ポップコーンとドリンクを無事入手すると、店員さんから朔は当たり前みたいにトレーを受け取った。
それから劇場内に入ると、これまた当然みたいな顔をして俺に向かい手を差し出した。
だけどその意味がいまいちよく分からなかったから、彼の顔を凝視した。
「えっと……、朔さんや。その手は、いったいどういう……?」
すると彼は小馬鹿にしたように笑い、しれっと答えた。
「本当に翔太は、なんにも分かってないんだな……」
「はぁ!? なんだよ、その言い方!」
俺が吠えるみたいに答えると、朔は呆れ顔のまま答えた。
「だーかーらー! 今日俺と翔太は、デートの予行演習中だろ? 彼女はもしかしたら、鳥目かもしれないじゃん。だったらここで彼女をさっとスマートにエスコート出来たら、お前の株が上がると思わないか?」
なるほどな……。たしかに彼女が暗いのが得意じゃないのであれば、これは有効な手段のひとつなのかもしれない。
さっき映画館に向かう途中でいきなり手を握られた時は正直なところちょっと図々しく思われないかと疑問に思ったが、この方法であれば合法的かつ自然な流れで早苗さんと手を繋ぐことも可能かもしれない。
「なるほどな……。たしかに! ほんと、勉強になります!!」
素直に彼の手を取り、エスコートされる俺。満足そうに二ッと笑う朔の色っぽい笑顔に、一瞬だけ。
そう。……ほんの一瞬だけドキッとしたけれど、それには気付かないふりをして俺も笑みを返した。
***
席に着き、少しするともうすぐ公開予定の映画の予告映像が流れ始めた。
その中に俺が大好きなホラー映画の続編のものがあったものだから、小さな声ではあったものの思わずひとりごとが漏れてしまった。
「うぁ、これ続編出来るんだ……」
すると朔は、俺の耳元で囁くように言った。
「うん、そうみたいだな。公開が始まったら、一緒に行こうか?」
その低く甘い声に反応して、ぞくりとしてビクッと体が震えた。
「ふぁ……!?」
反射的に漏れ出た声を聞き、朔は一瞬きょとんとしたような顔のまま俺を見つめた。
しかしそのあとこの男は、再び耳元でとんでもないことを囁きやがった。
「耳、めちゃくちゃ敏感じゃん。かーわい♡」
本当に、こいつだけは!!!
デートの予行演習とはいえ、さすがにそんなふざけた真似をされるだなんて思ってもいなかった。
いたずらっぽくクスクスと笑いながら、俺の顔を覗き込む朔。
これまで知らなかった、新しい彼の一面。
この、遊び人め……。やっぱりこいつ、チャラ過ぎんだろ!?
慌てて耳を手で押さえ、涙目のまま彼の顔を睨み付けた。
だけどなにか反論してやろうとしたタイミングでライトが落とされて館内が暗くなり、観に来た映画の本編が始まったからそれはかなわなかった。
しかしそんな苛立ちも、映画が始まるとすっかり忘れ、その内容に俺の意識は完全にそっちに釘付けに。
そのため俺のことを優しく見つめる朔の瞳には、まったく気付くことがなかった。
ポップコーンが入ったバケットに手を伸ばし、なるべく音を立てないように気をつけながらもぐもぐと頬張る。
だけどお互いにノールックのまま手に取るせいで、何度か俺たちの指先が触れた。
その度に俺の方は現実に戻され、心臓がうるさいくらいどくどくと脈打った。朔に対してこんな風に感じたことなんて、これまで一度もなかったはずなのに……。
なのに横を見ると朔は真剣な表情のまま、俺のことなんてまったく気にする様子なくただスクリーンを見つめていた。
切れ長な、漆黒の瞳。まっすぐで艶やかな、濡羽色の髪。
肌は一般的な成人男子と比べるとかなり白い感じはするものの、不健康な感じはあまりしないのは適度に体を鍛えているせいだろう。
映画館の暗闇の中で、今さらながら彼の美しい横顔に見とれた。でもその時俺の視線に気付いた朔が俺の方を向き、『どうかした?』と口パクで聞いた。
だから慌ててブンブンと首を左右に振り、なんでもないとジェスチャーだけで伝えて再び前を向いた。
***
映画館から出ると、外はすっかり昼過ぎだった。そのため街は、昼休憩を終えたばかりと思われるサラリーマンたちであふれていた。
映画を見終わった興奮が冷めやらないため、手を繋いで歩きながら鼻息荒く朔に感想をぶつける。
