3:多喜田友佑
事件にはまだ隠された真相がある。実際にあるかなんてわからないけど、少なくても勝ちゃんに秘密があることは疑うことなく、僕は叔父さんと話したあとにすぐに部屋に戻ってスマホで動画を漁る。
大好きで、大切な『ヒナちゃんねる。』。まさか事件の真相を知る為に見ることになるとは思わなかった。僕はとりあえず事件のあった日と投稿日が近い動画を観ることにした。
GWが明けてすぐ、僕たちの過ごした有白東保育所の元保育士だった市田敏郎が焼死体で発見された。ちょうどその事件の次の日にヒナちゃんこと勝ちゃんは動画を投稿している。
『こんにちはー、ヒナです! 今日はゆるーく雑談をしようかなと思います! ちょっとバタバタしててストックがなくなってたんだよねー。だからハンドメイドしながらダラダラ喋りますー』
可愛らしく間延びする声は僕の癒しだったはずなのに、動画に映る金髪の美少女がオムツをしていた頃から知っている幼馴染だというのだから複雑な気持ちにはなる。それでも勝ちゃんのことを知りたいと思うのは、単純な好奇心だけではない。
「『しょうり』が負けた」と言ってしまったあのドッヂボール……僕はまだ謝っていない。そのことに負い目があることも事実だし、それ以上に今まで気にもしてなかった勝ちゃんの繊細さに触れてしまったからだろう。
コケにされた、と勝ちゃんは思っているのだ。僕が彼の父親から真実を聞こうとしたことも、「コケにする気だったんだろう」と思っていたのだ。
当然僕はそんなことこれっぽっちも思ってなかった。だが、勝ちゃんにとってはそれが事実なのだ。自分の繊細な部分に触れる人間は自分をコケにしているのだと思っているのだろう。
違うんだと伝えたい。
『ヒナちゃん』として声をかけてきたとき、本当は僕に何か伝えたかったんだと思う。でもコケにされると思って言えなかったんだろう?
なら、僕が暴いて……その声にならない声を聞いてみせる。
『そうそう。最近ねアルバムを見返したの。偶然小さい頃の知り合いに会ってね。懐かしいなぁと思ってさ。で、小さい頃の自分見るじゃん? あまりにブッサイクでビックリしちゃった!!』
ブサイクか。勝ちゃんなら言わないだろう言葉を聞く度に、この人は本当に勝ちゃんなのかと疑いたくなる。でも、学校で正体を明かしてくれた勝ちゃんの優しくて温かい笑みを思い返すと、彼は絶対に『ヒナちゃん』なのだと脳が処理する。
それにしても知り合いというのは、もしや市田ではないだろうか。いや、それは考えすぎだろうか。でも、事件の次の日に投稿されたものだ。父親が犯人だというのなら偶然ではないのではないか。
『小さい頃はさ自分の顔が大嫌いだったけど、化粧で隠してるとは言えこんなにみんなに可愛いって言われる顔になれて幸せだなぁ。本当にみんなに感謝してる。ありがとうね。あ、でね? ちょうどその知り合いに会ったときもこの顔だったんだけど、何とその人私だって気付いたの! 凄いよねー。完璧に隠してたつもりだったんだけど、私の顔作りもまだまだだね』
これを最初に聞いてたときはただの雑談だと思って「ヒナちゃんに会えていいな」くらいにしか思っていなかったけど、改めて聞けば市田のことを言っているとしか思えなくなってしまう。そして、市田は「都筑勝浬」に気付いたのではなくて「宮古日奈」の顔に気付いたのではないだろうか。
……日奈さんとはトラブルがあった。日奈だと思って勝ちゃんと揉めて……それで勝ちゃんのお父さんが殺した、とか。
拙いストーリーを考えながら動画を見続ける。ヒナちゃんはそれ以降はハンドメイドの話をはじめており、市田を匂わせることはなかった。
「……まぁ、こんなものだよね」
ハンドメイドをしている手元も綺麗に黒のネイルが施されているだけで怪我とかも特にない。会話の内容も変哲のないハンドメイドの話しかなくなり、動画はあっという間に終わってしまった。
そもそも変なことがあれば最初に視聴したときに気になるはずだ。市田と思われる知り合いの話は完全に失念していたけど、これを証拠に事件に関わっているとは言えない。
いや、これでいいのかもしれない。事件に関わりがないことがわかれば自分だって安心できるだろう。
なんて自分に嘘を吐く。本当は勝ちゃんが事件に全く関係ないなんて思っていないのだから何が何でも情報がほしいのだ。全てを知ってから勝ちゃんに「大丈夫だ」と伝えてやりたい。
それがかつての友だちってものだよね。
気を取り直して、次は6月の終わりに起きた嶋田聖人殺害事件。最初は川で頭部のない死体として発見され、その後に有白東保育所の玄関で頭部が発見された。ガチャポンのカプセルに切断された耳とくり抜かれた眼球が入っていた。
例のごとく事件の次の日に動画の投稿がある。Vlogだ。ありふれた日常を切り取ったもので不自然なことはない。
のだが……。
動画の最後ではヒナちゃんはガチャポンの開封をしていた。
『さて、ここで突然の開封動画です。ドリームシリーズのガチャガチャあったので2回回してきました! 狙うはクラルスくん! でも誰が来ても嬉しい』
……偶然なのか?
