「どういうつもりだよ? 朔。冗談なんだとしても、さすがにこれはやり過ぎじゃね?」
この男に、これ以上動揺しているところを見せるのは絶対に嫌だった。
だから余裕があるふりをして、ニヤリと笑って言ってやった。
だけど朔は笑みを返して、冷たい声色で答えたのだ。
「やり過ぎ? こんなのまだ、全然序の口だけど。……だってこれから翔太は、俺に抱かれるんだから」
その表情はゾクゾクするほど妖艶なのに、彼の瞳の奥はやっぱり冷めたままだ。
だから俺は、一方的に幼なじみをやめたいと言ったことへの腹いせとして、嫌がらせにこんな真似をされているのだと気付いた。
「ほんとお前は、どうしようもない節操なしなんだな。男でも、女でも。……幼なじみで親友の俺でもいいって、まじでサイテーじゃん」
吐き捨てるように言った言葉を、彼は鼻で笑った。
「どうとでも言えよ。どうせお前は俺が何を言ったって、信じないんだから」
乱暴にダウンジャケットを脱がされ、ニットの中に手を入れられた。
たとえばこれが、彼と思いが通じ合った上での行為なら。……俺はきっと、喜んでこいつのことを受け入れるだろう。
だけど、そうじゃない。この男はどうせカノジョと予定が合わなかったとか、そんな理由で俺を利用しようとしているだけなのだから。
「なんだよ、それ。でも、もういいや。好きにしろよ、朔。……もう、疲れた」
頬を伝っていく、たくさんの涙。
全身の力を抜いて、俺はすべての抵抗をやめた。
戸惑ったように揺れる、朔の漆黒の瞳。
でももう本当に、何もかもどうでもいい。
俺を抱くことでしかこいつが満足出来ないのであれば、それが終わるのをただ待ち続けることしか、どの道俺には方法がないのだから。
だけど朔はその言葉を聞き、俺の体を解放した。
それから彼は、これまで俺が見たことないくらい悲しそうに笑って言ったのだ。
「ごめん……。お前の言う通りだな。幼なじみを、終わりにしよう」
これはすべて、俺が望んだことだ。なのに彼にそれを受け入れられた瞬間、深い絶望が俺を包み込んだ。
そう。俺は心のどこかで、信じていたんだ。……彼が俺の傍から、離れるはずがないって。
なんて傲慢で、自分勝手な思い上がりだったんだろう。
それに今さら気付き、声を上げて笑った。
「アハ……。アハハ……! ありがとう、朔。俺のこと、解放してくれて」
だけど彼は先ほどとは異なり、優しく俺の体を抱き寄せた。
「ごめんな、翔太。もう俺の言葉なんて、お前には届かないと思うけど、最後にこれだけ言わせて。……ずっと、好きだったよ。俺はお前のことを、愛してる。これから先、もう二度と話さなくなったとしても、それは絶対に変わらない」
彼の言葉に、耳を疑った。
「何言ってんの? お前。そんなわけねぇじゃん。だってお前、沢渡センパイと……」
そこまで言ったところで、朔はハッとしたように再び俺を見つめた。
それから彼は、真剣な声色で聞いた。
「ちょっと待って、翔太。……なんでそこで、沢渡センパイの名前が出てくんの?」
しまったと思った時には、もう遅かった。
いつものように何を考えているのかまったく分からない笑みを浮かべ、朔が問い詰めるように再び聞いた。
「翔太? お前ももしかして、あのクソみたいな噂を信じてたわけ?」
先ほどの告白に動揺する俺を、再び押し倒す朔。
しかも今度は顔をそらすことが出来ないように、頬を手で固定するというオプション付き。
「信じるも、何も。クソみたいな噂じゃなくて、全部真実だよな?」
「真実……。じゃあ、聞くけど。なんで翔太は、あれが全部真実だって言い切れるわけ?」
にこにこと笑って聞かれたけれど、ピキリと彼のこめかみに青筋が浮かんでいるのが分かる。
そのためさっきまでとは異なる意味で、逃げ出したい衝動に駆られた。
だけどどうやってもこのまま逃がしてくれるとは考えられなかったから、半ばヤケクソで、早口のまままくし立てるように答えた。
「だって俺、見たもん! 沢渡センパイが、お前んちから出てくるとこ! それに忘れ物を届けてくれて、ありがとうってメッセージも! 全部俺は、知ってるんだからな!!」
それから朔は大きなため息をひとつ吐き出して、わざとらしく頭を抱えた。
「……馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたけど、まさかこれほどだったとはな」
突然の、暴言。それに驚き、彼の顔をじっと見つめた。
「翔太さんや。……それ全部、お前の勘違いだから」