「いやぁ、すごかったな! あのラストの爆破シーン、あれまじでどうやって撮ってんだろ……」
「翔太、声大きいって。まぁ、楽しめたなら良かったけどね」
朔はいつものように涼しい顔をしているけれど、その視線はやけに優しい。
それに気付いてしまったから、慌てて視線をそらして早口で聞いた。
「次は、ランチだな。もちろんどこに行くか、決めてきてくれたんだよな?」
茶化すように言うと、朔はフッと口角を上げた。
「当然。予約してあるから、行こうか」
「……は? 予約?」
思った以上の、手練れ感。それにまた少し驚かされたけれど、促されるがまま彼に続いた。
連れて行かれたのは、駅から少し離れた場所にあるおしゃれなイタリアンレストランだった。
平日だというのに女子大生やカップルで溢れかえる店内に、大学生の男がふたり。
ただでさえ朔は目立つから、周囲からは浮きまくりだ。……女の子たちの、視線が痛い。
「あのさ、朔。この店、早苗さんとの本番でも予約したほうがいいと思う?」
メニューを広げながら聞くと、朔は俺の視線を真っ向から受け止めて頷いた。
「これは俺が、翔太のためだけに考えたデートプランだから。彼女の好みに合わせて、そこらへんは臨機応変に変えた方がいいと思うぞ」
「なる……ほど? うわぁ、まじでレベル高ぇな!」
自分と同い年なはずなのに、こんなにもデート慣れしているこの男が、まるで化け物みたいに思えてきた。
だけどそんな俺の視線に気付いたはずなのに朔は、ただにっこりとほほ笑んだ。
そうこうしている間に運ばれていた、ランチセット。
俺が頼んだのは、トマトソースのパスタ。朔はジェノベーゼだ。
「お、そっちもうまそうじゃん。ひと口ちょうだい」
「おぅ、いいぞ。俺もそっちの、ちょっと食ってみたいし」
いつものノリで皿を差し出すと、朔は心底げんなりしたような顔で告げた。
「……0点だな」
「は……?」
いきなり下された、低評価。それに驚き、彼の顔を凝視する。
すると朔が『はい』と言って、自分のフォークでパスタを巻き取り、俺の口元に差し出してきた。
それから劇場内に入ると、これまた当然みたいな顔をして俺に向かい手を差し出した。
だけどその意味がいまいちよく分からなかったから、彼の顔を凝視した。
「えっと……、朔さんや。その手は、いったいどういう……?」
すると彼は小馬鹿にしたように笑い、しれっと答えた。
「本当に翔太は、なんにも分かってないんだな……」
「はぁ!? なんだよ、その言い方!」
俺が吠えるみたいに答えると、朔は呆れ顔のまま答えた。
「だーかーらー! 今日俺と翔太は、デートの予行演習中だろ? 彼女はもしかしたら、鳥目かもしれないじゃん。だったらここで彼女をさっとスマートにエスコート出来たら、お前の株が上がると思わないか?」
なるほどな……。たしかに彼女が暗いのが得意じゃないのであれば、これは有効な手段のひとつなのかもしれない。
さっき映画館に向かう途中でいきなり手を握られた時は正直なところちょっと図々しく思われないかと疑問に思ったが、この方法であれば合法的かつ自然な流れで早苗さんと手を繋ぐことも可能かもしれない。
「なるほどな……。たしかに! ほんと、勉強になります!!」
素直に彼の手を取り、エスコートされる俺。満足そうに二ッと笑う朔の色っぽい笑顔に、一瞬だけ。
そう。……ほんの一瞬だけドキッとしたけれど、それには気付かないふりをして俺も笑みを返した。
***
席に着き、少しするともうすぐ公開予定の映画の予告映像が流れ始めた。
その中に俺が大好きなホラー映画の続編のものがあったものだから、小さな声ではあったものの思わずひとりごとが漏れてしまった。
「うぁ、これ続編出来るんだ……」
すると朔は、俺の耳元で囁くように言った。
「うん、そうみたいだな。公開が始まったら、一緒に行こうか?」
その低く甘い声に反応して、ぞくりとしてビクッと体が震えた。
「ふぁ……!?」
反射的に漏れ出た声を聞き、朔は一瞬きょとんとしたような顔のまま俺を見つめた。
しかしそのあとこの男は、再び耳元でとんでもないことを囁きやがった。
「耳、めちゃくちゃ敏感じゃん。かーわい♡」
本当に、こいつだけは!!!
