アルバイトが終わり、自宅へ帰る途中。
朔の家から、沢渡センパイが出てくるのを見かけた。
これまではあくまでも、噂話として聞いただけだった。
たまたま見かけたメッセージも、もしかしたら友人としてのやり取りなのかもしれないと考え、無理やりふたりの関係性を否定してきた。
だけど実際に彼女が彼の家を訪れている場面に遭遇してしまったら、もう認めるしかないじゃないか。
……やっぱりふたりは、付き合っているのだと。
「何が、童貞だよ。……やっぱ、嘘じゃん」
乾いた笑いがこぼれた。
***
その日は結局一睡も出来ないまま、朝を迎えてしまった。
そのため朝大学で会うと、朔は心配そうに俺の額に触れた。
「おはよう、翔太。どうした? もしかして、体調が悪いのか?」
でも別に、体調が悪いわけじゃない。ただの寝不足だ。
だけどそう答えたら、確実にその理由を聞かれることになるだろう。
だからヘラヘラと笑って、当たり障りのない答えを返した。
「うーん、どうだろ? けど熱とかはないと思うし、大丈夫だよ」
彼の手を避けるようにして、机の上に筆箱とパソコンを置いた。
すると朔はなんとなく納得がいかないような顔をしていたけれど、そこで教授が教室に入ってきたからそれ以上何か追及されることはなかった。
***
それからも俺は『普通』を装おうとしたけれど、全然駄目で。
無理して笑おうとすればするほどうまくいかなくて、朔のことを避けるようになった。
でも幸いそのまま大学が冬休みに入ってくれたおかげで、朔と会う機会は格段に減った。
これまで冬休みといえば、なんとなくだけれど彼に誘われ、イベントを一緒に過ごすことが多かったように思う。
考えてみたらクリスマスも、初詣も、いつだって俺たちは一緒だった。
いつか彼に、聞いてみたことがある。クリスマスに一緒にいなくて、カノジョは大丈夫なのかって。
だけど彼はニッと笑って、こう答えた。
『今はいないから、平気だよ。もしいたら、お前じゃなくてカノジョと過ごすし』
その言葉に納得した俺は、それ以降彼に同じ質問をすることはなくなった。
『24日って、なんか予定ある?』
当たり前みたいに届いた、朔からのメッセージ。
きっと今年もまたどこかに誘われるのだろうと分かっていたから、暗に断る内容の返事を送った。
『今年のクリスマス・イブはバイトの予定入れてて、その後はバ先の友だちと飲みに行く予定』
半分は本当、だけど半分は嘘。
アルバイトはあるけれど、その後飲みに行く予定なんかない。
なぜなら亮平もそれ以外の仲のよい友だちも、デートの約束があるからとバイトの予定自体を入れていないからだ。
そのため恋人のいない俺が店長に泣きつかれ、シフトに入ることになったのだ。
「……恋人が出来たなら、そっちを優先させればいいのに」
ひとりきりの部屋で、ポツリと呟いた。
***
クリスマス・イブの夜。アルバイトを終えて店の外に出たら、朔がガードレールにもたれかかるようにして俺を待っていた。
それに驚き、慌てて彼に駆け寄る。
すると朔はにっこりとほほ笑み、立ち上がった。
「なぁ、翔太。今日はこの後、バイト先の友だちと飲みに行くんじゃなかったの?」
笑っているはずなのに、どこか冷たい朔の瞳。
嘘がバレたことに激しく動揺しながらも、少しでも早くこの時間を終わらせたくて早口で答えた。
「アハハ、バレた? うん、嘘だよ。約束なんて、誰ともしてない」
怪訝そうに、眉根を寄せる朔。だけど俺は笑顔を崩すことなく、今最も俺が望んでいることだけを告げることにした。
「朔さんや。……もう幼なじみを、やめないか?」
「え……?」
本気で戸惑ったように、俺を見下ろす朔の瞳が大きく見開かれた。
こんな風に動揺する、朔の姿は珍しい。おかげで、少しだけ気が晴れた。
「だーかーらー! 幼なじみを、もうやめようって言ったんだよ」
『だってお前には、カノジョがいるのに』
最後の言葉は、グッと飲み込んだ。
「……それは、なんで?」
うつむき、顔をそらして言われた。
そのせいで朔の表情を見ることが出来ないけれど、かえって好都合かもしれない。
……だっておかげで今にも泣き出してしまいそうな、情けない俺の本心がバレずに済むのだから。
「だって予定があるって言ってんのに、わざわざクリスマス・イブの夜に俺のバ先まで来て待ち伏せって。……こんなの、絶対におかしいじゃん」
クスクスと笑いながら告げると、彼は静かな声で答えた。
「……分かった。翔太が、それを望むなら」
それからゾッとするほど冷たい笑みを浮かべ、彼は俺の手首を掴んで言った。
「だけど、勘違いすんなよ? 俺から逃げるだなんて、絶対に許さない。お前は、俺の。……俺だけのものだから」
「は……? 俺だけのものって……。お前ほんと、何言ってんの?」
誰よりも俺のことを理解してくれて、意地悪だけれど誰よりも優しい朔。
だけど俺の言葉が彼の逆鱗に触れ、こんなにも怒らせてしまったのだということだけはよく分かった。
そのまま俺の手を引き、ズンズンと勢いよく歩いていく朔。
いつもなら俺が本気で嫌がることは絶対にしないのに、今日はどれだけ嫌だと言っても手を離してはくれない。
連れて行かれたのは、朔の部屋だった。
「ごめんな、翔太。どうやら俺、やり方を間違えたみたいだわ。……こうして最初から、無理やり奪うべきだったんだな」
それだけ言うと彼は俺をベッドの上に押し倒し、乱暴に口づけた。
