「なぁ、朔……。俺にはやっぱり、恋人が必要だと思うんだ!!」
ダンと机を鳴らすように、ふたつの拳を叩きつけた。
「ふーん、恋人ねぇ。俺は別にいらないと思うけど」
俺の熱い宣言に、俺の幼なじみで大学一のモテ男、如月 朔は興味なさそうにスマホをいじりながら答えた。
だからそれに苛立ち、彼の手からスマホを奪い取った。
「それは、お前の決めることじゃねぇだろ? 俺には、絶対に必要なの!!」
力強く再び告げると朔は気だるそうに顔を上げ、ようやく俺の方を向いた。
「へぇ……。まぁ別に、いいんじゃない? やる気になるのは、いいことだと思うよ。その望みが叶う、叶わないは別として」
ニンマリと意地悪くゆがむ、朔の形のいい唇。
それを見て、眉間に深いしわが寄るのを感じた。
「本当に、失礼な野郎だな。だが、今に見てろよ。めちゃくちゃ可愛いカノジョを作って、お前を見返してやるから」
すると朔は、なぜか一瞬だけ考えるような素ぶりを見せた。
だけどすぐにいつもみたいに飄々とした笑みを浮かべ、答えた。
「そこまで言うってことは、何か策でもあるわけ? まさか毎度お得意の、根性論じゃないよな?」
このように言われてしまうのには、実はわけがある。
というのも俺は周囲に『カノジョが欲しい』と公言しているし、合コンなどの類にも積極的に参加しているのだ。
にもかかわらず、いい感じなのじゃないかと思った矢先にいつもあっさりふられてしまう。
……他に好きな人が出来たから、ごめんなさいと言われて。
体のいい断り文句かとも思ったのだが、それにしてはタイミングが良すぎる気がする。
だから彼女たちはみな、俺を傷付けないように気遣ってくれていたのかもしれない。
そんな過去の苦い経験に思いを馳せていたら、奪ったスマホを今度は朔が俺から奪い返した。
「あるよ、あるに決まってるじゃん! マッチングアプリを入れたら、結構たくさんの女の子たちから連絡が来てさぁ。……なんとこの度、三つ年上のお姉さんと会うことになりました!」
ドヤ顔での、勝利宣言。
すると朔は、唖然とした様子で俺の顔を見つめた。
「……相手は、どんな女?」
「女って言うな、俺の未来のカノジョだぞ! ほら、この人。めちゃくちゃ美人じゃね?」
自分のスマホを操作して、早苗さんの写真を画面に映し出した。
すると朔はその写真を凝視したあと、ボソッと小さな声で呟いた。
「巨乳に、茶髪カールロング。……いかにもお前が、好きそうなタイプだな」
「だろう? これは俺、ついに童貞卒業のチャンス到来かも!」
その瞬間聞こえてきた、チッという舌打ちのような音。
それに驚き朔の方を向いたけれど、彼はにっこりと微笑んでいるからきっと、気のせい……だよな?
「なるほどね。たしかにこれは、ワンチャンあるかもな」
いつになく肯定的な、朔の言葉。
そのおかげでテンションが一気に上がったというのに、彼は再びケチをつけ始めた。
「でもそんな大人な女の人、翔太と話が合うかねぇ? っていうかそもそもの話、お前ちゃんとしたデートなんてしたことがないんじゃないか?」
彼の繰り出す言葉による連続攻撃により、ぐうの音も出ない!
それでも言われっぱなしは嫌だったから、言い訳のようにボソボソと呟いた。
「何事も最初は、誰だって初心者だろう? それに経験はなくとも、しっかりバッチリ履修済みだし……」
「履修済みって、まさか。……お前がいつもギャアギャア大騒ぎしてる、恋愛リアリティ番組のなんちゃらハウスの話じゃないだろうな?」
本当に、腹立たしいやつめ。
……なんでこの男には、そんなことまでバレてしまうのだ。
「……黙ったってことは、ビンゴだな」
小馬鹿にしたように笑って言われ、涙目で彼の綺麗な顔を睨みつけた。
「だって、仕方ないだろう? 俺だって相手がいたら、こんなに困ってねえよ。みんながみんな、朔みたいに何もしなくても女の子たちが寄ってくるわけじゃないんだからさぁ」
そう。朔は、モテる。めちゃくちゃ、モテる。
それこそ小学生の頃から、俺が好きになった子は軒並み彼のことを好きになり、奪われてきたといっても過言ではない。
とはいえ俺は好きな子が誰かなんて彼に話したことはないから、すべて偶然の一致だと思うけれど。
「いくらモテても、意味はないけどな。……本当に好きな相手に、好きになってもらえなきゃ」
ボソッと、つぶやかれた言葉。
それに驚き、彼の顔を見上げた。
「え……。朔、お前まさか好きな子がいんの? もしかして、俺の知ってる子?」
これまで彼からこの手の話をされたことがなかったから、初めての恋バナにわくわくしながら聞いた。
だけど彼はいつものように微笑んで、しれっと答えた。
「内緒、翔太にだけは絶対に教えない」
いや、ほんとなんでだよ!!
しかしその言葉を口にする前に、彼が笑顔のまま告げた提案のせいでそんな些細な疑問はあっさり遥か彼方へと噴っ飛んでいった。
「俺がレクチャーしてやろうか? 年上カノジョとの、模擬デート♡」
百戦錬磨のモテ男、朔のレクチャーだと?
そんなの。……そんなの、受けてみたいに決まってる!
