Petals Left Behind

 ラインとインスタをどうしようかと考えて、ひとまずインスタに飛ぶと、すでにフォロー中フォロワーから彼の名前は消えていた。今までの元彼とは、別に切る理由もないのでやり取りはしなくても繋がっていたけれど、こういう去り際の潔さも彼らしいな、と思う。

 元カノと縁を切るタイプの、いい男だったらしい。また振り出しか、と思う。
 もう何度同じことを繰り返しても、別れは出会いの数だけやってくる。

 誇れるような恋愛遍歴は何一つないけれど、ただ、彼のことだけは、心の柔らかい場所に、大切にしまっておこうと思った。


『……弱みとか、見せるの苦手?』



 彼の声が、こだましている。彼の観察眼に救われる人はきっといる。そんなこと、気づいてもらったこと無かった、ありがとう、気づいてくれてうれしい、と思う人だっているだろう。
 ただ、私にはそれが見透かされているように思えて、ひどく気味が悪かった。人が隠そうとしている部分を暴こうとするのは、それは私にとっては優しさではない。
 けれど、合わなかった、で済ますには、彼と過ごした一年半は、どうにも重すぎたみたいだ。


「……っ、あれ、なんで」




 ツウ、と頰を流れたそれを、手で拭う。



『俺ね、紗凪の声、けっこう好き』



 桜がよく似合うひとだな、と思った。満開の桜の中で、ふにゃりと崩れる美しい顔が、私をとらえた瞬間。それはたしかに、幸せだったのかもしれない。



『俺はね、いま、紗凪のことがすきだよ』

『どうしたの、急に』

『ちゃんと、伝えておこうと思って』



 常にうざったいほどの愛情表現があったわけではない。けれど、彼は丁寧に、ゆっくり、桜がそっと手のひらに乗るように、愛を渡してくれていたのかもしれない。
 そんな思い出がふとかけめぐり、次の瞬間には消えていく。

 引き止めようとか、追いかけようとか、もう一度縁を結び直すよう頼むとか、そんなことは思わない。思わないけれど、諦めたくなかったな、と、滲んでいく視界の中で、ぼんやりと思った。






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