「んなわけ、あるか! 家まで連れ込んでおいて、よくもまぁそんな言い訳が出来たもんだな!?」
すると朔は、再びにっこりとほほ笑んで言った。
「うん、たしかに連れ込んだな。それこそ、何回も連れ込んでるよ」
「開き直りやがって! やっぱお前、ヤリチンのクソ野郎じゃねぇか!」
ギャアギャアと叫ぶ俺の耳を強く引っ張り、そのまま耳元で朔が叫んだ。
「俺じゃなくて、兄貴がな!!」
「へ……?」
間抜けな声が、唇からこぼれ出た。
***
「ごめんってば、朔! まじで、悪かったって!」
朔から受けた説明によると。……沢渡センパイは朔ではなく、彼の兄のカノジョだった。
そのため朔はセンパイの忘れ物を届けるために、パシリとして使われていたというわけだ。
ちなみに朔と彼の兄は激似で、それを見た大学の奴らが勘違いして大騒ぎをしていたというだけの話だった。
最初に見た『あそぼ♡』というメッセージも、やや天然なところのある沢渡センパイが間違えて朔に送ったものだったことが判明した。
実際にその後のやり取りのメッセージも見せてもらったから、間違いない。
誤解が完全に解け、朔に平謝りする俺。
でも朔はネチネチと、いつまでも嫌味を言い続けている。
「俺のこと、どんだけ信用してないわけ? まじで、傷付いたわぁ……」
グッと口ごもり、涙目で朔の顔を見上げた。
すると朔はいつもみたいに意地悪く口角を上げ、ニヤリと笑った。
「まぁでも、言葉でならなんとでも言えるよな。ちゃんと、態度で示してもらわないと」
「態度で……?」
その言葉に困惑し、ただ彼の発した言葉を繰り返した。
すると朔は俺の頬に手をやり、艶っぽく笑った。
「そうだなぁ。翔太から俺に、キスしてもらおっか? それも、めちゃくちゃ濃厚なやつ♡」
「えっと……。あの……。初心者にそれは、少しハードルが高過ぎやしませんかね?」
「お仕置きだからな。ほら、翔太。はーやーくー!」
それから朔は、瞳を閉じてしまった。
以前彼に、自分からキスをしたことが一度だけある。
だけどその時のキスは、ただ触れ合うだけ……というよりは、唇同士がぶつかり合うようなキスだった。
彼の形のよい唇をじっと見つめたまま、ゴクリと唾を飲み込む。
だけど、俺も男だ。やってやんよ!
覚悟を決めて、目を閉じて。うっすらと開かれた朔の唇に、自らの意思で舌先を滑り込ませた。
この男に、これ以上動揺しているところを見せるのは絶対に嫌だった。
だから余裕があるふりをして、ニヤリと笑って言ってやった。
だけど朔は笑みを返して、冷たい声色で答えたのだ。
「やり過ぎ? こんなのまだ、全然序の口だけど。……だってこれから翔太は、俺に抱かれるんだから」
その表情はゾクゾクするほど妖艶なのに、彼の瞳の奥はやっぱり冷めたままだ。
だから俺は、一方的に幼なじみをやめたいと言ったことへの腹いせとして、嫌がらせにこんな真似をされているのだと気付いた。
「ほんとお前は、どうしようもない節操なしなんだな。男でも、女でも。……幼なじみで親友の俺でもいいって、まじでサイテーじゃん」
吐き捨てるように言った言葉を、彼は鼻で笑った。
「どうとでも言えよ。どうせお前は俺が何を言ったって、信じないんだから」
乱暴にダウンジャケットを脱がされ、ニットの中に手を入れられた。
たとえばこれが、彼と思いが通じ合った上での行為なら。……俺はきっと、喜んでこいつのことを受け入れるだろう。
だけど、そうじゃない。この男はどうせカノジョと予定が合わなかったとか、そんな理由で俺を利用しようとしているだけなのだから。
「なんだよ、それ。でも、もういいや。好きにしろよ、朔。……もう、疲れた」
頬を伝っていく、たくさんの涙。
全身の力を抜いて、俺はすべての抵抗をやめた。
戸惑ったように揺れる、朔の漆黒の瞳。
でももう本当に、何もかもどうでもいい。
俺を抱くことでしかこいつが満足出来ないのであれば、それが終わるのをただ待ち続けることしか、どの道俺には方法がないのだから。
だけど朔はその言葉を聞き、俺の体を解放した。
それから彼は、これまで俺が見たことないくらい悲しそうに笑って言ったのだ。
「ごめん……。お前の言う通りだな。幼なじみを、終わりにしよう」
これはすべて、俺が望んだことだ。なのに彼にそれを受け入れられた瞬間、深い絶望が俺を包み込んだ。
そう。俺は心のどこかで、信じていたんだ。……彼が俺の傍から、離れるはずがないって。
なんて傲慢で、自分勝手な思い上がりだったんだろう。
それに今さら気付き、声を上げて笑った。
「アハ……。アハハ……! ありがとう、朔。俺のこと、解放してくれて」
