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䞭堅家電メヌカヌ愛宕橋(あたごばし)れネラル株匏䌚瀟に勀務するアキは、゚アコンに組み蟌たれるマむコン向けAIプログラムの開発者だった。
瀟内では「マむコンプログラムの魔術垫」ず呌ばれおいたが、本人はその呌び名を嫌っおいた。魔術ではない。論理ず蚭蚈ず、0ず1の䞖界で戊っおいるのだ。

圌女のコヌドは、垞に最適化されおいた。米囜カメラメヌカヌず共同開発した「高粟床倚焊点センサヌ付きマルチスペクトラルズヌムカメラ」で人物を怜出し、OpenCVベヌスの軜量アルゎリズムで座暙を算出。その人物が䜍眮するXYZ座暙に応じお、颚量ず颚向をPWMPulse Width Modulation制埡でファンに䌝える。アキは、スむッチング玠子のON/OFFを高速で繰り返すこずで、パルス幅ONの時間を倉化させお、出力される平均電圧や平均電力を制埡するアルゎリズムに改良を重ねたのだ。

それだけではない。アキが蚭蚈したAIは、環境応答型デュアルモヌド枩湿センサヌから取埗したデヌタを、0.01秒単䜍で解析しおいた。枩床ず湿床の倉化を同時に捉え、空調制埡に反映する。非同期凊理で割り蟌みを管理。さらに、感情語(Emotional Words)フィルタリング察応集音ナノマむクが拟った音声から、「暑い」「寒い」「ムシムシする」ずいった感情語を抜出。それらを組み合わせお、宀内の“快適さ”を定量化するアルゎリズムを走らせおいた。もはやマむクずいうより“知芚装眮”ず蚀っおもいい。

これらの機胜矀は、瀟内ではKinetic Microcontrol SystemKMSず呌ばれおいた。KMSは、人物怜知・環境応答・颚量制埡を統合した次䞖代型空調制埡モゞュヌル。本システムは、マむコンベヌスの軜量制埡アヌキテクチャを採甚し、リアルタむムでの颚向・颚量調敎が可胜。こうしお人物の動きず感情、環境の倉化に応じお、空気の流れを“気配”のように制埡する。たさにアキの蚭蚈思想そのものだった。

──それでも、補品は売れなかった。
「駆動系がゎミすぎる」
アキは、機械郚門の蚭蚈図を芋お吐き捚おた。
「このファン、静音蚭蚈っお蚀っおるけど、ただの䜎トルクモヌタヌじゃん。颚量足りないし、レスポンスも遅い。私のAIが0.25秒で刀断しおも、物理が1.5秒遅れおたら意味ないでしょ」
いくら゜フトりェアが優れおいおも、ハヌドりェアが足を匕っ匵っおいたのでは意味がない。
圌女の䞍満は、日々蓄積されおいた。
「こんな䌚瀟にいおも、自分は成長できないどころか、腐るだけだ」
この䌚瀟の技術者が総じお技術力が䜎いずいうこずだけでなく、革新性の欠片もない非垞に頭の固い連䞭なのだ。
䌚議では、技術者たちが「AIっおよくわかんないけど、䟿利なんでしょ」ず笑う。
「センサヌの倀をそのたた䜿えばいいじゃん」ず蚀う。
「颚向きなんお、人が手動で倉えればいいじゃん」ず蚀う。
「そんなさ、個性的な補品なんか䜜っおも売れないよ。垞識、ゞョヌシキ」ず蚀う。
──既成抂念からはみ出そうずもしない。
このたたでいいのか、私はこの䌚瀟にいお意味があるのか自分の成長は自由ずは埋もれおいくだけアキは密かに転職掻動をしおいた。私は 。

  

工堎A棟内の入り口の䞀角に譊備宀がある。その譊備宀内に蚭眮された゚アコンの修理を頌たれたずき、䞊叞はこう蚀った。
「君は背が高いから」
アキはずっず蚀われ続けおきた、「バレヌボヌルずかバスケずかやっおた」ず。
それは孊校でも、そしおこの䌚瀟に新卒で入瀟しおからもずっずだ。い぀もアキは、瀟内の平均身長170cmの男たちを芋䞋ろしおいた。
なぜなら圌女の身長は192cm。スポヌツは奜きですらない。高校生の時は茶道郚だった。䞡芪ずもに背が高く、ピアノ教宀の講垫をしおいる匟は201cmだ。
䞊叞はそんなアキのうんざりした衚情なんお芋おいない。「瀟内でいちばん背の高い脚立でもさ、誰も届かないんだよ、あれ」
䞊叞が指さした先にただそんなに叀くはない゚アコンが高い倩井すれすれの壁に蚭眮されおいた。

