いつもは時間ギリギリに家を出る俺だが、今日はなんといってもデートの予行演習なのだ。
なので本番に備えて絶対値に遅刻するわけにはいかないから、約束の5分前には着くよう少し早めに家を出た。
なのに待ち合わせ場所である駅前のロータリーに到着するとそこには、既に朔の姿が。
普段はパーカーなどの服装が多いのに、今日の彼はちょっとラフめなスウェット風素材ではあるもののジャケットを羽織っている。
いつもと同じようで、少し異なる大人っぽい雰囲気をまとう朔。
朝っぱらから、無駄にキラキラとまばゆい謎の光を放っているような気すらする。
そしてそんな彼の姿を、女の子たちがチラチラと盗み見ているのに気づいた。
そんなのはいつも通りのことではあるものの、それを見てなんとも言えない敗北感を覚えた。
だけど俺のために休日を潰し、デートの練習に付き合ってくれているのだ。
だからそんな理不尽な感情は、力技でねじ伏せた。
通りすがりの女の子たちが、『すごいイケメン発見!』『やっぱり、カノジョと待ち合わせなのかなぁ?』などとコソコソと話しているのが聞こえてきた。
だけど待ち合わせの相手が俺なのだと知られるのが、なんとなく恥ずかしい。
だから声をかけるタイミングをうかがっていというのにあっさり朔に見つかり、思いっきり手を振られた。
なので覚悟を決めて、彼の方に向かい駆け寄った。
「おはよう、翔太。今日は遅刻しなかったんだな、えらいぞ!」
ワシワシと、俺の頭を撫でる朔。これはいつもどおりの行動のはずなのに、なぜか少しだけドキリとしてしまった。
だけどそれを誤魔化すみたいにして朔の手を払い除け、キッと睨み付けるようにして答えた。
「おはよう、朔。当然だろ、デートなのに遅刻するわけないじゃん!」
キョトンとした表情で、フリーズする朔。それが不思議だったから、彼の顔を見あげたまま彼の名を呼んだ。
「朔……?」
すると朔はハッとした様子で切れ長の瞳を見開き、それから滅多に見せないくらい嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、そうだよな。今日は、デートだもんなぁ?」
そのままナチュラルに手を繋がれて、めちゃくちゃ動揺した。
というのも朔は普通に繋ぐのではなく、いわゆる恋人繋ぎをしてきたからだ。
遠巻きに俺たちのことを見つめる、女の子たちの興味津々な視線。なので朔から手を離そうとしたのだが、コイツと来たら。
「今日はデ・ー・ト、なんだよな? これくらいで動揺してたら、年上の女性をうまくエスコート出来ないんじゃないか?」
ニヤリと意地悪く笑い、俺にだけ聞こえるように耳元で囁かれた。
「うるせぇ、このチャラくそイケメンが! これくらい、なんてことねぇし!」
逆に強く握り返すと、朔はおかしそうにプッと噴き出した。
「ちょろ……」
「はぁ!? ちょろくねぇし。そんなことよりも、朔。俺に最高のデートプランを、レクチャーしてくれるんだよな?」
半ばヤケクソで聞くと、彼は我慢出来ないとでも言うように長身をふたつに折り曲げるようにして腹を抱えて爆笑した。
そして笑いが治まると今度は、朔は俺の顔を覗き込むようにして言った。
「うん、任せとけ。サイッコーに楽しい一日にしような?」
これまで俺には見せたことがないような、色っぽい表情。
……こいつとは長い付き合いだけれど、恋人と過ごす時、この男はこんな風に笑うのか。
まだ俺の知らない面を持つことに驚き、同時に少しだけまた動揺した。
***
「おい……。今日観るのって、この映画? ラブストーリーとかじゃなくて?」
交換したチケットを確認すると、そこにはいかにも俺が好きそうなアクション映画のタイトルが記されていた。
そのため確認のために聞いたら、朔は呆れたように言った。
「これだから、恋愛初心者は……。ほんと翔太は、なんも分かってないな」
「……」
悔しい気持ちで、無言のまま彼の顔をじっと見つめる。すると朔は、フッと鼻で笑った。