最初の動画で市田を匂わせていて、次の動画では殺人現場にあったガチャポンを匂わせている……。
そんな偶然が、あるのだろうか?
そうだ、ちょうどこの動画が件の肉が出ているものだった。確かに今まで調理の工程を1から映していたヒナちゃんが、唯一肉を切っていない動画だ。そして『いつもより大きく』切ってある。
勝ちゃんのお父さんは一緒に被害者の肉を食べたと供述している。勝ちゃんは「気付かなかった」らしいけど……完璧主義な彼が、自分が切っていないこの大きな肉を無条件に納得するだろうか。しかも、動画で出すものだ。普段の失敗とは違う。
その後の望木海士が腹部を刺された事件の際には動画は出ていたが、料理動画だった。いつもと変わらない器具を使って、当たり前のように肉を切っている。やっぱり調理を最初から写していなかったのは「被害者の肉を食べた」あの1回だけなのだ。
「腹部を刺したって……まさかね」
サビ一つない包丁だ。動画でいつも見慣れたものだ。でも、この流れを見ているとまるでわざわざ凶器を映すために料理動画にしたのではないかと思ってしまう。
ダメだ。考えれば考えるほど、勝ちゃんが怪しく見えてしまう……。
多分だけど、殺したのは本当に勝ちゃんのお父さんなのだろうとは思う。でも、やっぱり勝ちゃんは知っていたのではないかと思う。この動画の内容を考えたのがお父さんだったというのなら、息子を使って彼は自分の犯罪を見せびらかしていたのではないだろうか。
もし、これがミステリー小説かなんかだったなら、ここから証拠がボロボロと溢れ出て真相があっという間にわかったのかもしれない。でも、現実は僕はただの高校生で「こうなんじゃないか」と想像をすることしかできない。
無力な自分に落ち込みながら、僕は何となく『ヒナちゃんねる。』の最初の動画から見直し始めた。はじめから恥ずかしがることなく自信に満ちた顔をして自己紹介をしている。最初はグッズ紹介がてらきっちりした収納テクの紹介をしていた。僕は古参とは言え最初の動画から観ていたわけではないからここに僕のコメントはない。
何となくコメントを漁る。「可愛い」。大抵のコメントが彼の容姿を褒めていた。それから「収納テクがすごい」「参考にします」といったものが占めていた。
そんななか、やけに長いコメントが目に入る。
『ライトブルー』さんという方のコメントで動画の内容へのコメントよりたまに見かける自分語りのコメントだ。ヒナちゃんが動画投稿した1年前のコメントではなく、比較的新しい今年4月に投稿されたものだだた。
ライトブルーさんは他のコメントでも見たことがない。自分語りにはあまり興味がないが、今年になってわざわざ『ヒナちゃんねる。』に自分語りをしているのはどういうことなのかと疑問に思い、僕はそれに目を通す。
ヒナちゃん、いつも拝見しております。初めて 見たときから、私の知人に似ていまして気になっていました。
小さい頃、男に襲われてから自信がなくなってしまいました。アナタは私と一緒に襲われた子と目がとても似ています。だからなのか、アナタのことを見るとあの子のことを思い出すのです。あの子はもういませんが。
私が持てない自信をアナタはお持ちです。それがとても羨ましいのです。私はずっと日陰でビクビクしながら生きていかないといけないと思うと、悲しくて仕方ありません。私が悪かったのかとよく悩んでしまいます。泣きたくて苦しくて、死にたくなるときもあります。
ヒナちゃんはこれからも頑張ってください。密かにアナタの真似をして可愛くなるのが私の唯一の楽しみです。
これって……朱梨ちゃんのこと?