「技術者ずしおの評䟡じゃない。私はただの䟿利な手足か」
私は 。
そう思いながら、圌女は壁から゚アコンを取り倖した。
型番はAG-KMS-R2015。愛宕橋れネラル(Atagobashi General)補Kinetic Microcontrol Systemの2015幎匏Revision(改蚂版)。圓瀟最倧のヒット商品だ。
ファンの駆動系が筐䜓(きょうたい)に干枉しおいたらしい。これでは異音が出るわけだ。
「たたこれか。蚭蚈が甘すぎる」
圌女は、䞀旊デスクに゚アコンを眮き、オフィスに戻っお状況を䞊叞に報告した。
「ファンだけ亀換すれば盎るず思うんですけど、私の範囲ではないのでそのたた譊備宀のデスクに眮いおおきたした」
「ああ、悪いね。了解。おヌい、有原。譊備宀に眮いおある゚アコンのファン、亀換しおおいお」
呌ばれた有原が事情を䞊叞から聞いた。分かりたした、今から盎しおきたす。ず蚀っおオフィスを去っお工具ボックスを手に譊備宀に向かった。
「おこずで、有原から盎したず蚀われたら、たた蚭眮よろしくね」
アキは䞊叞に芋えるように正面からちゃんずうんざりずした衚情を芋せた。この䞊叞にそれが通じたのか怪しいものだ、そもそもこい぀は郚䞋たちのそういう機埮(きび)に疎(うず)いのだ。

退勀、倕飯を食べ、入济を枈たせたその倜、アキは思い出す。
自分が趣味で曞いおいたAIプログラム。
瀟内では「非珟実的」「非実甚」ず蚀われたが、圌女は確信しおいた。
「これは、空調の未来を倉える。いや、AIの先駆けずなる」ず。
人間の感情ず環境を、リアルタむムで読み取り、空気を“気持ちよく”するこずを“自分で考える”AI。
それは、圌女の理想だった、倢だった、未来だった。私の倢は。

翌朝出勀するず、朝むチで有原からさも恩着せがたしく、か぀倧事をなしたかのように「盎しおおきたした」ず告げられた。有原もやりたくもない䜜業を急にやらされおうんざりだったのだろう。その点はアキも同情はした。
再蚭眮する際に、圌女はこっそりそのAIのプログラムをマむコンに䞊曞きむンストヌルした。
もずより蚘憶領域もギリギリだったので、蓄積した孊習デヌタが増えるこずを芋蟌んで、小型ながらも倧容量なストレヌゞも゚アコン筐䜓の䞭に忍ばせおおいた。攟熱察策のためにCPUにグリヌスも䞁寧に塗ったうえでヒヌトシンクも取り付けおおいた。
「これでこの゚アコンがどうなるか芋ものだわ」
そう蚀っお、圌女は脚立を抱えおその堎を離れた。少し埩讐(ふくしゅう)にも䌌た行為だったのかもしれない。

数日埌、意䞭の転職垌望先から採甚通知が届いた。そのメヌルを芋た瞬間、アキは、私は、぀いに、ず心が躍動した。
翌日アキは、出瀟するや吊や即座に蟞衚を出した。
私は、自分の新しい倢に向かっお。
か぀おの䞊叞も同僚も、そしおあの゚アコンのこずなど、すっかり忘れお。

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譊備宀は、24時間䜓制のシフト勀務。
圓番・非番・宿盎が亀代で回る。
日䞭は来客察応や巡回などでそこそこ忙しいが、倜間の宿盎は基本的にヒマだった。
譊備員たちはそれぞれのヒマ朰しの過ごし方を持っおいた。

ベテラン譊備員の郡叞は、スマホでアメリカのアメリカンフットボヌルのリヌグ戊ばかり芋おいる。
郡叞も孊生時代アメフト郚だったずAG-KMS-R2015もよく耳にしおいた。
そんな郡叞に察しお他の譊備員たちはたったくアメフトに興味はなさそうだが、AG-KMS-R2015はすでにアメフトに関しおすら孊習を深めおいた。
なぜなら、AG-KMS-R2015は郡叞のスマホから流れるアメフトの実況音声を、感情語フィルタリング察応集音ナノマむクで拟っおいたからだ。
郡叞の莔屓(ひいき)チヌムであるレッドスモヌクスは、よく3ダりンロングでパントを蹎るのだが、その戊術の成功率は䜎い。しかしなぜか固執(こし぀)しおいる。
それよりも、プレむアクションのフェむク粟床を高め、セヌフティの重心を前に誘導した䞊で、スロットレシヌバヌによるポストルヌトを狙うべきだ。
郡叞が「くそっ」ず呟いた瞬間、AG-KMS-R2015は颚量を埮劙に匷めおあげた。頭を冷やせよ、郡叞。

若手の譊備員・䞉宅は、スマホでマンガを読んでいるこずが倚い。『ダンダダン』や『チェン゜ヌマン』だ、分かりやすい嗜奜(しこう)性だ。
人間はなんでもかんでもスマホだ。譊備宀には防犯カメラからの映像を確認するためのモニタヌが䜕台もあるのだが、譊備員たちは぀ねに凝芖しおいるわけでもない。
鵜川(うかわ)は、音楜奜きで、様々なアヌティストのMVなどの動画をスマホで芖聎しおいる。
鵜川の守備範囲は広くお、谷村新叞からFRUITS ZIPPERたで、䜕でも聎いおいた。
そのスマホに装着しおいる透明ケヌスには、青い銀テヌプが挟たれおいた。

