5:多喜田友佑
その次の日、川に遺棄されていた頭のない他殺したいの死体の頭が発見された。
有白東保育所の玄関に、花に彩られて置かれた頭の周りにはガチャポンのカプセルがあり、その中にくり抜かれた眼球と切断された耳が入った状態だった。
その保育所は……僕らが昔通っていた場所だ。
つまり、宮古朱梨ちゃんが通っていた保育所でもある。
「またバイトできねぇじゃねぇか!!」
「まあまあ、落ち着けって都筑。仕方ねぇよ、こんな物騒な事件続いてんだからよぉ」
僕の後ろの席で今日もバイトに制限を受けた勝ちゃんが苛立ちを隠せず声を張り上げていた。それを彼の友だちである男鹿くんが宥めている。
「てか俺さぁ西保育所だったからマジで焦ったわ。自分の母校っていうの? それかと思った」
「ハァ? こちとらガチで東の卒園生だわ」
「え、マジで!? 怖ぇな!!」
そう、僕らは保育所には縁がある。
そして、先月見つかった焼死体……身元が判明し、彼の名前は市田敏郎というらしい。その名前にはピンとこなかったが、僕らは全く無関係ではない。
市田敏郎は……僕らが有白東保育所に通っていた頃の、保育士だったのだ。僕自身は市田先生を覚えていないけれど、どうやら年長のときの担任の先生だったらしい。つまり、朱梨ちゃんにとっても、彼は担任だったということだ。
「友ちゃん、ボーとして大丈夫?」
「あ、うん」
後ろで騒ぐ勝ちゃんと男鹿くんの声をBGMに考え事をしていると、力が鞄を持って席まで来た。当然彼も部活は禁止され、帰宅部の僕らと同じ時間の下校を義務付けられている。
「力、ヒナちゃんのことなんだけどさ……」
「ヒナちゃん? どうしたの?」
「この高校に通ってるらしいんだ」
「え!?」
力が目をまん丸にして驚く。その様子は本当のリアクションに見える。やっぱり力はヒナちゃんではないだろう。
「どうやって知ったの?」
「ヒナちゃんから聞いたんだ」
「そう、なんだ……」
「朱梨ちゃんのことも一緒に調べた。調べたときは隠し事しているような感じではなかったけど……どうしてもスッキリしなくて。こんな偶然、あるわけないと思うんだよ」
「そうだよね……それに、保育所のことも……」
「うん」
見つかった切断死体についても、顔が見つかったことですぐに身元が判明した。
嶋田聖人という男性は、今は年金暮らしをしている人らしい。だが、その前は自らの頭が置かれた東保育所の送迎バスの運転手をしていたのだ。
つまりこれは、猟奇的犯行ではなく……かつての有白東保育所の関係者を狙った犯行だということだ。
「友ちゃん、もしかしてヒナちゃんがこの事件に関わってると思ってるの?」
「え?」
「いや、二人も東保育所の関係者が殺されて、そのときにちょうど君の目の前に死んだ女の子の母親そっくりの人が現れるって偶然にしては出来過ぎだと思うし……」
「そうだね、うん……。この事件についてかはわからないけど、ヒナちゃんは僕に何か気づいてほしいのかなって、そんな気がするんだ」
こんな必然のような出来事を偶然で片付けてしまうほど、僕の好奇心は小さくはない。
きっと、何かある。もしかしたら、ヒナちゃんは何かを伝えてたくてあの格好をしているのかもしれない……。
「東保育所トリオ!」
「!」
「その呼び方やめろや!」
僕と力が話していると、後ろの席で勝ちゃんと話していた男鹿くんが不名誉な呼び方をしてきた。僕らが幼馴染なのは周りに公言はしていないが雰囲気で察している人は少なくはなかった。男鹿くんは勝ちゃんとつるむことが多いから、よけい僕らの雰囲気を感じ取っているのだろう。
「気をつけて帰れよ! 何か無差別じゃなさそうだし」
「ありがとう。大丈夫、何かあったら勝ちゃんが守ってくれるから」
