「起きてるよ」
いつもより少し低い声でそう答えた滝田に、
蛍里は躊躇いがちに言葉を続ける。
「あのね、前に、わたしのデスクに本を置いた
って、話してくれたの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「それって、あの本の持ち主は滝田くんで、
わたしに本を貸そうと思ってデスクに置いたって
こと?」
身を乗り出しながら、滝田の顔を覗き込みな
がら、真剣な眼差しをしてそう訊いた蛍里に、
滝田は小さく首を振った。
そして、勢いよく体を起こした。
「違うよ。俺は、たまたま折原さんのデスクの
側を通った時にあの本が落ちてたから、拾って
デスクに置いただけ。いつも、折原さんが本を
読んでるの知ってたし、折原さんのだろうと思っ
て」
やっぱり。
蛍里は、自分が予想していたことと、寸分た
がわぬことを口にした滝田に、得心した顔で頷
いた。
「そっか、そうだよね。だって滝田くん、
たまーにしか本読まないって……あの時言ってた
もんね」
月明かりの下で、少しおどけた顔をしてそう
言った滝田を思い出しながら、蛍里は笑みを向
けた。けれどその蛍里に、滝田が見せた表情は
いつになく真剣で、蛍里は急に不安になってし
まう。
何か、気に障るようなことでも言ってしまった
だろうか?
「滝田くん?」
じっと、至近距離で見つめられていることに居
心地の悪さを感じて体を逸らした蛍里に、滝田
はにじり寄った。酒の匂いが入り交じった息が、
蛍里にかかる。
「もしかしてさ、折原さんはその本の持ち主の
ことが、好きなの?」
唐突に、そんなことを訊かれて、蛍里は目を
丸くした。もしや、王子様がシンデレラを探すた
めに、街中の女性にガラスの靴を履かせて歩い
た、みたいなことを蛍里がしていると思っている
のか?
そう考えると、何だか夢があるけれど………
蛍里の場合、あの本の持ち主が“誰”かによっ
て、恋の行き先は大きく変わるに違いない。
「別に本の持ち主だから好きだとか、そういう
んじゃなくて、誰の本なのか知りたかっただけで、
ごめんね。変なこと訊いちゃって」
何となく、それ以上のことは説明し難くて困っ
た顔をした蛍里に、滝田が目を伏せる。そうして、
納得いかない顔のままで頷くと、さらに蛍里に訊
いた。
「それより、さっき五十嵐さんと俺の方見てた
よね。なに話してたの?」
滝田が蛍里を覗き込んだ。
蛍里は座敷の柱にピタリと背中をくっつけ、
これ以上逃げ場がないことに気付きながら、
ええっ?とぎこちなく笑う。
「気付いてたんだ、滝田くん」
「気付いてた。折原さんのことはいつも意識し
てるから、すぐにわかる。あ、俺を見てくれてる
なって」
さらりと意味深なことを言われ、蛍里はどん
な顔をしたらいいのか、わからなくなる。
いつもより少し低い声でそう答えた滝田に、
蛍里は躊躇いがちに言葉を続ける。
「あのね、前に、わたしのデスクに本を置いた
って、話してくれたの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「それって、あの本の持ち主は滝田くんで、
わたしに本を貸そうと思ってデスクに置いたって
こと?」
身を乗り出しながら、滝田の顔を覗き込みな
がら、真剣な眼差しをしてそう訊いた蛍里に、
滝田は小さく首を振った。
そして、勢いよく体を起こした。
「違うよ。俺は、たまたま折原さんのデスクの
側を通った時にあの本が落ちてたから、拾って
デスクに置いただけ。いつも、折原さんが本を
読んでるの知ってたし、折原さんのだろうと思っ
て」
やっぱり。
蛍里は、自分が予想していたことと、寸分た
がわぬことを口にした滝田に、得心した顔で頷
いた。
「そっか、そうだよね。だって滝田くん、
たまーにしか本読まないって……あの時言ってた
もんね」
月明かりの下で、少しおどけた顔をしてそう
言った滝田を思い出しながら、蛍里は笑みを向
けた。けれどその蛍里に、滝田が見せた表情は
いつになく真剣で、蛍里は急に不安になってし
まう。
何か、気に障るようなことでも言ってしまった
だろうか?
「滝田くん?」
じっと、至近距離で見つめられていることに居
心地の悪さを感じて体を逸らした蛍里に、滝田
はにじり寄った。酒の匂いが入り交じった息が、
蛍里にかかる。
「もしかしてさ、折原さんはその本の持ち主の
ことが、好きなの?」
唐突に、そんなことを訊かれて、蛍里は目を
丸くした。もしや、王子様がシンデレラを探すた
めに、街中の女性にガラスの靴を履かせて歩い
た、みたいなことを蛍里がしていると思っている
のか?
そう考えると、何だか夢があるけれど………
蛍里の場合、あの本の持ち主が“誰”かによっ
て、恋の行き先は大きく変わるに違いない。
「別に本の持ち主だから好きだとか、そういう
んじゃなくて、誰の本なのか知りたかっただけで、
ごめんね。変なこと訊いちゃって」
何となく、それ以上のことは説明し難くて困っ
た顔をした蛍里に、滝田が目を伏せる。そうして、
納得いかない顔のままで頷くと、さらに蛍里に訊
いた。
「それより、さっき五十嵐さんと俺の方見てた
よね。なに話してたの?」
滝田が蛍里を覗き込んだ。
蛍里は座敷の柱にピタリと背中をくっつけ、
これ以上逃げ場がないことに気付きながら、
ええっ?とぎこちなく笑う。
「気付いてたんだ、滝田くん」
「気付いてた。折原さんのことはいつも意識し
てるから、すぐにわかる。あ、俺を見てくれてる
なって」
さらりと意味深なことを言われ、蛍里はどん
な顔をしたらいいのか、わからなくなる。