朔の家から、沢渡センパイが出てくるのを見かけた。
これまではあくまでも、噂話として聞いただけだった。
たまたま見かけたメッセージも、もしかしたら友人としてのやり取りなのかもしれないと考え、無理やりふたりの関係性を否定してきた。
だけど実際に彼女が彼の家を訪れている場面に遭遇してしまったら、もう認めるしかないじゃないか。
……やっぱりふたりは、付き合っているのだと。
「何が、童貞だよ。……やっぱ、嘘じゃん」
乾いた笑いがこぼれた。
***
その日は結局一睡も出来ないまま、朝を迎えてしまった。
そのため朝大学で会うと、朔は心配そうに俺の額に触れた。
「おはよう、翔太。どうした? もしかして、体調が悪いのか?」
でも別に、体調が悪いわけじゃない。ただの寝不足だ。
だけどそう答えたら、確実にその理由を聞かれることになるだろう。
だからヘラヘラと笑って、当たり障りのない答えを返した。
「うーん、どうだろ? けど熱とかはないと思うし、大丈夫だよ」
彼の手を避けるようにして、机の上に筆箱とパソコンを置いた。
すると朔はなんとなく納得がいかないような顔をしていたけれど、そこで教授が教室に入ってきたからそれ以上何か追及されることはなかった。
***
それからも俺は『普通』を装おうとしたけれど、全然駄目で。
無理して笑おうとすればするほどうまくいかなくて、朔のことを避けるようになった。
でも幸いそのまま大学が冬休みに入ってくれたおかげで、朔と会う機会は格段に減った。
これまで冬休みといえば、なんとなくだけれど彼に誘われ、イベントを一緒に過ごすことが多かったように思う。
考えてみたらクリスマスも、初詣も、いつだって俺たちは一緒だった。
いつか彼に、聞いてみたことがある。クリスマスに一緒にいなくて、カノジョは大丈夫なのかって。
だけど彼はニッと笑って、こう答えた。
『今はいないから、平気だよ。もしいたら、お前じゃなくてカノジョと過ごすし』
その言葉に納得した俺は、それ以降彼に同じ質問をすることはなくなった。
『24日って、なんか予定ある?』
当たり前みたいに届いた、朔からのメッセージ。
きっと今年もまたどこかに誘われるのだろうと分かっていたから、暗に断る内容の返事を送った。
『今年のクリスマス・イブはバイトの予定入れてて、その後はバ先の友だちと飲みに行く予定』
半分は本当、だけど半分は嘘。
アルバイトはあるけれど、その後飲みに行く予定なんかない。
なぜなら亮平もそれ以外の仲のよい友だちも、デートの約束があるからとバイトの予定自体を入れていないからだ。
そのため恋人のいない俺が店長に泣きつかれ、シフトに入ることになったのだ。
「……恋人が出来たなら、そっちを優先させればいいのに」
ひとりきりの部屋で、ポツリと呟いた。
***
クリスマス・イブの夜。アルバイトを終えて店の外に出たら、朔がガードレールにもたれかかるようにして俺を待っていた。
それに驚き、慌てて彼に駆け寄る。
すると朔はにっこりとほほ笑み、立ち上がった。
「なぁ、翔太。今日はこの後、バイト先の友だちと飲みに行くんじゃなかったの?」
笑っているはずなのに、どこか冷たい朔の瞳。
嘘がバレたことに激しく動揺しながらも、少しでも早くこの時間を終わらせたくて早口で答えた。
「アハハ、バレた? うん、嘘だよ。約束なんて、誰ともしてない」
怪訝そうに、眉根を寄せる朔。だけど俺は笑顔を崩すことなく、今最も俺が望んでいることだけを告げることにした。
「朔さんや。……もう幼なじみを、やめないか?」
「え……?」
本気で戸惑ったように、俺を見下ろす朔の瞳が大きく見開かれた。
こんな風に動揺する、朔の姿は珍しい。おかげで、少しだけ気が晴れた。
「だーかーらー! 幼なじみを、もうやめようって言ったんだよ」
『だってお前には、カノジョがいるのに』
最後の言葉は、グッと飲み込んだ。
「……それは、なんで?」
うつむき、顔をそらして言われた。
そのせいで朔の表情を見ることが出来ないけれど、かえって好都合かもしれない。
……だっておかげで今にも泣き出してしまいそうな、情けない俺の本心がバレずに済むのだから。
「だって予定があるって言ってんのに、わざわざクリスマス・イブの夜に俺のバ先まで来て待ち伏せって。……こんなの、絶対におかしいじゃん」
クスクスと笑いながら告げると、彼は静かな声で答えた。
「……分かった。翔太が、それを望むなら」
それからゾッとするほど冷たい笑みを浮かべ、彼は俺の手首を掴んで言った。
「だけど、勘違いすんなよ? 俺から逃げるだなんて、絶対に許さない。お前は、俺の。……俺だけのものだから」
「は……? 俺だけのものって……。お前ほんと、何言ってんの?」
誰よりも俺のことを理解してくれて、意地悪だけれど誰よりも優しい朔。
だけど俺の言葉が彼の逆鱗に触れ、こんなにも怒らせてしまったのだということだけはよく分かった。
そのまま俺の手を引き、ズンズンと勢いよく歩いていく朔。
いつもなら俺が本気で嫌がることは絶対にしないのに、今日はどれだけ嫌だと言っても手を離してはくれない。
連れて行かれたのは、朔の部屋だった。
「ごめんな、翔太。どうやら俺、やり方を間違えたみたいだわ。……こうして最初から、無理やり奪うべきだったんだな」
それだけ言うと彼は俺をベッドの上に押し倒し、乱暴に口づけた。