だけど彼は先ほどとは異なり、優しく俺の体を抱き寄せた。
「ごめんな、翔太。もう俺の言葉なんて、お前には届かないと思うけど、最後にこれだけ言わせて。……ずっと、好きだったよ。俺はお前のことを、愛してる。これから先、もう二度と話さなくなったとしても、それは絶対に変わらない」
彼の言葉に、耳を疑った。
「何言ってんの? お前。そんなわけねぇじゃん。だってお前、沢渡センパイと……」
そこまで言ったところで、朔はハッとしたように再び俺を見つめた。
それから彼は、真剣な声色で聞いた。
「ちょっと待って、翔太。……なんでそこで、沢渡センパイの名前が出てくんの?」
しまったと思った時には、もう遅かった。
いつものように何を考えているのかまったく分からない笑みを浮かべ、朔が問い詰めるように再び聞いた。
「翔太? お前ももしかして、あのクソみたいな噂を信じてたわけ?」
先ほどの告白に動揺する俺を、再び押し倒す朔。
しかも今度は顔をそらすことが出来ないように、頬を手で固定するというオプション付き。
「信じるも、何も。クソみたいな噂じゃなくて、全部真実だよな?」
「真実……。じゃあ、聞くけど。なんで翔太は、あれが全部真実だって言い切れるわけ?」
にこにこと笑って聞かれたけれど、ピキリと彼のこめかみに青筋が浮かんでいるのが分かる。
そのためさっきまでとは異なる意味で、逃げ出したい衝動に駆られた。
だけどどうやってもこのまま逃がしてくれるとは考えられなかったから、半ばヤケクソで、早口のまままくし立てるように答えた。
「だって俺、見たもん! 沢渡センパイが、お前んちから出てくるとこ! それに忘れ物を届けてくれて、ありがとうってメッセージも! 全部俺は、知ってるんだからな!!」
それから朔は大きなため息をひとつ吐き出して、わざとらしく頭を抱えた。
「……馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたけど、まさかこれほどだったとはな」
突然の、暴言。それに驚き、彼の顔をじっと見つめた。
「翔太さんや。……それ全部、お前の勘違いだから」
「んなわけ、あるか! 家まで連れ込んでおいて、よくもまぁそんな言い訳が出来たもんだな!?」
すると朔は、再びにっこりとほほ笑んで言った。
「うん、たしかに連れ込んだな。それこそ、何回も連れ込んでるよ」
「開き直りやがって! やっぱお前、ヤリチンのクソ野郎じゃねぇか!」
ギャアギャアと叫ぶ俺の耳を強く引っ張り、そのまま耳元で朔が叫んだ。
「俺じゃなくて、兄貴がな!!」
「へ……?」
間抜けな声が、唇からこぼれ出た。
***
「ごめんってば、朔! まじで、悪かったって!」
朔から受けた説明によると。……沢渡センパイは朔ではなく、彼の兄のカノジョだった。
そのため朔はセンパイの忘れ物を届けるために、パシリとして使われていたというわけだ。
ちなみに朔と彼の兄は激似で、それを見た大学の奴らが勘違いして大騒ぎをしていたというだけの話だった。
最初に見た『あそぼ♡』というメッセージも、やや天然なところのある沢渡センパイが間違えて朔に送ったものだったことが判明した。
実際にその後のやり取りのメッセージも見せてもらったから、間違いない。
誤解が完全に解け、朔に平謝りする俺。
でも朔はネチネチと、いつまでも嫌味を言い続けている。
「俺のこと、どんだけ信用してないわけ? まじで、傷付いたわぁ……」
グッと口ごもり、涙目で朔の顔を見上げた。
すると朔はいつもみたいに意地悪く口角を上げ、ニヤリと笑った。
「まぁでも、言葉でならなんとでも言えるよな。ちゃんと、態度で示してもらわないと」
「態度で……?」
その言葉に困惑し、ただ彼の発した言葉を繰り返した。
すると朔は俺の頬に手をやり、艶っぽく笑った。
「そうだなぁ。翔太から俺に、キスしてもらおっか? それも、めちゃくちゃ濃厚なやつ♡」
「えっと……。あの……。初心者にそれは、少しハードルが高過ぎやしませんかね?」
「お仕置きだからな。ほら、翔太。はーやーくー!」
それから朔は、瞳を閉じてしまった。
以前彼に、自分からキスをしたことが一度だけある。
だけどその時のキスは、ただ触れ合うだけ……というよりは、唇同士がぶつかり合うようなキスだった。
彼の形のよい唇をじっと見つめたまま、ゴクリと唾を飲み込む。
だけど、俺も男だ。やってやんよ!
覚悟を決めて、目を閉じて。うっすらと開かれた朔の唇に、自らの意思で舌先を滑り込ませた。