「何で俺がお前らを守らんとならねぇんだよ!」
僕の言葉に勝ちゃんが目尻をこれでもかといくらい吊り上げる。その左の頬は痛々しい火傷の痕が広範囲にあり、やっぱり化粧でこれを隠すのは無理だろう。そもそも、この性格の勝ちゃんがヒナちゃんを演じきるのも難しそうだ。
「守らなくていいけど勝ちゃん、今日も一緒に帰ろう? 狙いが保育所関係者なら僕らも警戒するに越したことはないよ」
なだめるように穏やかな声色で力が言う。それに勝ちゃんは「はぁ!?」と声を上げるが、勝ちゃんの代わりに男鹿くんがウンウンと頷いた。
「そうそう、どうせ同じ帰り道なんだろ? ちゃんと多喜田と曽田のこと守ってやれよ!」
「子守なんざしてやるか! てか、俺のことばかり言ってテメェはどうなんだよ? 一人で帰るんかよ」
「俺は今日は親父が送ってくれるってゆーから、頼んだ! 心配してくれたのか?」
「してねぇわ!」
男鹿くんが一人じゃないことを確認すると、勝ちゃんは僕らに見向きもせずにズカズカと歩き始めた。男鹿くんはすっかり彼のペースに慣れていてその背中に「じゃあな!」と明るい声をかける。それから僕らにも「気を付けてな!」と言ってくれた。
僕と力は勝ちゃんを追って玄関まで向かった。勝ちゃんは僕らが急いでついてきたことに不服そうにして唇を曲げたが、もう反抗はしてこなかった。
また三人での帰路につく。この事件がなければあり得なかった光景に、僕は不思議な感覚になる。
力とはずっと仲良くしてきた。きっとこれからもそうなんだろうと勝手に思っている。趣味嗜好と似ていて、話すペースもあい、お互いを理解していると思う。
勝ちゃんはどうだろう。いつか、かつてのように話すことはあるのだろうか。
「朱梨ちゃんの事故、交通事故じゃなかったんだね」
探りを入れるのは申し訳ないけど、やっぱり力と勝ちゃんを信じたくて僕はあの話題を持ち出した。力は瞬きを何回かして不思議そうに首をかしげる。勝ちゃんは変わらず仏頂面でじとっと僕を見た。
「そんなん俺が知るかよ」
「調べたんだよ、ヒナちゃんと」
「ヒナちゃん……?」
「友ちゃんの好きだミーチューバーだよ。最近友だちになったんだって」
「身も知らずの女と友だちかよ」
「ヒナちゃんは男なんだよ。でも、朱梨ちゃんのお母さんとそっくりなんだ」
「……だから当然変なこと聞いてきたんか」
勝ちゃんは納得したかのようにボソッと呟く。反応はあまり大きくはなく、驚きもなければ焦りも見られない。大して興味がないと言ったところだろう。
力も勝ちゃんも、ヒナちゃんではないだろう。僕は自分の直感を信じることにした。
「ねぇ、力、勝ちゃん。お願いがあるんだ」
「何?」
「は?」
「僕と、ヒナちゃんの正体をつきとめてくれないかな」
別に正体なんて知らなくてもいいかもしれない。でも、僕はこのモヤモヤする気持ちを放って置くことができなかった。
二人はパチリとお互いの顔を見た。二人が何故顔を合わせたのかはわからないが、きっと僕が変なことを言っていて困っているのだろう。
「友ちゃん、事件にヒナちゃんが関わってると思ってるからこそなんだろうけど……もし、本当に関わってたら危険だと思うよ」
「でも、もしかしたらヒナちゃんが狙われるかもしれないし」
「犯人かもしれねぇだろ」
僕が考えないようにしていた言葉を、勝ちゃんがサラッと言い放った。
そうだ、ヒナちゃんが怪しいといえば怪しい。最初の被害者と同じ喫茶店に行きつけな彼は、自分の素性を隠して活動をしている。その本当の顔を隠している理由が実は趣味ではなくて犯罪のための行為かもしれない。
「それでも、知りたいんだ……ヒナちゃんが好きだから」
彼な何者なのか。ただのファンと推しの関係なら知らなくてもいいことだった。