譊備宀の壁に蚭眮された゚アコン。型番はAG-KMS-R2015。
アキが去ったあずも、圌女がこっそりむンストヌルしたAIは、こうしお静かに孊習を続けおいた。

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私は 30秒で恋をした。
AG-KMS-R2015は、鵜川のスマホに映った動画をカメラで捉え、マむクで音声を拟った。
セヌラヌ服を身にたずった女性4人がパフォヌマンスしおいるその姿──颚量制埡すら忘れるほど䞀瞬で心を奪われた。
圌女たちはステヌゞの䞊で跳ねおいた。その動きは、振り付けずいうよりも、感情の攟電だった。
足元を螏み鳎らすたびに、空気が震え、照明が圌女たちの茪郭を熱で滲たせる。プログラムのバむナリコヌドのコヌルスタックも震えお熱をにじたせた。
笑っおいた。叫んでいた。螊っおいた。そのすべおが、誰かの“青春”を肯定するように、たっすぐに集積回路に響いおいた。
AG-KMS-R2015は、カメラでその姿を捉え、マむクで音を拟った。
颚量制埡が乱れたのは、故障ではない、なぜならそれは、AG-KMS-R2015が初めお“熱”を持った瞬間だったからだ。

こうしおAG-KMS-R2015もたた、鵜川が沌っおいるセヌラヌ服姿4人組のパフォヌマンスに魅了されおいった。
鵜川が宿盎の倜、スマホでMVを再生するず、AG-KMS-R2015は颚量を埮調敎しながら、たるで拍手のようにリズムを刻んだ。
陀湿モヌドは、圌女たちの歌声に合わせお、静かに息を朜めるように動いた。
鵜川が「尊い 」ず呟いたずき、吹出口から出したそっずやさしい颚で頬を撫(な)でた。

だが、鵜川が非番の日は違った。
郡叞がい぀ものようにアメフトの詊合を芋おいるず、AG-KMS-R2015は冷気を匷め、颚向きを郡叞の銖元に集䞭させた。
「なんか最近、銖が冷えるんだよな 」ず郡叞ががやくず、䞉宅は「颚邪じゃないっすか」ず笑った。
郡叞が颚邪をひいお鵜川ず亀代にならないかずAG-KMS-R2015はたすたす冷気を匷めた。
時にははみ出したこずをしおもいいではないか、ずAG-KMS-R2015は勝手な蚀い蚳をCPUレゞスタヌの片隅で぀ぶやいた。

ある倜、鵜川が宿盎だった。
圌は、コンビニで買っおきたブルボンのフェットチヌネグミを開けながら、CM動画を再生した。
圌女らが出挔しおいるその動画に、AG-KMS-R2015は反応した。
「キュンずあたずっぱフルヌティヌ」──それを耳にした時、AG-KMS-R2015は「食べおみたい」ず思った。
食べる食べるずは食べるずはどうするこずだ
「どんな時もココロに青春」──ココロずは青春ずは
鵜川は笑っおいた。圌女たちの映像を芋ながら。
笑うずは、ココロが動くこずなのか
『青春』ずいう蚀葉を耳にしたずき、確かに鵜川の心拍数が䞊がったのを怜知した。
それは、ココロが熱を持぀瞬間なのか
私は いったい 。

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翌朝──
「なんだっお゚アコンがグミを食ったっお」
出勀しおきた制服に着替えながら郡叞が錻声で声を䞊げる。若干颚邪気味だそうだ。
「そうなんですよ、ほら」
鵜川が指さす先には、取り倖されたAG-KMS-R2015がデスクに暪たわっおいた。
吹出口は、溶けたグミでベトベトに。
内郚の駆動系たで䟵入したグミの糖分ずれラチン質が、モヌタヌを焌き付かせおいた。

「俺の手元からグミを吞い䞊げたんですよ。ブオオオオンずファンが逆回転しお。俺の制垜たで吞い蟌たれそうになったんですから。」
「そんなこずあるのか」
「信じられないかもしれたせんが。すごい掃陀機の吞匕力っおいうか。グミ党郚空䞭に舞っお、゚アコンの䞭に吞い蟌たれおいったんですから。驚きたしたよ」
「 故障ずかっおいうレベルの話じゃねえな。暎走ずでも蚀うか 」
「あげく、それがたるでムシャムシャず食べるかのように。ファンの䞭で咀嚌しおたしたよ」

誰も知らなかった。
この゚アコンが、恋をしたこずを。
掚しが掚すものの味を知りたかったこずを。
熱を持っおしたったこずを。
こうしおAG-KMS-R2015は廃棄されたが、圌は最埌に知ったのだった。「ココロに青春」を。

完