感心したように頷いて、ギシ、とベッドに腰掛
ける。蛍里はこのまま風呂へ入ろうと思ってい
たのだが、下着の入っているタンスがベッドの
横にあり、引き出しを開けられない。

 弟とは言え、拓也は成人した男性だ。
 何となく、恥ずかしい。

 蛍里はタンスの前に立ったまま、拓也を見下
ろした。

 「榊専務は若いし齢も近いから、拓也のイメー
ジとはかなり違うと思うよ。でも上司に恵まれて
るっていうのは、本当。こんな風に、家の前まで
送ってくれたり、落下物から守ってくれたり」

 うっかり、そんなことまで喋ってしまった蛍里
に、拓也が目を丸くする。

 蛍里はしまった、とばかりに目を逸らしたが、
遅かった。

 「えっ、何それ。その榊専務って人、ねーちゃ
んを庇ってくれたの?どうやって???」

 興味をそそられた拓也が、ぐいぐい訊いてくる。

 蛍里は、あああ、と心の中で頭を抱えながら、
片手で拓也を制した。

 「どうやって、って……ちょっと背後から庇って
もらっただけだってば。それより、わたしお風呂
入るから、出てってくれる?」

 ほんのり、頬を染めながらそう言った蛍里に、
拓也がふうん、と鼻を鳴らして立ち上がる。

 そうして、つかつかと部屋のドアまで歩くと、
くるりと振り返った。

 「ねーちゃん、何かあったらいつでも相談のる
から、遠慮しないで何でも話してよ。オレ、ねー
ちゃんの味方だし」

 にぃ、と得意げな笑みを口元に浮かべそう言
った拓也に、蛍里は、目をシパシパしながら頷
いた。

 満足そうに笑みを深め、拓也が自分の部屋に
戻る。相談にのるから、と、三つ下の弟に言われ
たものの、蛍里は何をどう相談すればいいのか
さえ、わからなかった。

 まだ、何も始まっていないのだ。
 それどころか、自分が惹かれているのは誰な
のか?それさえも、わかってはいない。蛍里は、
唇を噛んだ。

 会いたい。彼に会って、確かめたい。

 蛍里は、引き出しから取り出した下着をパジ
ャマの中に丸め込むと、階段を駆け下りて浴室
へ向かった。



 詩乃守人様

 そう入力したところで、蛍里の手はずっと止ま
っていた。入浴を終え、拓也が作っておいてくれ
た親子丼を食べ、すっかり緊張が解れても、頭の
中で文章がまとまらない。

 十三作目の感想の返事は、数日前に届いて
いた。けれどまだ十四作目は読んでおらず、
いつものように作品の感想から文章を書くこと
もできない。

 だからといって、今から急いで読んで、感想
を書くのも気が引けた。目的と手段が入違ってい
る気がするのだ。

 だから蛍里は正直に、彼に伝えてしまおうと
決めていた。