「あのなぁ、翔太。一番大事なのは、相手にいかに楽しいと思わせられるかどうかだ。だから必ずしも、恋愛映画を選ぶ必要はない。だって相手がそれに興味なかったら、意味がないしな?」
その言葉を聞き、素直に感心させられた。
「なるほどな。さすがは、朔。勉強になります!」
フンフンと頷きながら、メモを取る。
そんな俺を見下ろしたまま、朔はなぜか苦笑した。
それを疑問に思い、思わず首をかしげた。
「ドリンクは、コーラで良かったよな? あとポップコーンは、どうせなら俺はどっちも食べたいからバケットサイズで味はキャラメルとバターソルト、ハーフ&ハーフでいい?」
まるであらかじめ決まっていたセリフを口にするかのごとく、すべて先回りして聞かれた。
こいつとは何度も一緒に映画館を訪れて来たけれど、こんな扱いは本当にはじめてのことだった。
それにポップコーンに関しても、いつもは俺だけが頼むことが多かったように思う。
そして彼の提案は、どれも俺が最も喜びそうなものばかり。……さすがは朔だなと、思わず感嘆させられた。
「まじでスゲェな、朔は。……天才か?」
「今さら気付いた?」
今度はイタズラっぽく笑って言われ、心臓がまたしてもドクンと大きく跳ね上がった。……無駄に。
でもそれがバレるのはなんとなく悔しかったから、何事もなかったかのような顔で言った。
「うわー、前言撤回。やっぱお前ムカつくわ。ほんと、そういうとこだぞ!」
動揺をごまかすためにわざと悪態を吐いてみたけれど、彼はおかしそうにただククッと笑っただけだった。
「あ、そうだ。映画のチケット代と一緒に、後で全部料金は払うから!」
こんなことに付き合わせた上に、この男に支払いまでさせるのはさすがに忍びないし申し訳ない。
だかりあわててそう告げたのだ。
なのに朔はニッと笑って、俺の口元に人差し指を添えて言ったのだ。
「ううん、大丈夫。デートなんだし、今日くらいは俺に出させてよ。そのかわり今度出かける時は、支払いは翔太がよろしく」
なので本番に備えて絶対値に遅刻するわけにはいかないから、約束の5分前には着くよう少し早めに家を出た。
なのに待ち合わせ場所である駅前のロータリーに到着するとそこには、既に朔の姿が。
普段はパーカーなどの服装が多いのに、今日の彼はちょっとラフめなスウェット風素材ではあるもののジャケットを羽織っている。
いつもと同じようで、少し異なる大人っぽい雰囲気をまとう朔。
朝っぱらから、無駄にキラキラとまばゆい謎の光を放っているような気すらする。
そしてそんな彼の姿を、女の子たちがチラチラと盗み見ているのに気づいた。
そんなのはいつも通りのことではあるものの、それを見てなんとも言えない敗北感を覚えた。
だけど俺のために休日を潰し、デートの練習に付き合ってくれているのだ。
だからそんな理不尽な感情は、力技でねじ伏せた。
通りすがりの女の子たちが、『すごいイケメン発見!』『やっぱり、カノジョと待ち合わせなのかなぁ?』などとコソコソと話しているのが聞こえてきた。
だけど待ち合わせの相手が俺なのだと知られるのが、なんとなく恥ずかしい。
だから声をかけるタイミングをうかがっていというのにあっさり朔に見つかり、思いっきり手を振られた。
なので覚悟を決めて、彼の方に向かい駆け寄った。
「おはよう、翔太。今日は遅刻しなかったんだな、えらいぞ!」
ワシワシと、俺の頭を撫でる朔。これはいつもどおりの行動のはずなのに、なぜか少しだけドキリとしてしまった。
だけどそれを誤魔化すみたいにして朔の手を払い除け、キッと睨み付けるようにして答えた。
「おはよう、朔。当然だろ、デートなのに遅刻するわけないじゃん!」
キョトンとした表情で、フリーズする朔。それが不思議だったから、彼の顔を見あげたまま彼の名を呼んだ。
「朔……?」
