あと今年の一年こえーよなー』と聞こえてきた。
「なに、怖いって」
「派手なのが多いんすよ。
弟に聞いたんすけど、入学式から金髪の奴いたって」
「見た目で判断しちゃいかんでしょ!」
こら!とチョップをかますと『すんませんオカン』と返ってきた。誰がオカンや。
「はぁ〜…。まぁいいから、せめて今日は真面目にやろうな」
「オレらいつも真面目っすよ〜。皐月先輩のが不真面目なんじゃないっすか〜?」
「お、やんのかコラ」
「すんませ〜ん!」
ハハハ、と部員たちが一頻り笑った後、他の部活と同じように練習に入る。
部活見学に来た子たちに良いとこ見せて、バスケ部に入ってもらいたい。
軽くパス練したりシュート練したりしていると、体育館の入口に制服姿の子がちらほらやって来た。
「お、一年生来た」
「あの中でバスケ部目当て何人いんだろ?」
「一人でも入ってほしいよなー」
「できれば背が高いやつ」
私語するなーと注意しつつも、心の中ではみんなの意見に同意する。背が高いやつ、ほしいよな。
誰か来ねーかと念を送ってみるも、制服姿の子たちはバレー部の方に集まっていた。
……あー、最近バレーが題材のアニメが人気で流行ってるもんな。バレー部に憧れるのか。
バスケはもう今の時代じゃないってか。
しかもうちの学校はそこまで部活に気合い入ってなくてみんな緩い。あと部活は強制じゃないから運動部に入ってくれる人がまず少ない。
今年は一人も来ないかもしれないと思いながら無心でドリブルをしていると。
「バスケ部、見学していいですか?」
「…………あ、はい…」
一人、背の高い男子に話しかけられる。
だけど、その頭がキッラキラの金髪で、呆気にとられて元気な返事ができなかった。
……もしかして、さっき言ってた〝金髪の一年生〟ってコイツ?
背も高いし、結構整った顔していて目力もあって、これは後輩の言う通り、『怖い』かもしれない。
でも先輩としてナメられるわけにはいかないからな。
「キミ身長何センチ?」
「182です」
「でけー」
ついこの間まで中学生だったにしてはデカすぎる。俺172だぞ。
みんな背がデカい子ほしがってたからめちゃくちゃ優良物件だけど…
みんながほしいのは『戦力〝+愛嬌〟』だからな。金髪はちょっと怖すぎるか…。
「気ぃ悪くしたらごめんだけど、
なんでバスケ部見たい?」
「え?見たいからですけど」
「いや、バレーとか。あっちのが人集まってるでしょ」
「バスケの方がいいからですけど」
「変わってんねー。俺ら別に上手くないよ。みんな初心者で入ってきてたし」
引退した先輩の指導があってやっとマシに動けるようになっただけで、大して強くない。
今は仲の良さだけが取り柄みたいなもん。
せっかく来てもらってなんだが、見ても面白くはないと思う。
「そうですか?面白いですよ、見てるの」
「………あ、そう」
そんな、ちょっと間をあけて返事をしたのは、『面白い』と言う割に、バスケ部のみんなを見てる気がしないからだ。
……えっと…さっきから会話してる俺のことちゃんと見てるよね。まぁ目を見て話をするのは偉いけど。
バスケに興味ありそうに見えないんだが…?;
「……えっと、一応聞くんだけど、
部活入りたいと思ってる?」
「やりたいとは思ってないですけど、部活は入りたいですね」
うちは部活は自由だし、入ったところで成績に影響しないはずだけど。
やりたくないのに入りたいって、どういうこと?
「なんか動機とかあんの?
あー、変な理由でも断ったりしないから正直に教えて欲しいかな。
今の二年たちは入部した時〝モテたいから〟ってハッキリ言ってたし」
できれば動機も知っておきたいと思って、言いにくくないように冗談っぽく言ってみる。内容は冗談ではなく本当にあったことだが。
感じよく見せようとしてはにかむと、金髪の一年生は俺をじっと見てこう言った。
「先輩目当てです」
「………へ?」
「断らないんですよね?」
フッ、と口角を上げる金髪くん。
『先輩目当て』って…。
「おー、先輩との付き合いを大事にするのは良いことだと思うぞ!
たしかにうちの部は他より先輩後輩関係なく仲良いと思ってるしな!」
一匹狼タイプかと思ってたけど、意外に歩み寄ってくれるタイプだったか。そう思ったら可愛く見えて、バシバシと背中を叩いた。
「…あー…まぁいっか。先輩と仲良くなりたいのは事実だし」
「ん?」
「あの、先輩、痛いです」
「ごめんごめん」