でも、今は知りたい。ファンとしてではなく……ただの一人と人間として興味がある。
「僕はいいよ、友ちゃん一人だったら危なそうだし」
「力……! ありがとう!」
力がメガネの奥の瞳を穏やかに細める。彼のこの優しさに、僕はいつだって救われてきた。
一方の勝ちゃんは渋い顔をしていた。当然、僕とはただの幼馴染で友だちとも思っていないのだ。
「付き合う道理がねぇ」
想像していた答えが返ってくる。当然の答えに僕は肩を落とした。
でも、そこで以外にも「でも」と声を出したのは力だった。彼は不思議と勝ちゃんには物申す事が多い。
「事件が解決したら、バイトもすぐできるかもしれないよ」
「警察に任せればいいだろ。それに犯人か決まったわけじゃねぇだろ」
「これで友ちゃんが一人で突っ走って死んじゃったらさすがに嫌じゃないの?」
「……力、時には止めることも必要だそ。友佑なんて、昔っからやめろって言っても何でもやって怪我ばかりしてたろ」
「だからついててあげた方がいいじゃないかな。……バイトが再開するまでの帰り道だけ。どうかな」
「……チッ」
勝ちゃんの中では僕は危ないことにすぐ突っ走る子供の頃から変わっていないらしい。とは言っても危ないことをしていたのは勝ちゃんも同じで、彼は木に登っても落ちないけど僕が落ちて骨折したという話なのだが。自分の能力に見合わないことをしていた僕は、勝ちゃんから危なかっかしいのだろう。
それでも力の説得のおかげで折れたのか、深い溜息をつくと僕をギロリと睨んだ。
「危ねぇことすんなよ、へっぽこ野郎」
「当然!」
「あはは、友ちゃん返事だけは昔からいいんだよね」
かくして僕は二人の仲間を得て、ヒナちゃんの正体を探ることになった。
できることなら事件とは無関係であることを願いながら、それでもそんなことはあり得ないと感じながら。
宮古朱梨の母親は何者なのか。ヒナちゃんは何者なのか。
その次の日、川に遺棄されていた頭のない他殺したいの死体の頭が発見された。
有白東保育所の玄関に、花に彩られて置かれた頭の周りにはガチャポンのカプセルがあり、その中にくり抜かれた眼球と切断された耳が入った状態だった。
その保育所は……僕らが昔通っていた場所だ。
つまり、宮古朱梨ちゃんが通っていた保育所でもある。
「またバイトできねぇじゃねぇか!!」
「まあまあ、落ち着けって都筑。仕方ねぇよ、こんな物騒な事件続いてんだからよぉ」
僕の後ろの席で今日もバイトに制限を受けた勝ちゃんが苛立ちを隠せず声を張り上げていた。それを彼の友だちである男鹿くんが宥めている。
「てか俺さぁ西保育所だったからマジで焦ったわ。自分の母校っていうの? それかと思った」
「ハァ? こちとらガチで東の卒園生だわ」
「え、マジで!? 怖ぇな!!」
そう、僕らは保育所には縁がある。
そして、先月見つかった焼死体……身元が判明し、彼の名前は市田敏郎というらしい。その名前にはピンとこなかったが、僕らは全く無関係ではない。
市田敏郎は……僕らが有白東保育所に通っていた頃の、保育士だったのだ。僕自身は市田先生を覚えていないけれど、どうやら年長のときの担任の先生だったらしい。つまり、朱梨ちゃんにとっても、彼は担任だったということだ。
「友ちゃん、ボーとして大丈夫?」
「あ、うん」
後ろで騒ぐ勝ちゃんと男鹿くんの声をBGMに考え事をしていると、力が鞄を持って席まで来た。当然彼も部活は禁止され、帰宅部の僕らと同じ時間の下校を義務付けられている。
「力、ヒナちゃんのことなんだけどさ……」
「ヒナちゃん? どうしたの?」
「この高校に通ってるらしいんだ」
「え!?」
力が目をまん丸にして驚く。その様子は本当のリアクションに見える。やっぱり力はヒナちゃんではないだろう。
「どうやって知ったの?」