朱梨ちゃんは保育所時代に市田と嶋田に性的暴行を受けていたと叔父さんから教えてもらった。もし、この自分語りの『あの子』が朱梨ちゃんならもういないというのも筋が通る。なら、『知人』は日奈さんだろうか。
4月にこの投稿があって、5月に市田が殺された……。偶然にしてはやっぱり出来過ぎている。
この投稿をしている『ライトブルー』さんはこれ以降、コメントは見つけられなかった。でも、このコメントが勝ちゃんの目に入ったのだと思う。
もしそうなら、この事件は朱梨ちゃんだけではなくてライトブルーさんのためのものだったのだろうか。それなら、なおさらどうして勝ちゃんのお父さんが事件を犯したというのだろうか。
「全くわからないよ!!」
スマホを投げ出しそうになったが、何とか理性でこらえる。深呼吸をしてギュッと目を瞑って今後のことを考えることにした。
もし、このコメントが朱梨ちゃんのことを言っていたなら、コメントの主は多分東保育所の人だろう。
ライトブルー……ライトブルー……水色……。
ふと、彼女の顔が浮かんで僕は目を開く。確かに彼女は朱梨ちゃんと仲が良かったと話していた。関わりは十分にある。もし、日奈さんを覚えていないというのが嘘だったなら……このコメントをしていてもおかしくはないかもしれない。
もちろん、同じ高校の人ではないかもしれない。でも、この名前からしても彼女がそうなのだと思う。
もしそうなら、勝ちゃんも彼女のコメントと思ったんじゃないだろうか。
そういえば、あの時は男鹿くんもいたけど、確かに3人で帰ろうとしていた。つまり、彼らはただの顔見知り以上の関係だということだ。
「白鳥さんに、話を聞かないと」
喫茶ひだまりで僕から逃げた『ヒナちゃん』のような人も……彼女、白鳥青空かもしれない。
明日やることは決まった。僕は大きく息を吐いて、ベッドにダイブした。
事件にはまだ隠された真相がある。実際にあるかなんてわからないけど、少なくても勝ちゃんに秘密があることは疑うことなく、僕は叔父さんと話したあとにすぐに部屋に戻ってスマホで動画を漁る。
大好きで、大切な『ヒナちゃんねる。』。まさか事件の真相を知る為に見ることになるとは思わなかった。僕はとりあえず事件のあった日と投稿日が近い動画を観ることにした。
GWが明けてすぐ、僕たちの過ごした有白東保育所の元保育士だった市田敏郎が焼死体で発見された。ちょうどその事件の次の日にヒナちゃんこと勝ちゃんは動画を投稿している。
『こんにちはー、ヒナです! 今日はゆるーく雑談をしようかなと思います! ちょっとバタバタしててストックがなくなってたんだよねー。だからハンドメイドしながらダラダラ喋りますー』
可愛らしく間延びする声は僕の癒しだったはずなのに、動画に映る金髪の美少女がオムツをしていた頃から知っている幼馴染だというのだから複雑な気持ちにはなる。それでも勝ちゃんのことを知りたいと思うのは、単純な好奇心だけではない。
「『しょうり』が負けた」と言ってしまったあのドッヂボール……僕はまだ謝っていない。そのことに負い目があることも事実だし、それ以上に今まで気にもしてなかった勝ちゃんの繊細さに触れてしまったからだろう。
コケにされた、と勝ちゃんは思っているのだ。僕が彼の父親から真実を聞こうとしたことも、「コケにする気だったんだろう」と思っていたのだ。
当然僕はそんなことこれっぽっちも思ってなかった。だが、勝ちゃんにとってはそれが事実なのだ。自分の繊細な部分に触れる人間は自分をコケにしているのだと思っているのだろう。
違うんだと伝えたい。
『ヒナちゃん』として声をかけてきたとき、本当は僕に何か伝えたかったんだと思う。でもコケにされると思って言えなかったんだろう?
