2:多喜田友佑
ゴールデンウイークは、僕にとって特別な日だった。
推しのヒナちゃんが1周年を迎える。僕はブラックコーヒーを口にしながら配信がはじまる22時を待つ。
自分が何かするわけでもないのにこの待つ時間がやけに緊張して、何度拭いても手汗がベタついた。
宿題も風呂も終わらせて画面を睨みつけること10分、他の人たちが「こんばんは」と挨拶を打ち始めたので僕も「こんばんは」とかき込む。ヒナちゃんはいつも22時開始と言うが22時5分から登場するので、5分間はみんなとりあえず挨拶を打ち込むことにしていた。その中には「1周年おめでとう」の文字も見られる。
『こんばんはー!』
22時5分ジャスト、大好きな顔が画面の左から登場した。彼は今日は陽だまりのようなクリーム色の髪を三つ編みに結っている。同じ男とは思えない愛くるしい顔をしていて、完全に化粧で自分を作っている。
……この顔に素で似ている加山さんって凄いよな。あんな可愛い子、僕と話してくれるわけがないよ。
別の女の子のことを考え、思わず首を振る。今は推し活の時間だ、現実のことなんて考えなくていい。
『1周年迎えました! みんなありがどうね!』
嬉しそうに白い歯を見せて笑うヒナちゃんは、太陽のようだった。僕はその笑顔を見られただけで嬉しくて、心の中でスパチャを送る。ヒナちゃんはスパチャ機能を使っておらずグッズも出したことがないので、彼に貢ぐには基本的に動画を視聴するしかない。
『今日は1周年記念なので、ツブヤイターで集めた視聴者さんの質問に答えるね』
ヒナちゃんがそう言うと画面の下の方でチラリと紙が映る。どうやら質問をメモした紙を用意しているようだ。
ちなみに僕も質問を書き込んでいた。それが読まれるかはわからないが、できれば推しに僕の声が届いていてほしい。もちろん、選ばれなくてもそれはヒナちゃんの決めることだから受け入れるけれど。
『えーと、何歳ですか? うーんとね、高校2年生です。同じ人いるかな?』
同じだぁ!!
共通点があるだけで、僕は思わずガッツポーズを取る。
コメント欄には「同じ!」と喜ぶ声や「僕は社会人です」といった自己紹介などたくさんの反応が返ってきている。ヒナちゃんはパソコンに映るそのコメントにウンウンと頷いていた。その一挙一動に僕は目が離せない。
『結構高校生の方いるんだねー。会社員さんも。いや、みんな本当見てくれてありがとうね』
推しの笑顔最高ー!!
僕はヒナちゃんの横にあるコメント欄には目もくれず彼だけを見つめることにした。画面の中の彼は真っすぐにカメラを見つめ、こちらを見てくれる。まるで僕らを認知してくれているようだった。
『次の質問ね。誕生日はいつですか? えっと、10月4日です! 天使の日だよ、ぜひ覚えていってね! あとは身長体重教えてください、かぁ。身長はねー、男の人の平均くらいかな? みんなが思っているより大きいんじゃないかな。体重は秘密だよ!』
誰だ、乙女の体重なんて聞いた奴は!
いや、乙女ではないけど……でも見た目は乙女だし……でも意外と背はあるんだなぁ。
『何で女装をして動画投稿始めたんですか? うーんとね、女装は小さい頃から憧れてて趣味ではじめたんだ。動画は家族の勧めではじめました!』
僕の質問読んでくれたー!!
僕が送ったのは「女装のきっかけ」だった。やっぱり周りにはなかなかいないので純粋に興味があったのだ。もちろん、答えが何であっても気にはしなかったけど、好奇心に勝るものはないだろう。
それにしても趣味かぁ。
僕の趣味はそれこそヒナちゃんを推し活することなので、彼がその趣味を活かして動画を上げてくれていることを感謝するしかない。勧めたご家族に拍手喝采だ。
『好きなタイプはどんな人ですか? そうだなぁ、どんな僕でも受け入れてくれる人かな。やっぱり優しい人がいいよね! ちなみに彼氏彼女はいません!』
か、可愛い……! 受け入れるよ、全部!!!
