花弁に宿る、君の哲学

 5月最後の土曜日。朝の光はカーテンを通り自室に淡く透き通った色を落としていた。

遥人は目を覚まし昨日の出来事について熟考していた。霧のように鮮明ではない断片的な記憶を頼りに意識の淵をなぞる。

卯月桜子。あの淡い瞳と、慈愛と妖艶に満ちた微笑み。

彼女の放った『終わっていない謎』という言葉。そして風もないのに舞い上がっていた透き通った桜の花弁の残像。五月の終わりに桜の花弁が見られた謎よりも桜子の一言一言に焦点が定まりその言葉のどこを切り取っていても現実を話していないような、とにかく現実的でないと言うことしかできない。

遥人は、それらのことが現実であったという確信が持てなかった。彼女の非現実的な美しさと、非日常的な現象は、遥人の安定していた日常からあまりにも簡単に滑り落ちそうであった。

「もし、あれが僕が見せた幻想だったら」

いつもの感傷的な快感が遥人の心に帰ってくる。しかし時がたつにつれてあの出来事が現実であると確信できると快感だけが消え行った。桜子の存在そのものが、僕の感傷という心の領域を遮断してくるような。

遥人は考えれば考えるほどに訳が分からなくなりいったん頭を整理するためベッドから立ち上がった

ベッドから立ち上がり一階へと向かう。