「そっか……」
それだけ言うと朔は、悲しそうに笑った。
だけどすぐにまたいつもの何を考えているのかよく分からない飄々とした笑みを浮かべ、さらりと言ったのだ。
「よかったじゃん! 俺の協力、無駄にすんなよな」
これはきっと、俺が求めていたはずの言葉だ。なのにまたしても胸が、ぎゅっと締め付けられたみたいに苦しくなった。
でもそれには気付かないふりをして彼から目をそらし、自分の足元を見つめたまま答えた。
「ありがと。これでうまくいったら、俺もついにカノジョ持ちかぁ!」
わざと明るく振舞ったけれど、その声は少しだけ震えていたかもしれない。
なぜだか分からないけれど泣きたくなり、でもそんな情けない表情はこいつに見せたくなかったから、無理やり笑って顔を上げた。
「うん……。けどお前、なんか無理してないか? もしかして、何かあった?」
意地悪で、毒舌で。……だけど誰よりも優しくて、俺に甘い朔。こんな些細な嘘にまで気付いてくれるのだと思うと、それがなんだかとても腹立たしく感じた。
とはいえこれは理不尽な八つ当たりのようなものだと、俺だっていやっていうくらいよく分かっているけれど。
「っと……。ごめん、朔。俺、買いたい物があったの忘れてた! 先に帰ってて、ちょっとコンビニ行ってくる」
これ以上朔の、俺の恋を応援するような発言を聞きたくなかった。だから彼の返事を待つことなく、勢いよく駆け出した。
***
「いらっしゃいま……。って、なんだ。翔太さんか」
「なんだ、はないだろう! 俺だって、今日は一応客なんだからさぁ」
カウンターにダンと勢いよくチョコレートの箱を置き、不機嫌を隠すことなく答えた。
俺の言葉を聞き、亮平は怪訝そうに眉根を寄せた。それから彼は、直球で告げた。
「まぁ、たしかに。それに関しては、ごめんなさい。でも、珍しいですよね? 翔太さんが、そんな風にイラついてんの」
その言葉に、ハッとした。
「……ごめん。たしかに、その通りかも」
しょんぼりとうなだれると、亮平はちょっと困ったように言った。
「謝らないで下さいよ! ほんと、調子が狂うなぁ……」
ガシガシと頭を掻きながらそういうと、彼は戸惑ったような様子ではあったものの続けた。
「で? いったい、何があったんですか? わざわざ休みの日に、そんなにも息を切らせて駆け込んでくるだなんて」
朔との先ほどの会話を思い出した瞬間、勢いよく俺の目から涙がダーッと零れだした。
そのため亮平は、ぎょっとした様子で瞳を見開いた。
「ちょ……、翔太さん!? あぁ、もう。しゃーないなぁ……。俺今日は、あと10分で上がりなんで。バックヤードで、待っててください。話、聞きますから」
「……ごめん」
すると亮平はやれやれとでも言うように肩をすくめて見せ、それから苦笑した。
「いいっすよ。ただここで号泣されるのは、ちょっと。……なんかこれだと、俺が翔太さんを泣かせたみたいじゃないっすか」
「……ごめん」
「だーかーらー! もう謝るのは、やめて下さい。少しの間なんで、待てますよね?」
幼い子どもを諭すように言われ、俺はただこくんと小さくうなずいた。
***
「なるほどねぇ。つまり翔太さんは、例のイケメン君に早苗さんとのデートを応援されたせいで、落ち込んでるってことてすか?」
……落ち込んでいる? そうか、俺は落ち込んでいたのか。
そんなことも分からないくらい、動揺していた自分。それを、思い知らされた。
「んで。……翔太さんはいったい、どうしたいんっすか? そんでもって、どう言われたら満足でした?」
朔は俺の恋愛を応援し、手を貸してくれた。だからそれを不満に思うのは、お門違いもいいところだと思う。
だけど素直に礼を言う気にもなれないし、もっと力を貸して欲しいとももう思えそうになかった。
以前亮平に朔に俺が狙われているんじゃないかと言われた時は、正直なところ困惑しかなかったし、そんなはずはないと突っぱねることが出来た。