すると朔はハッとした様子で切れ長の瞳を見開き、それから滅多に見せないくらい嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、そうだよな。今日は、デートだもんなぁ?」
そのままナチュラルに手を繋がれて、めちゃくちゃ動揺した。
というのも朔は普通に繋ぐのではなく、いわゆる恋人繋ぎをしてきたからだ。
遠巻きに俺たちのことを見つめる、女の子たちの興味津々な視線。なので朔から手を離そうとしたのだが、コイツと来たら。
「今日はデ・ー・ト、なんだよな? これくらいで動揺してたら、年上の女性をうまくエスコート出来ないんじゃないか?」
ニヤリと意地悪く笑い、俺にだけ聞こえるように耳元で囁かれた。
「うるせぇ、このチャラくそイケメンが! これくらい、なんてことねぇし!」
逆に強く握り返すと、朔はおかしそうにプッと噴き出した。
「ちょろ……」
「はぁ!? ちょろくねぇし。そんなことよりも、朔。俺に最高のデートプランを、レクチャーしてくれるんだよな?」
半ばヤケクソで聞くと、彼は我慢出来ないとでも言うように長身をふたつに折り曲げるようにして腹を抱えて爆笑した。
そして笑いが治まると今度は、朔は俺の顔を覗き込むようにして言った。
「うん、任せとけ。サイッコーに楽しい一日にしような?」
これまで俺には見せたことがないような、色っぽい表情。
……こいつとは長い付き合いだけれど、恋人と過ごす時、この男はこんな風に笑うのか。
まだ俺の知らない面を持つことに驚き、同時に少しだけまた動揺した。
***
「おい……。今日観るのって、この映画? ラブストーリーとかじゃなくて?」
交換したチケットを確認すると、そこにはいかにも俺が好きそうなアクション映画のタイトルが記されていた。
そのため確認のために聞いたら、朔は呆れたように言った。
「これだから、恋愛初心者は……。ほんと翔太は、なんも分かってないな」
「……」
悔しい気持ちで、無言のまま彼の顔をじっと見つめる。すると朔は、フッと鼻で笑った。
「あのなぁ、翔太。一番大事なのは、相手にいかに楽しいと思わせられるかどうかだ。だから必ずしも、恋愛映画を選ぶ必要はない。だって相手がそれに興味なかったら、意味がないしな?」
その言葉を聞き、素直に感心させられた。
「なるほどな。さすがは、朔。勉強になります!」
フンフンと頷きながら、メモを取る。
そんな俺を見下ろしたまま、朔はなぜか苦笑した。
それを疑問に思い、思わず首をかしげた。
「ドリンクは、コーラで良かったよな? あとポップコーンは、どうせなら俺はどっちも食べたいからバケットサイズで味はキャラメルとバターソルト、ハーフ&ハーフでいい?」
まるであらかじめ決まっていたセリフを口にするかのごとく、すべて先回りして聞かれた。
こいつとは何度も一緒に映画館を訪れて来たけれど、こんな扱いは本当にはじめてのことだった。
それにポップコーンに関しても、いつもは俺だけが頼むことが多かったように思う。
そして彼の提案は、どれも俺が最も喜びそうなものばかり。……さすがは朔だなと、思わず感嘆させられた。
「まじでスゲェな、朔は。……天才か?」
「今さら気付いた?」
今度はイタズラっぽく笑って言われ、心臓がまたしてもドクンと大きく跳ね上がった。……無駄に。
でもそれがバレるのはなんとなく悔しかったから、何事もなかったかのような顔で言った。
「うわー、前言撤回。やっぱお前ムカつくわ。ほんと、そういうとこだぞ!」
動揺をごまかすためにわざと悪態を吐いてみたけれど、彼はおかしそうにただククッと笑っただけだった。
「あ、そうだ。映画のチケット代と一緒に、後で全部料金は払うから!」
こんなことに付き合わせた上に、この男に支払いまでさせるのはさすがに忍びないし申し訳ない。
だかりあわててそう告げたのだ。
なのに朔はニッと笑って、俺の口元に人差し指を添えて言ったのだ。
「ううん、大丈夫。デートなんだし、今日くらいは俺に出させてよ。そのかわり今度出かける時は、支払いは翔太がよろしく」