「ヒナちゃんから聞いたんだ」
「そう、なんだ……」
「朱梨ちゃんのことも一緒に調べた。調べたときは隠し事しているような感じではなかったけど……どうしてもスッキリしなくて。こんな偶然、あるわけないと思うんだよ」
「そうだよね……それに、保育所のことも……」
「うん」
見つかった切断死体についても、顔が見つかったことですぐに身元が判明した。
嶋田聖人という男性は、今は年金暮らしをしている人らしい。だが、その前は自らの頭が置かれた東保育所の送迎バスの運転手をしていたのだ。
つまりこれは、猟奇的犯行ではなく……かつての有白東保育所の関係者を狙った犯行だということだ。
「友ちゃん、もしかしてヒナちゃんがこの事件に関わってると思ってるの?」
「え?」
「いや、二人も東保育所の関係者が殺されて、そのときにちょうど君の目の前に死んだ女の子の母親そっくりの人が現れるって偶然にしては出来過ぎだと思うし……」
「そうだね、うん……。この事件についてかはわからないけど、ヒナちゃんは僕に何か気づいてほしいのかなって、そんな気がするんだ」
こんな必然のような出来事を偶然で片付けてしまうほど、僕の好奇心は小さくはない。
きっと、何かある。もしかしたら、ヒナちゃんは何かを伝えてたくてあの格好をしているのかもしれない……。
「東保育所トリオ!」
「!」
「その呼び方やめろや!」
僕と力が話していると、後ろの席で勝ちゃんと話していた男鹿くんが不名誉な呼び方をしてきた。僕らが幼馴染なのは周りに公言はしていないが雰囲気で察している人は少なくはなかった。男鹿くんは勝ちゃんとつるむことが多いから、よけい僕らの雰囲気を感じ取っているのだろう。
「気をつけて帰れよ! 何か無差別じゃなさそうだし」
「ありがとう。大丈夫、何かあったら勝ちゃんが守ってくれるから」
「何で俺がお前らを守らんとならねぇんだよ!」
僕の言葉に勝ちゃんが目尻をこれでもかといくらい吊り上げる。その左の頬は痛々しい火傷の痕が広範囲にあり、やっぱり化粧でこれを隠すのは無理だろう。そもそも、この性格の勝ちゃんがヒナちゃんを演じきるのも難しそうだ。
「守らなくていいけど勝ちゃん、今日も一緒に帰ろう? 狙いが保育所関係者なら僕らも警戒するに越したことはないよ」
なだめるように穏やかな声色で力が言う。それに勝ちゃんは「はぁ!?」と声を上げるが、勝ちゃんの代わりに男鹿くんがウンウンと頷いた。
「そうそう、どうせ同じ帰り道なんだろ? ちゃんと多喜田と曽田のこと守ってやれよ!」
「子守なんざしてやるか! てか、俺のことばかり言ってテメェはどうなんだよ? 一人で帰るんかよ」
「俺は今日は親父が送ってくれるってゆーから、頼んだ! 心配してくれたのか?」
「してねぇわ!」
男鹿くんが一人じゃないことを確認すると、勝ちゃんは僕らに見向きもせずにズカズカと歩き始めた。男鹿くんはすっかり彼のペースに慣れていてその背中に「じゃあな!」と明るい声をかける。それから僕らにも「気を付けてな!」と言ってくれた。
僕と力は勝ちゃんを追って玄関まで向かった。勝ちゃんは僕らが急いでついてきたことに不服そうにして唇を曲げたが、もう反抗はしてこなかった。
また三人での帰路につく。この事件がなければあり得なかった光景に、僕は不思議な感覚になる。
力とはずっと仲良くしてきた。きっとこれからもそうなんだろうと勝手に思っている。趣味嗜好と似ていて、話すペースもあい、お互いを理解していると思う。
勝ちゃんはどうだろう。いつか、かつてのように話すことはあるのだろうか。
「朱梨ちゃんの事故、交通事故じゃなかったんだね」
探りを入れるのは申し訳ないけど、やっぱり力と勝ちゃんを信じたくて僕はあの話題を持ち出した。力は瞬きを何回かして不思議そうに首をかしげる。勝ちゃんは変わらず仏頂面でじとっと僕を見た。
