『やーいヘンな髪〜!
染めたらいけないんだ〜!』
『ち、ちがう…!』
『先生に怒られろ〜!』
『おーいそこのチビたち』
車が一台通れるほどの狭い道を横に広がって歩く小学生四人。
一人をいじめながら後ろ向きに歩いていた子が、前を歩いていた俺にぶつかりそうになり、その子のランドセルをポンと叩いた。
『前向いて歩かねーと危ねーぞー』
『ごめんなさーい』
ヤンチャなんだろう、謝罪の気持ちなど全然こもってない言葉を残し、俺に絡まれるのがめんどくさかったのか走って逃げてしまった。
……まったく。親はどういう教育してんだよ。
駆けていった三人の子たちの背中を目で追って頭を掻き、残っていた一人の子に向き直った。
『……大丈夫?』
さっきの会話からして、この子は三人にいじめられてたんだろう。
まるで女の子みたいな綺麗な顔してるけど、ランドセルの色が黒だったから多分男の子。
いじめられてたみたいだから、中学生の俺が話しかけたら怖いかと思って、少しでも恐怖心を与えないようにとしゃがんで目線を合わせる。
顔を覗き込むと、その子の瞳には涙が浮かんでいた。
『おーおー、大丈夫大丈夫』
俺が泣かせてるみたいになりそうだから、心の中でめちゃくちゃ焦りながらポンポンと男の子の頭を撫でる。
でも、さっきいじめられてた原因であろう、色が抜けたような白っぽい金髪に触れて、やばいと思って一回手を引っ込めた。
『……髪、触られるの嫌か?』
一応問いかけると、男の子は首を横に振った。
なのでよしよしとまた髪に触れると、男の子は潤んだ瞳で俺を見上げた。
『髪、染めてるの?』
そう問いかければまたふるふると首を横に振る。
『おじいちゃんが、外国人だから…』
『おーそっか。地毛か。道理でサラサラなわけだ』
撫でた時の髪が、ふわふわしてるけどまるで猫の毛みたいに細くて指通りも良くて、染めてたらこうはならねーだろうと思った。
『いつもあんな事言われてんの?』
『……さっきのあいつ、好きな女の子がいて、
ぼくがその子に告白されたから、急にいじめてきて…』
『はー?なんだそれ、だっせぇなー』
理由、しょーもねー。
俺に対する態度も考えて、さっきのガキの方が100悪い!と心の中の天秤が傾いて、目の前の男の子の頭をくしゃくしゃと撫で回した。
『おまえは悪くないぞ。だから泣くな。
俺のまわりにはこんな綺麗な金髪いないから、おまえかっけぇよ』
『だから自信持てよ』とポンポンと肩を叩いて、『気をつけて帰りな』と声をかけて俺も帰路についた。
───それが、5年前の話。
