……なんでしょうそれは。黒くなってよく見えません。
 ああ、感熱紙でできているんですか。保存状態がよくなかったと。
 私の寝室から……
 そうですか。

 すべてを捨ててしまえればよかったのに。
 どこか未練があったのでしょうね。あの人とやり直せたらと。
 あの人がすべてを捨てて俺の元へ来てくれといってくれればそうしてました。その覚悟はあったのです。
 でも、そうでないとするなら、私には家族しかありません。
 家を建てここを私のお城にして一生幸せに暮らすと誓いました。

 さゆりちゃんは……もし、生まれていればあの子の夢の中のとおりに成長していったでしょう。
 ちょうどそれくらいです。
 本来なら、新居に引っ越したころに――
 生まれたかったに違いありません。

 ……いや、生まれたんですよ。
 あの子は夢の中で写真を選んであげたといいました。
 幼稚園のお遊戯会でお姫さまを演じている亜矢美の写真を。

 ええ、そうです。
 あの子はいまやさゆりって名乗るんですもの。
 誰にも悟られないように部屋の中に閉じ込めておかないと。
 陰気なあの子だがら、部屋に閉じこもっていても誰にもバレないと思っていたのに。