それからもヒナちゃんは一問一答をしながら、時折雑談を交えて配信を終えた。
『またね! おやすみ』
彼の挨拶に僕は誰もいない部屋で1人「おやすみ」と挨拶を返す。
今日も最高に可愛かったなぁ。
ちなみにヒナちゃんは色んなSNSをしており、僕は全てチェックしている。当然か、その中に彼が明確に男だとわかるものはない。男と言っておいて女だったりして? と思うときもあって、声だって中性的だし、オーバーサイズの服を好む女性もたくさんいる。
まあ、男でも女でも可愛いからいっか。
僕の推しは今日も可愛いということで結論が出て、僕は満足して歯磨きをしに部屋を出た。
ゴールデンウイークは、僕にとって特別な日だった。
推しのヒナちゃんが1周年を迎える。僕はブラックコーヒーを口にしながら配信がはじまる22時を待つ。
自分が何かするわけでもないのにこの待つ時間がやけに緊張して、何度拭いても手汗がベタついた。
宿題も風呂も終わらせて画面を睨みつけること10分、他の人たちが「こんばんは」と挨拶を打ち始めたので僕も「こんばんは」とかき込む。ヒナちゃんはいつも22時開始と言うが22時5分から登場するので、5分間はみんなとりあえず挨拶を打ち込むことにしていた。その中には「1周年おめでとう」の文字も見られる。
『こんばんはー!』
22時5分ジャスト、大好きな顔が画面の左から登場した。彼は今日は陽だまりのようなクリーム色の髪を三つ編みに結っている。同じ男とは思えない愛くるしい顔をしていて、完全に化粧で自分を作っている。
……この顔に素で似ている加山さんって凄いよな。あんな可愛い子、僕と話してくれるわけがないよ。
別の女の子のことを考え、思わず首を振る。今は推し活の時間だ、現実のことなんて考えなくていい。
『1周年迎えました! みんなありがどうね!』
嬉しそうに白い歯を見せて笑うヒナちゃんは、太陽のようだった。僕はその笑顔を見られただけで嬉しくて、心の中でスパチャを送る。ヒナちゃんはスパチャ機能を使っておらずグッズも出したことがないので、彼に貢ぐには基本的に動画を視聴するしかない。
『今日は1周年記念なので、ツブヤイターで集めた視聴者さんの質問に答えるね』
ヒナちゃんがそう言うと画面の下の方でチラリと紙が映る。どうやら質問をメモした紙を用意しているようだ。
ちなみに僕も質問を書き込んでいた。それが読まれるかはわからないが、できれば推しに僕の声が届いていてほしい。もちろん、選ばれなくてもそれはヒナちゃんの決めることだから受け入れるけれど。
『えーと、何歳ですか? うーんとね、高校2年生です。同じ人いるかな?』
同じだぁ!!
共通点があるだけで、僕は思わずガッツポーズを取る。
コメント欄には「同じ!」と喜ぶ声や「僕は社会人です」といった自己紹介などたくさんの反応が返ってきている。ヒナちゃんはパソコンに映るそのコメントにウンウンと頷いていた。その一挙一動に僕は目が離せない。
『結構高校生の方いるんだねー。会社員さんも。いや、みんな本当見てくれてありがとうね』
推しの笑顔最高ー!!
僕はヒナちゃんの横にあるコメント欄には目もくれず彼だけを見つめることにした。画面の中の彼は真っすぐにカメラを見つめ、こちらを見てくれる。まるで僕らを認知してくれているようだった。
『次の質問ね。誕生日はいつですか? えっと、10月4日です! 天使の日だよ、ぜひ覚えていってね! あとは身長体重教えてください、かぁ。身長はねー、男の人の平均くらいかな? みんなが思っているより大きいんじゃないかな。体重は秘密だよ!』
誰だ、乙女の体重なんて聞いた奴は!
いや、乙女ではないけど……でも見た目は乙女だし……でも意外と背はあるんだなぁ。
『何で女装をして動画投稿始めたんですか? うーんとね、女装は小さい頃から憧れてて趣味ではじめたんだ。動画は家族の勧めではじめました!』
僕の質問読んでくれたー!!
僕が送ったのは「女装のきっかけ」だった。やっぱり周りにはなかなかいないので純粋に興味があったのだ。もちろん、答えが何であっても気にはしなかったけど、好奇心に勝るものはないだろう。
それにしても趣味かぁ。
僕の趣味はそれこそヒナちゃんを推し活することなので、彼がその趣味を活かして動画を上げてくれていることを感謝するしかない。勧めたご家族に拍手喝采だ。
『好きなタイプはどんな人ですか? そうだなぁ、どんな僕でも受け入れてくれる人かな。やっぱり優しい人がいいよね! ちなみに彼氏彼女はいません!』
か、可愛い……! 受け入れるよ、全部!!!
それからもヒナちゃんは一問一答をしながら、時折雑談を交えて配信を終えた。
『またね! おやすみ』
彼の挨拶に僕は誰もいない部屋で1人「おやすみ」と挨拶を返す。
今日も最高に可愛かったなぁ。
ちなみにヒナちゃんは色んなSNSをしており、僕は全てチェックしている。当然か、その中に彼が明確に男だとわかるものはない。男と言っておいて女だったりして? と思うときもあって、声だって中性的だし、オーバーサイズの服を好む女性もたくさんいる。
まあ、男でも女でも可愛いからいっか。
僕の推しは今日も可愛いということで結論が出て、僕は満足して歯磨きをしに部屋を出た。