「そんなん俺が知るかよ」
「調べたんだよ、ヒナちゃんと」
「ヒナちゃん……?」
「友ちゃんの好きだミーチューバーだよ。最近友だちになったんだって」
「身も知らずの女と友だちかよ」
「ヒナちゃんは男なんだよ。でも、朱梨ちゃんのお母さんとそっくりなんだ」
「……だから当然変なこと聞いてきたんか」
勝ちゃんは納得したかのようにボソッと呟く。反応はあまり大きくはなく、驚きもなければ焦りも見られない。大して興味がないと言ったところだろう。
力も勝ちゃんも、ヒナちゃんではないだろう。僕は自分の直感を信じることにした。
「ねぇ、力、勝ちゃん。お願いがあるんだ」
「何?」
「は?」
「僕と、ヒナちゃんの正体をつきとめてくれないかな」
別に正体なんて知らなくてもいいかもしれない。でも、僕はこのモヤモヤする気持ちを放って置くことができなかった。
二人はパチリとお互いの顔を見た。二人が何故顔を合わせたのかはわからないが、きっと僕が変なことを言っていて困っているのだろう。
「友ちゃん、事件にヒナちゃんが関わってると思ってるからこそなんだろうけど……もし、本当に関わってたら危険だと思うよ」
「でも、もしかしたらヒナちゃんが狙われるかもしれないし」
「犯人かもしれねぇだろ」
僕が考えないようにしていた言葉を、勝ちゃんがサラッと言い放った。
そうだ、ヒナちゃんが怪しいといえば怪しい。最初の被害者と同じ喫茶店に行きつけな彼は、自分の素性を隠して活動をしている。その本当の顔を隠している理由が実は趣味ではなくて犯罪のための行為かもしれない。
「それでも、知りたいんだ……ヒナちゃんが好きだから」
彼な何者なのか。ただのファンと推しの関係なら知らなくてもいいことだった。
でも、今は知りたい。ファンとしてではなく……ただの一人と人間として興味がある。
「僕はいいよ、友ちゃん一人だったら危なそうだし」
「力……! ありがとう!」
力がメガネの奥の瞳を穏やかに細める。彼のこの優しさに、僕はいつだって救われてきた。
一方の勝ちゃんは渋い顔をしていた。当然、僕とはただの幼馴染で友だちとも思っていないのだ。
「付き合う道理がねぇ」
想像していた答えが返ってくる。当然の答えに僕は肩を落とした。
でも、そこで以外にも「でも」と声を出したのは力だった。彼は不思議と勝ちゃんには物申す事が多い。
「事件が解決したら、バイトもすぐできるかもしれないよ」
「警察に任せればいいだろ。それに犯人か決まったわけじゃねぇだろ」
「これで友ちゃんが一人で突っ走って死んじゃったらさすがに嫌じゃないの?」
「……力、時には止めることも必要だそ。友佑なんて、昔っからやめろって言っても何でもやって怪我ばかりしてたろ」
「だからついててあげた方がいいじゃないかな。……バイトが再開するまでの帰り道だけ。どうかな」
「……チッ」
勝ちゃんの中では僕は危ないことにすぐ突っ走る子供の頃から変わっていないらしい。とは言っても危ないことをしていたのは勝ちゃんも同じで、彼は木に登っても落ちないけど僕が落ちて骨折したという話なのだが。自分の能力に見合わないことをしていた僕は、勝ちゃんから危なかっかしいのだろう。
それでも力の説得のおかげで折れたのか、深い溜息をつくと僕をギロリと睨んだ。
「危ねぇことすんなよ、へっぽこ野郎」
「当然!」
「あはは、友ちゃん返事だけは昔からいいんだよね」
かくして僕は二人の仲間を得て、ヒナちゃんの正体を探ることになった。
できることなら事件とは無関係であることを願いながら、それでもそんなことはあり得ないと感じながら。
宮古朱梨の母親は何者なのか。ヒナちゃんは何者なのか。
