「初めてここへ来た頃の、警戒心に満ちた小動物のような様子が嘘のようです。もはや、この天幕の(あるじ)も同然の落ち着き様ですな」

 子睿のいつもの揶揄(からか)い。反論するのも、真に受けるのも時間の無駄。玉蓮は、黙って聞き流そうとしたが、「なあ、玉蓮」と牙門が名を呼んだ。牙門はまだ、笑い疲れから完全に回復していない様子で、ひいひいと目に涙を溜めながら少し苦しそう。

「なんで迅のイカサマが分かったんだ? 俺は、今まで、どんなに集中しても一度も見抜けたことがねえのに。こいつは、本当に天性の詐欺師だと思ってたぜ」

 玉蓮は、地図から目を離さずに答える。

「集中していれば、誰でも気づくことです。問題は、牙門が迅のイカサマに乗ることを楽しんでいるから、見抜こうという意図が薄れているだけでしょう」

 その言葉は、牙門の図星を突いたようで、彼は「うっ」と呻き、反論の言葉を見つけられずに頭を掻いた。子睿は、また面白そうに、ふふふと笑い声を上げた。肘で迅の脇腹を小突きながら、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる。

「だそうですよ、迅さん」

「玉蓮に言わせると、牙門は俺のイカサマを楽しんでるってことだな! ま、あながち間違いでもねえ。これからも遊んでやるからな、俺の可愛い牙門ちゃんよ!」

 迅は、まるで勝ち誇ったかのように胸を張り、片目を閉じて笑いかけた。

「なーにが遊んでやるだ。俺が遊んでやってんだよ、このイカサマ師が」

 牙門は、即座に、心底うんざりしたという調子で言い返した。