まっさら。
 はじまりって、まっさらじゃないですか。
 ものごとって、なんにもないところから始まっていくんです。
 運命に導かれて寄り合うように。
 大げさだと思いますか?
 そうですね。誰かにとってはそうなのかもしれません。

 なんにもない更地でした。細いロープでくくられた単なる区画です。
 ええ、おそらく、以前はちがう風景が広がっていたのでしょう。
 けれどもわたしには新しい未来が想像できました。
 完璧に仕上がったその家に私たち一家が住まう未来を想像し、家庭を築くというのはそういうことなのだと、すぐそこにある未来から一生を終えるその時まで、寸分狂いない幸せがそこにあるのだと信じて疑いませんでした。

 着工してから何度も足を運びました。
 来るたびに家らしくなっていって、その都度写真を撮りました。我が子の成長を見守るような気持ちでしょうか。
 ああ、それです。
 しっかりとした土台に木材が組まれ、こだわりの瓦が乗った屋根がつき、外壁も内装もなにもかも、私が選んだ全部がそこにありました。

 夫でさえ自分が選んだ幸せの一部。
 彼でなくて、ほかに誰がいるでしょう。
 夫はもう誓い合ったあの日から一蓮托生。抱えたローンがその証です。

 家が完成し、真新しい気持ちで一家そろって引っ越してきました。
 私にはもうここしかない。むしろここしかないことが家族の団結を生むのです。
 子供たちだって、私がいない生活なんて想像したこともないでしょう。