デートの予行演習とはいえ、さすがにそんなふざけた真似をされるだなんて思ってもいなかった。
いたずらっぽくクスクスと笑いながら、俺の顔を覗き込む朔。
これまで知らなかった、新しい彼の一面。
この、遊び人め……。やっぱりこいつ、チャラ過ぎんだろ!?
慌てて耳を手で押さえ、涙目のまま彼の顔を睨み付けた。
だけどなにか反論してやろうとしたタイミングでライトが落とされて館内が暗くなり、観に来た映画の本編が始まったからそれはかなわなかった。
しかしそんな苛立ちも、映画が始まるとすっかり忘れ、その内容に俺の意識は完全にそっちに釘付けに。
そのため俺のことを優しく見つめる朔の瞳には、まったく気付くことがなかった。
ポップコーンが入ったバケットに手を伸ばし、なるべく音を立てないように気をつけながらもぐもぐと頬張る。
だけどお互いにノールックのまま手に取るせいで、何度か俺たちの指先が触れた。
その度に俺の方は現実に戻され、心臓がうるさいくらいどくどくと脈打った。朔に対してこんな風に感じたことなんて、これまで一度もなかったはずなのに……。
なのに横を見ると朔は真剣な表情のまま、俺のことなんてまったく気にする様子なくただスクリーンを見つめていた。
切れ長な、漆黒の瞳。まっすぐで艶やかな、濡羽色の髪。
肌は一般的な成人男子と比べるとかなり白い感じはするものの、不健康な感じはあまりしないのは適度に体を鍛えているせいだろう。
映画館の暗闇の中で、今さらながら彼の美しい横顔に見とれた。でもその時俺の視線に気付いた朔が俺の方を向き、『どうかした?』と口パクで聞いた。
だから慌ててブンブンと首を左右に振り、なんでもないとジェスチャーだけで伝えて再び前を向いた。
***
映画館から出ると、外はすっかり昼過ぎだった。そのため街は、昼休憩を終えたばかりと思われるサラリーマンたちであふれていた。
映画を見終わった興奮が冷めやらないため、手を繋いで歩きながら鼻息荒く朔に感想をぶつける。
「いやぁ、すごかったな! あのラストの爆破シーン、あれまじでどうやって撮ってんだろ……」
「翔太、声大きいって。まぁ、楽しめたなら良かったけどね」
朔はいつものように涼しい顔をしているけれど、その視線はやけに優しい。
それに気付いてしまったから、慌てて視線をそらして早口で聞いた。
「次は、ランチだな。もちろんどこに行くか、決めてきてくれたんだよな?」
茶化すように言うと、朔はフッと口角を上げた。
「当然。予約してあるから、行こうか」
「……は? 予約?」
思った以上の、手練れ感。それにまた少し驚かされたけれど、促されるがまま彼に続いた。
連れて行かれたのは、駅から少し離れた場所にあるおしゃれなイタリアンレストランだった。
平日だというのに女子大生やカップルで溢れかえる店内に、大学生の男がふたり。
ただでさえ朔は目立つから、周囲からは浮きまくりだ。……女の子たちの、視線が痛い。
「あのさ、朔。この店、早苗さんとの本番でも予約したほうがいいと思う?」
メニューを広げながら聞くと、朔は俺の視線を真っ向から受け止めて頷いた。
「これは俺が、翔太のためだけに考えたデートプランだから。彼女の好みに合わせて、そこらへんは臨機応変に変えた方がいいと思うぞ」
「なる……ほど? うわぁ、まじでレベル高ぇな!」
自分と同い年なはずなのに、こんなにもデート慣れしているこの男が、まるで化け物みたいに思えてきた。
だけどそんな俺の視線に気付いたはずなのに朔は、ただにっこりとほほ笑んだ。
そうこうしている間に運ばれていた、ランチセット。
俺が頼んだのは、トマトソースのパスタ。朔はジェノベーゼだ。
「お、そっちもうまそうじゃん。ひと口ちょうだい」
「おぅ、いいぞ。俺もそっちの、ちょっと食ってみたいし」
いつものノリで皿を差し出すと、朔は心底げんなりしたような顔で告げた。
「……0点だな」
「は……?」
いきなり下された、低評価。それに驚き、彼の顔を凝視する。
すると朔が『はい』と言って、自分のフォークでパスタを巻き取り、俺の口元に差し出してきた。