「よろしくお願いします、朔様!!」
恥も外聞も捨てて即座に大声で答え、頭を下げた。
ダンと机を鳴らすように、ふたつの拳を叩きつけた。
「ふーん、恋人ねぇ。俺は別にいらないと思うけど」
俺の熱い宣言に、俺の幼なじみで大学一のモテ男、如月 朔は興味なさそうにスマホをいじりながら答えた。
だからそれに苛立ち、彼の手からスマホを奪い取った。
「それは、お前の決めることじゃねぇだろ? 俺には、絶対に必要なの!!」
力強く再び告げると朔は気だるそうに顔を上げ、ようやく俺の方を向いた。
「へぇ……。まぁ別に、いいんじゃない? やる気になるのは、いいことだと思うよ。その望みが叶う、叶わないは別として」
ニンマリと意地悪くゆがむ、朔の形のいい唇。
それを見て、眉間に深いしわが寄るのを感じた。
「本当に、失礼な野郎だな。だが、今に見てろよ。めちゃくちゃ可愛いカノジョを作って、お前を見返してやるから」
すると朔は、なぜか一瞬だけ考えるような素ぶりを見せた。
だけどすぐにいつもみたいに飄々とした笑みを浮かべ、答えた。
「そこまで言うってことは、何か策でもあるわけ? まさか毎度お得意の、根性論じゃないよな?」
このように言われてしまうのには、実はわけがある。
というのも俺は周囲に『カノジョが欲しい』と公言しているし、合コンなどの類にも積極的に参加しているのだ。
にもかかわらず、いい感じなのじゃないかと思った矢先にいつもあっさりふられてしまう。
……他に好きな人が出来たから、ごめんなさいと言われて。
体のいい断り文句かとも思ったのだが、それにしてはタイミングが良すぎる気がする。
だから彼女たちはみな、俺を傷付けないように気遣ってくれていたのかもしれない。
そんな過去の苦い経験に思いを馳せていたら、奪ったスマホを今度は朔が俺から奪い返した。
「あるよ、あるに決まってるじゃん! マッチングアプリを入れたら、結構たくさんの女の子たちから連絡が来てさぁ。……なんとこの度、三つ年上のお姉さんと会うことになりました!」
ドヤ顔での、勝利宣言。
すると朔は、唖然とした様子で俺の顔を見つめた。
「……相手は、どんな女?」
「女って言うな、俺の未来のカノジョだぞ! ほら、この人。めちゃくちゃ美人じゃね?」
自分のスマホを操作して、早苗さんの写真を画面に映し出した。
すると朔はその写真を凝視したあと、ボソッと小さな声で呟いた。
「巨乳に、茶髪カールロング。……いかにもお前が、好きそうなタイプだな」
「だろう? これは俺、ついに童貞卒業のチャンス到来かも!」
その瞬間聞こえてきた、チッという舌打ちのような音。
それに驚き朔の方を向いたけれど、彼はにっこりと微笑んでいるからきっと、気のせい……だよな?
「なるほどね。たしかにこれは、ワンチャンあるかもな」
いつになく肯定的な、朔の言葉。
そのおかげでテンションが一気に上がったというのに、彼は再びケチをつけ始めた。
「でもそんな大人な女の人、翔太と話が合うかねぇ? っていうかそもそもの話、お前ちゃんとしたデートなんてしたことがないんじゃないか?」
彼の繰り出す言葉による連続攻撃により、ぐうの音も出ない!
それでも言われっぱなしは嫌だったから、言い訳のようにボソボソと呟いた。
「何事も最初は、誰だって初心者だろう? それに経験はなくとも、しっかりバッチリ履修済みだし……」
「履修済みって、まさか。……お前がいつもギャアギャア大騒ぎしてる、恋愛リアリティ番組のなんちゃらハウスの話じゃないだろうな?」
本当に、腹立たしいやつめ。
……なんでこの男には、そんなことまでバレてしまうのだ。
「……黙ったってことは、ビンゴだな」
小馬鹿にしたように笑って言われ、涙目で彼の綺麗な顔を睨みつけた。
「だって、仕方ないだろう? 俺だって相手がいたら、こんなに困ってねえよ。みんながみんな、朔みたいに何もしなくても女の子たちが寄ってくるわけじゃないんだからさぁ」
そう。朔は、モテる。めちゃくちゃ、モテる。
それこそ小学生の頃から、俺が好きになった子は軒並み彼のことを好きになり、奪われてきたといっても過言ではない。
とはいえ俺は好きな子が誰かなんて彼に話したことはないから、すべて偶然の一致だと思うけれど。
「いくらモテても、意味はないけどな。……本当に好きな相手に、好きになってもらえなきゃ」
ボソッと、つぶやかれた言葉。
それに驚き、彼の顔を見上げた。
「え……。朔、お前まさか好きな子がいんの? もしかして、俺の知ってる子?」
これまで彼からこの手の話をされたことがなかったから、初めての恋バナにわくわくしながら聞いた。
だけど彼はいつものように微笑んで、しれっと答えた。
「内緒、翔太にだけは絶対に教えない」
いや、ほんとなんでだよ!!
しかしその言葉を口にする前に、彼が笑顔のまま告げた提案のせいでそんな些細な疑問はあっさり遥か彼方へと噴っ飛んでいった。
「俺がレクチャーしてやろうか? 年上カノジョとの、模擬デート♡」
百戦錬磨のモテ男、朔のレクチャーだと?
そんなの。……そんなの、受けてみたいに決まってる!
「よろしくお願いします、朔様!!」
恥も外聞も捨てて即座に大声で答え、頭を下げた。

