レッスン! 〜幼なじみを終わらせる、正しい方法〜

 待ち合わせ場所として指定した、映画館の入っているおしゃれな商業施設。オープンしたばかりの時間だというのに、建物内はすでにたくさんの若者の姿があった。
 この間の朔のレクチャーを思い出しながら立てた俺のデート計画は、完璧なはずだ。混んでいても大丈夫なように事前にチケットも取ってあるし、ランチのための店だって予約済み。
 ……とはいえその店は、早苗さんもイタリアンがいいと言ってくれたから、この間朔とともに訪れたあの店だけれど。
 
 だから今日の早苗さんとの初デート、絶対に成功させてみせる! それで朔に、俺もやれば出来るんだというところを見せて安心させたい。
 ……いつまでも俺の相手をさせて、彼の貴重な時間をこれ以上浪費させるわけにはいかないのだから。

 前回の教訓を活かして、今日は約束の時間の10分前に到着してのスタンバイ。
 でも彼女は、15分ほど遅刻してやって来た。

「しょーた君、ごめんね! 髪を巻くのに失敗したせいで、ちょっと遅刻しちゃった♡」
 
 その言い訳の言葉に少しだけ違和感を感じながらも、ぱちんと手を合わせて可愛く謝られると、一気にテンションが上がった。
 だから俺はデレデレと顔の筋肉を緩め、へらへらと笑いながら答えた。
 
「ううん、全然大丈夫です。それよりも、今日はありがとうございます。俺と、会ってくれて」

 すると彼女は俺の腕に腕を絡め、上目遣いに顔を見上げた。

「ふふ、しょーた君可愛い♡ でもそんな丁寧な言葉遣いじゃなくていいよ、タメ口の方が私も嬉しいし」

 む、胸が腕に当たってるんだが!?
 やっぱり、女の子サイコー! ……朔にドキドキさせられたのは、やっぱり一時の気の迷いだったようだ。

 それに少し安堵したものの、その瞬間、いま着ているのが朔に借りた例のジャケットとニットなのだと思い出してしまった。
 ふわりと香る、柔軟剤の優しい香り。……これ、朔の匂いだ。

 だけどその時風が吹き、早苗さんがつけている香水の香りが漂ってきた。女の子らしい、甘いフローラル調の香水は、彼女の雰囲気にとてもよく合っているように思う。
 なのになんとなく落ち着かなくなり、また少し戸惑った。

***

 事前に確認していた、彼女が観たいと言っていた恋愛映画を。チケットを引き換え、戻ると彼女は誰かとスマホでやり取りをしているようだった。
 だからそれが終わるのを待ち、ドリンクとスナック類を購入するため列に並ぶ。
 だけどそこで、計算外のちょっとしたトラブルが発生する。
 
「あー……、私はポップコーンはいいや。カロリーとか、気になるし」

「そっか……。じゃあ、俺の分だけ買うね」

 もちろんこれは、彼女が悪いわけじゃない。だけど朔ならきっと、断るにしてもこんな言い方は絶対にしないだろう。
 そんな風についあいつと彼女を比べてしまい、罪悪感に襲われた。

 それでも無理やり気持ちを切り替えて、劇場内に入ると朔に教えてもらったように、彼女に向かい手を差し出した。
 すると彼女は俺の手を取り、にこっと可愛く笑った。朔の節くれだった男らしい手とはまったく違う、小さな手。
 その感触に、ドキドキしてしまった。
 だからそれにちょっとだけホッとしたというのに、映画の予告が始まると彼女はクスクスと笑いながら思わぬ言葉を口にした。

「この映画、やっぱりB級感がすごいね。話題になってたから1は見たけど、こんなのの続編、見たい人いるのかなぁ」

 それはこの間朔と映画を見に来た時に流れていたのと、同じ映画の予告映像で。……俺が公開が楽しみだと騒いだ、あの映画だった。
 だけどせっかくのデートに水を差すのは嫌だったから、ただ曖昧に笑った。

***

 彼女の希望で選んだ、恋愛映画。俺は恋愛リアリティ番組をこよなく愛しているため、ドキドキしながら楽しむことが出来た。
 だけど早苗さんは、そうじゃなかったらしい。

「思ったより、子どもっぽい内容だったね。これなら、他のにすればよかった」

 マッチングアプリでやり取りしていた時は、普通に楽しかった。そして彼女は俺よりも年上だから、もっと大人なのだと思っていた。
 ……だけどこんな風に何事に対しても否定的で、楽しんだ人間がいるかもしれないのに思ったことをすぐに口にするその態度に、次第に違和感を覚えるようになった。
 ……こんなことで恩を着せるつもりはさらさらないが、俺がチケットを予約し、バイト代を使って購入したというのに。

 この間、朔と一緒に予行演習としてデートで来た時は、もっとずっと楽しかったはずなのに。

 本当はランチのための店も予約していたけれど、このまま一緒にいたとしても、きっと俺はさらに彼女の嫌な部分に気づき、お互い楽しめないまま今日という日を終えることになるだろう。
 だったらいっそのこと、ここで別れた方がいいのかもしれない。

 そんなことを考えていた矢先に、彼女は再び俺に腕を絡めてきた。
 さっきはこれが嬉しかったけれど、チケットを購入して戻ってきた時、実は俺は見てしまったのだ。
 ……別の男とアプリでやり取りする、メッセージを。

 誰でもいいなら、俺じゃなくてもいいじゃん。……俺は俺だけを愛してくれて、俺も心から好きだと思える相手じゃないと絶対に嫌なのに。

「それで、ランチはどうしよっか? しょーた君、お店調べてきてくれてるんだよね?」

 当たり前みたいに聞かれ、逃げ場を奪われた。だからあまり乗り気ではなかったけれど、事前に予約していた店に向かった。