だけど今の俺は、むしろそうならいいなって考えている。……朔の方にはきっと、そんなつもり微塵もないはずなのに。
「たぶん俺は亮平が言うみたいに、朔に応援して欲しくないんだと思う。それに今はもう早苗さんとのデートも、全然楽しみに出来てない気がする」
ひとりでは、出せなかった答え。でも亮平に聞いてもらうことで、頭の中が少しだけ整理出来た気がする。
なのに亮平は真剣な表情で、思わぬ言葉を口にした。
「うーん……。言い出しっぺの俺が言うのも、どうかと思うんっすけど。それってもしかして、この間の俺の発言に、引っ張られちゃってるってことありません?」
その言葉に驚き、彼の顔をじっと見上げた。
「こう言っちゃなんですけど、翔太さんって良くも悪くも素直じゃないっすか? だから俺から、そのイケメン君が翔太さんを好きなんじゃないかって言ったせいで、感情をそっちに引きずられちゃったというか……」
たしかに言われてみたら。……そもそもの話朔は俺のことを、そんな目では見ていない可能性の方が高い。
とういうのも、あいつはモテる。俺が知っているだけでも、これまでの歴代カノジョの数は、両手の指すべて使ったとしても数え切れないくらいいた。
なのにあの大学一のモテ男が、俺のことを好き……? 絶対に、違うだろ!
そして単純な俺が亮平の言葉に惑わされ、朔が俺に対して好意を抱いてくれているかもしれないと考えたせいで、朔との関係が妙にぎこちなく、こじれてしまったのだとしたら。
……なーんだ。そういうことか! 全部俺の、勘違いじゃん。
だからきっとこの妙な気の迷いも、可愛くて優しい早苗さんに実際に会えば、吹き飛んでしまう程度のものなのかもしれない。
「たしかにな……。言われてみたら、その通りだな! ありがとう、亮平」
「え……、ちょ、翔太さん!? 俺の話、まだ終わってな……」
亮平の言葉の続きを待つことなく椅子から立ち上がり、更衣室の扉を開けて駆け出した。
そのためこの時亮平が本当は何を考え、言おうとしていたのかを知るのは、もう少し先のこととなる。
それだけ言うと朔は、悲しそうに笑った。
だけどすぐにまたいつもの何を考えているのかよく分からない飄々とした笑みを浮かべ、さらりと言ったのだ。
「よかったじゃん! 俺の協力、無駄にすんなよな」
これはきっと、俺が求めていたはずの言葉だ。なのにまたしても胸が、ぎゅっと締め付けられたみたいに苦しくなった。
でもそれには気付かないふりをして彼から目をそらし、自分の足元を見つめたまま答えた。
「ありがと。これでうまくいったら、俺もついにカノジョ持ちかぁ!」
わざと明るく振舞ったけれど、その声は少しだけ震えていたかもしれない。
なぜだか分からないけれど泣きたくなり、でもそんな情けない表情はこいつに見せたくなかったから、無理やり笑って顔を上げた。
「うん……。けどお前、なんか無理してないか? もしかして、何かあった?」
意地悪で、毒舌で。……だけど誰よりも優しくて、俺に甘い朔。こんな些細な嘘にまで気付いてくれるのだと思うと、それがなんだかとても腹立たしく感じた。
とはいえこれは理不尽な八つ当たりのようなものだと、俺だっていやっていうくらいよく分かっているけれど。
「っと……。ごめん、朔。俺、買いたい物があったの忘れてた! 先に帰ってて、ちょっとコンビニ行ってくる」
これ以上朔の、俺の恋を応援するような発言を聞きたくなかった。だから彼の返事を待つことなく、勢いよく駆け出した。
***
「いらっしゃいま……。って、なんだ。翔太さんか」
「なんだ、はないだろう! 俺だって、今日は一応客なんだからさぁ」
カウンターにダンと勢いよくチョコレートの箱を置き、不機嫌を隠すことなく答えた。
俺の言葉を聞き、亮平は怪訝そうに眉根を寄せた。それから彼は、直球で告げた。
「まぁ、たしかに。それに関しては、ごめんなさい。でも、珍しいですよね? 翔太さんが、そんな風にイラついてんの」
その言葉に、ハッとした。
「……ごめん。たしかに、その通りかも」
