体温と心拍数が急上昇していく。すっかり目が覚めた俺は、自分が置かれている状況に悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえていた。だって、ネムが俺をすっぽりと包み込むようにして抱えていたのだから――……。
――なんだこれ、なんでこうなってる。
そう考えてから、ネムに触れられていない場所がなんとなく冷たくなっていることに気づいた。もしかしたら、ネムは俺が体を冷やさないようにくっついてくれたのかもしれない。
でも、だからといってあんな風に、俺に触らなくたっていいと思う。それに、あの最後の言葉は夢だったのだろうか。俺はネムの腕の中で静かなパニックを起こしていた。
止まらない動悸と汗に、ただ混乱するばかりだ。
けれど、ふと思い至った。
――俺も同じようにネムに触ってみれば、何かわかるのではないか。
さっきの言葉が、夢か現実か、答えが出そうだ、と。
薄く目を開けて、小さく息を吸い込む。ネムはすやすやと眠っていて、俺が少し動いても、目を開けることはなかった。
知らず知らずのうちに、俺はこくんと喉を鳴らしてしまって、そんな自分に笑いそうになる。だが、緊張するものは緊張するのだから仕方ない。
「緊張……?」
その単語に、引っかかりを覚える。
ミツルの言葉を思い出したのだ。
緊張して眠れなくなるほどの恋を、ネムはしているのだと。
じゃあ、俺が今、緊張しておかしくなるほどにネムに触れたいと思うのは――……まさか、恋?
もしもこれが恋だというのなら、確かに眠れないだろう。息が苦しくて、胸が痛い。いつもの調子で安眠などできるわけがない。ネムの寝不足にもうなずける。
俺は、もう一度深呼吸をした。
――落ち着け、落ち着け。
眠れる王子様のまつ毛は、俺よりも長いような気がする。そっと触れてから頬へ手を伸ばした。思っていたよりふっくらしていてすべすべなのが面白い。
流石に唇はどうしようかと迷ったけれど、俺も触られたのだから構わないだろうと、ゆっくりとなぞっていった。
その時――……。
ぱしっと俺の手首がつかまれて、無理やり引きはがされる。
「ダメだよ、先輩。そんなことしたら」
「え。なんで? だって」
低い声は少しだけ怒っているような色をにじませていて、俺はびっくりして肩を揺らした。
「……襲われちゃっても、知らないよ?」
「ネム」
「うん?」
「お前が先にしたんだろ!? お、俺だって触りたい!」
なぜかとんでもなく腹が立った俺は、勢い余って夢の中の出来事を全部ネムのせいにして叫ぶ。ネムはこげ茶の目を見開いて俺を見つめた。少しの間を置いて、ネムは口をぱくぱくさせたのちに、絞り出すように俺に尋ねてくる。
「起きてたの……?」
俺は半分寝てはいたけれど、ここはうなずいておくべきだと首を縦に振った。
「き、聞いちゃった? す、す、好き、とか」
さらにうなずいてみると、ネムは俺を抱えたままがっくりとうなだれる。そうしてなんとも情けない声を出した。
「あーもう、俺、今夜も眠れないよ」
「……俺もたぶん無理。ネムが、す、す、好き、みたいだ」
その瞬間、がばっと顔を上げたネムに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。三年生を示す紺色のネクタイが緩く引っ張られた。
「じゃあ、眠れるおまじない、してあげる」
「なんだ? なにする――……」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、俺の唇は桜のきらきら王子様によってふさがれる。驚いて固まっている俺の頭を、ぽんぽんとネムは優しくなでてくれた。
「サトリ先輩が、しあわせな夢を見られますように」
「いや、ネムも見なきゃダメだろ」
「そっか、そうだね。じゃ、もう一回」
俺たちは笑いながら、暗くなった教室で、再び唇を重ねた。
これからは、ずっと、王子様と一緒だ。
了
――なんだこれ、なんでこうなってる。
そう考えてから、ネムに触れられていない場所がなんとなく冷たくなっていることに気づいた。もしかしたら、ネムは俺が体を冷やさないようにくっついてくれたのかもしれない。
でも、だからといってあんな風に、俺に触らなくたっていいと思う。それに、あの最後の言葉は夢だったのだろうか。俺はネムの腕の中で静かなパニックを起こしていた。
止まらない動悸と汗に、ただ混乱するばかりだ。
けれど、ふと思い至った。
――俺も同じようにネムに触ってみれば、何かわかるのではないか。
さっきの言葉が、夢か現実か、答えが出そうだ、と。
薄く目を開けて、小さく息を吸い込む。ネムはすやすやと眠っていて、俺が少し動いても、目を開けることはなかった。
知らず知らずのうちに、俺はこくんと喉を鳴らしてしまって、そんな自分に笑いそうになる。だが、緊張するものは緊張するのだから仕方ない。
「緊張……?」
その単語に、引っかかりを覚える。
ミツルの言葉を思い出したのだ。
緊張して眠れなくなるほどの恋を、ネムはしているのだと。
じゃあ、俺が今、緊張しておかしくなるほどにネムに触れたいと思うのは――……まさか、恋?
もしもこれが恋だというのなら、確かに眠れないだろう。息が苦しくて、胸が痛い。いつもの調子で安眠などできるわけがない。ネムの寝不足にもうなずける。
俺は、もう一度深呼吸をした。
――落ち着け、落ち着け。
眠れる王子様のまつ毛は、俺よりも長いような気がする。そっと触れてから頬へ手を伸ばした。思っていたよりふっくらしていてすべすべなのが面白い。
流石に唇はどうしようかと迷ったけれど、俺も触られたのだから構わないだろうと、ゆっくりとなぞっていった。
その時――……。
ぱしっと俺の手首がつかまれて、無理やり引きはがされる。
「ダメだよ、先輩。そんなことしたら」
「え。なんで? だって」
低い声は少しだけ怒っているような色をにじませていて、俺はびっくりして肩を揺らした。
「……襲われちゃっても、知らないよ?」
「ネム」
「うん?」
「お前が先にしたんだろ!? お、俺だって触りたい!」
なぜかとんでもなく腹が立った俺は、勢い余って夢の中の出来事を全部ネムのせいにして叫ぶ。ネムはこげ茶の目を見開いて俺を見つめた。少しの間を置いて、ネムは口をぱくぱくさせたのちに、絞り出すように俺に尋ねてくる。
「起きてたの……?」
俺は半分寝てはいたけれど、ここはうなずいておくべきだと首を縦に振った。
「き、聞いちゃった? す、す、好き、とか」
さらにうなずいてみると、ネムは俺を抱えたままがっくりとうなだれる。そうしてなんとも情けない声を出した。
「あーもう、俺、今夜も眠れないよ」
「……俺もたぶん無理。ネムが、す、す、好き、みたいだ」
その瞬間、がばっと顔を上げたネムに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。三年生を示す紺色のネクタイが緩く引っ張られた。
「じゃあ、眠れるおまじない、してあげる」
「なんだ? なにする――……」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、俺の唇は桜のきらきら王子様によってふさがれる。驚いて固まっている俺の頭を、ぽんぽんとネムは優しくなでてくれた。
「サトリ先輩が、しあわせな夢を見られますように」
「いや、ネムも見なきゃダメだろ」
「そっか、そうだね。じゃ、もう一回」
俺たちは笑いながら、暗くなった教室で、再び唇を重ねた。
これからは、ずっと、王子様と一緒だ。
了