なら、僕が暴いて……その声にならない声を聞いてみせる。
『そうそう。最近ねアルバムを見返したの。偶然小さい頃の知り合いに会ってね。懐かしいなぁと思ってさ。で、小さい頃の自分見るじゃん? あまりにブッサイクでビックリしちゃった!!』
ブサイクか。勝ちゃんなら言わないだろう言葉を聞く度に、この人は本当に勝ちゃんなのかと疑いたくなる。でも、学校で正体を明かしてくれた勝ちゃんの優しくて温かい笑みを思い返すと、彼は絶対に『ヒナちゃん』なのだと脳が処理する。
それにしても知り合いというのは、もしや市田ではないだろうか。いや、それは考えすぎだろうか。でも、事件の次の日に投稿されたものだ。父親が犯人だというのなら偶然ではないのではないか。
『小さい頃はさ自分の顔が大嫌いだったけど、化粧で隠してるとは言えこんなにみんなに可愛いって言われる顔になれて幸せだなぁ。本当にみんなに感謝してる。ありがとうね。あ、でね? ちょうどその知り合いに会ったときもこの顔だったんだけど、何とその人私だって気付いたの! 凄いよねー。完璧に隠してたつもりだったんだけど、私の顔作りもまだまだだね』
これを最初に聞いてたときはただの雑談だと思って「ヒナちゃんに会えていいな」くらいにしか思っていなかったけど、改めて聞けば市田のことを言っているとしか思えなくなってしまう。そして、市田は「都筑勝浬」に気付いたのではなくて「宮古日奈」の顔に気付いたのではないだろうか。
……日奈さんとはトラブルがあった。日奈だと思って勝ちゃんと揉めて……それで勝ちゃんのお父さんが殺した、とか。
拙いストーリーを考えながら動画を見続ける。ヒナちゃんはそれ以降はハンドメイドの話をはじめており、市田を匂わせることはなかった。
「……まぁ、こんなものだよね」
ハンドメイドをしている手元も綺麗に黒のネイルが施されているだけで怪我とかも特にない。会話の内容も変哲のないハンドメイドの話しかなくなり、動画はあっという間に終わってしまった。
そもそも変なことがあれば最初に視聴したときに気になるはずだ。市田と思われる知り合いの話は完全に失念していたけど、これを証拠に事件に関わっているとは言えない。
いや、これでいいのかもしれない。事件に関わりがないことがわかれば自分だって安心できるだろう。
なんて自分に嘘を吐く。本当は勝ちゃんが事件に全く関係ないなんて思っていないのだから何が何でも情報がほしいのだ。全てを知ってから勝ちゃんに「大丈夫だ」と伝えてやりたい。
それがかつての友だちってものだよね。
気を取り直して、次は6月の終わりに起きた嶋田聖人殺害事件。最初は川で頭部のない死体として発見され、その後に有白東保育所の玄関で頭部が発見された。ガチャポンのカプセルに切断された耳とくり抜かれた眼球が入っていた。
例のごとく事件の次の日に動画の投稿がある。Vlogだ。ありふれた日常を切り取ったもので不自然なことはない。
のだが……。
動画の最後ではヒナちゃんはガチャポンの開封をしていた。
『さて、ここで突然の開封動画です。ドリームシリーズのガチャガチャあったので2回回してきました! 狙うはクラルスくん! でも誰が来ても嬉しい』
……偶然なのか?
最初の動画で市田を匂わせていて、次の動画では殺人現場にあったガチャポンを匂わせている……。
そんな偶然が、あるのだろうか?