しょんぼりとうなだれると、亮平はちょっと困ったように言った。
「謝らないで下さいよ! ほんと、調子が狂うなぁ……」
ガシガシと頭を掻きながらそういうと、彼は戸惑ったような様子ではあったものの続けた。
「で? いったい、何があったんですか? わざわざ休みの日に、そんなにも息を切らせて駆け込んでくるだなんて」
朔との先ほどの会話を思い出した瞬間、勢いよく俺の目から涙がダーッと零れだした。
そのため亮平は、ぎょっとした様子で瞳を見開いた。
「ちょ……、翔太さん!? あぁ、もう。しゃーないなぁ……。俺今日は、あと10分で上がりなんで。バックヤードで、待っててください。話、聞きますから」
「……ごめん」
すると亮平はやれやれとでも言うように肩をすくめて見せ、それから苦笑した。
「いいっすよ。ただここで号泣されるのは、ちょっと。……なんかこれだと、俺が翔太さんを泣かせたみたいじゃないっすか」
「……ごめん」
「だーかーらー! もう謝るのは、やめて下さい。少しの間なんで、待てますよね?」
幼い子どもを諭すように言われ、俺はただこくんと小さくうなずいた。
***
「なるほどねぇ。つまり翔太さんは、例のイケメン君に早苗さんとのデートを応援されたせいで、落ち込んでるってことてすか?」
……落ち込んでいる? そうか、俺は落ち込んでいたのか。
そんなことも分からないくらい、動揺していた自分。それを、思い知らされた。
「んで。……翔太さんはいったい、どうしたいんっすか? そんでもって、どう言われたら満足でした?」
朔は俺の恋愛を応援し、手を貸してくれた。だからそれを不満に思うのは、お門違いもいいところだと思う。
だけど素直に礼を言う気にもなれないし、もっと力を貸して欲しいとももう思えそうになかった。
以前亮平に朔に俺が狙われているんじゃないかと言われた時は、正直なところ困惑しかなかったし、そんなはずはないと突っぱねることが出来た。
だけど今の俺は、むしろそうならいいなって考えている。……朔の方にはきっと、そんなつもり微塵もないはずなのに。
「たぶん俺は亮平が言うみたいに、朔に応援して欲しくないんだと思う。それに今はもう早苗さんとのデートも、全然楽しみに出来てない気がする」
ひとりでは、出せなかった答え。でも亮平に聞いてもらうことで、頭の中が少しだけ整理出来た気がする。
なのに亮平は真剣な表情で、思わぬ言葉を口にした。
「うーん……。言い出しっぺの俺が言うのも、どうかと思うんっすけど。それってもしかして、この間の俺の発言に、引っ張られちゃってるってことありません?」
その言葉に驚き、彼の顔をじっと見上げた。
「こう言っちゃなんですけど、翔太さんって良くも悪くも素直じゃないっすか? だから俺から、そのイケメン君が翔太さんを好きなんじゃないかって言ったせいで、感情をそっちに引きずられちゃったというか……」
たしかに言われてみたら。……そもそもの話朔は俺のことを、そんな目では見ていない可能性の方が高い。
とういうのも、あいつはモテる。俺が知っているだけでも、これまでの歴代カノジョの数は、両手の指すべて使ったとしても数え切れないくらいいた。
なのにあの大学一のモテ男が、俺のことを好き……? 絶対に、違うだろ!
そして単純な俺が亮平の言葉に惑わされ、朔が俺に対して好意を抱いてくれているかもしれないと考えたせいで、朔との関係が妙にぎこちなく、こじれてしまったのだとしたら。
……なーんだ。そういうことか! 全部俺の、勘違いじゃん。
だからきっとこの妙な気の迷いも、可愛くて優しい早苗さんに実際に会えば、吹き飛んでしまう程度のものなのかもしれない。
「たしかにな……。言われてみたら、その通りだな! ありがとう、亮平」
「え……、ちょ、翔太さん!? 俺の話、まだ終わってな……」
亮平の言葉の続きを待つことなく椅子から立ち上がり、更衣室の扉を開けて駆け出した。
そのためこの時亮平が本当は何を考え、言おうとしていたのかを知るのは、もう少し先のこととなる。