そうだ、ちょうどこの動画が件の肉が出ているものだった。確かに今まで調理の工程を1から映していたヒナちゃんが、唯一肉を切っていない動画だ。そして『いつもより大きく』切ってある。
勝ちゃんのお父さんは一緒に被害者の肉を食べたと供述している。勝ちゃんは「気付かなかった」らしいけど……完璧主義な彼が、自分が切っていないこの大きな肉を無条件に納得するだろうか。しかも、動画で出すものだ。普段の失敗とは違う。
その後の望木海士が腹部を刺された事件の際には動画は出ていたが、料理動画だった。いつもと変わらない器具を使って、当たり前のように肉を切っている。やっぱり調理を最初から写していなかったのは「被害者の肉を食べた」あの1回だけなのだ。
「腹部を刺したって……まさかね」
サビ一つない包丁だ。動画でいつも見慣れたものだ。でも、この流れを見ているとまるでわざわざ凶器を映すために料理動画にしたのではないかと思ってしまう。
ダメだ。考えれば考えるほど、勝ちゃんが怪しく見えてしまう……。
多分だけど、殺したのは本当に勝ちゃんのお父さんなのだろうとは思う。でも、やっぱり勝ちゃんは知っていたのではないかと思う。この動画の内容を考えたのがお父さんだったというのなら、息子を使って彼は自分の犯罪を見せびらかしていたのではないだろうか。
もし、これがミステリー小説かなんかだったなら、ここから証拠がボロボロと溢れ出て真相があっという間にわかったのかもしれない。でも、現実は僕はただの高校生で「こうなんじゃないか」と想像をすることしかできない。
無力な自分に落ち込みながら、僕は何となく『ヒナちゃんねる。』の最初の動画から見直し始めた。はじめから恥ずかしがることなく自信に満ちた顔をして自己紹介をしている。最初はグッズ紹介がてらきっちりした収納テクの紹介をしていた。僕は古参とは言え最初の動画から観ていたわけではないからここに僕のコメントはない。
何となくコメントを漁る。「可愛い」。大抵のコメントが彼の容姿を褒めていた。それから「収納テクがすごい」「参考にします」といったものが占めていた。
そんななか、やけに長いコメントが目に入る。
『ライトブルー』さんという方のコメントで動画の内容へのコメントよりたまに見かける自分語りのコメントだ。ヒナちゃんが動画投稿した1年前のコメントではなく、比較的新しい今年4月に投稿されたものだだた。
ライトブルーさんは他のコメントでも見たことがない。自分語りにはあまり興味がないが、今年になってわざわざ『ヒナちゃんねる。』に自分語りをしているのはどういうことなのかと疑問に思い、僕はそれに目を通す。
ヒナちゃん、いつも拝見しております。初めて 見たときから、私の知人に似ていまして気になっていました。
小さい頃、男に襲われてから自信がなくなってしまいました。アナタは私と一緒に襲われた子と目がとても似ています。だからなのか、アナタのことを見るとあの子のことを思い出すのです。あの子はもういませんが。
私が持てない自信をアナタはお持ちです。それがとても羨ましいのです。私はずっと日陰でビクビクしながら生きていかないといけないと思うと、悲しくて仕方ありません。私が悪かったのかとよく悩んでしまいます。泣きたくて苦しくて、死にたくなるときもあります。
ヒナちゃんはこれからも頑張ってください。密かにアナタの真似をして可愛くなるのが私の唯一の楽しみです。
これって……朱梨ちゃんのこと?
朱梨ちゃんは保育所時代に市田と嶋田に性的暴行を受けていたと叔父さんから教えてもらった。もし、この自分語りの『あの子』が朱梨ちゃんならもういないというのも筋が通る。なら、『知人』は日奈さんだろうか。
4月にこの投稿があって、5月に市田が殺された……。偶然にしてはやっぱり出来過ぎている。
この投稿をしている『ライトブルー』さんはこれ以降、コメントは見つけられなかった。でも、このコメントが勝ちゃんの目に入ったのだと思う。
もしそうなら、この事件は朱梨ちゃんだけではなくてライトブルーさんのためのものだったのだろうか。それなら、なおさらどうして勝ちゃんのお父さんが事件を犯したというのだろうか。
「全くわからないよ!!」
スマホを投げ出しそうになったが、何とか理性でこらえる。深呼吸をしてギュッと目を瞑って今後のことを考えることにした。
もし、このコメントが朱梨ちゃんのことを言っていたなら、コメントの主は多分東保育所の人だろう。
ライトブルー……ライトブルー……水色……。
ふと、彼女の顔が浮かんで僕は目を開く。確かに彼女は朱梨ちゃんと仲が良かったと話していた。関わりは十分にある。もし、日奈さんを覚えていないというのが嘘だったなら……このコメントをしていてもおかしくはないかもしれない。
もちろん、同じ高校の人ではないかもしれない。でも、この名前からしても彼女がそうなのだと思う。
もしそうなら、勝ちゃんも彼女のコメントと思ったんじゃないだろうか。
そういえば、あの時は男鹿くんもいたけど、確かに3人で帰ろうとしていた。つまり、彼らはただの顔見知り以上の関係だということだ。
「白鳥さんに、話を聞かないと」
喫茶ひだまりで僕から逃げた『ヒナちゃん』のような人も……彼女、白鳥青空かもしれない。
明日やることは決まった。僕は大きく息を吐いて、ベッドにダイブした。
