闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 顔を上げ、首を小さく横に振る。

「大王様、なりませぬ。あれは傾国(けいこく)ともいうべき存在。あの姫を後宮にお入れになることだけは——」

「良い、崔瑾。それよりも、お前が進言していた、大孤(だいこ)*との連合による白楊(はくよう)国侵攻の話があったな」
(*大孤(だいこ)・・・玄済(げんさい)国の北方に位置する騎馬民族国家。)

 一瞬、言葉を失う。しかし、国家の安寧(あんねい)を願う忠臣としての務めが、彼の背筋を伸ばさせた。

「は、大王様。近年の白楊(はくよう)は、その侵攻を止めることなく我が国を侵略しております。国境を荒らし、民を苦しめ、その横暴は目に余るものがございます。その牙を()つために、我が国と大孤(だいこ)国とが手を組み、白楊(はくよう)国を討つ他ないかと——」

 崔瑾は、熱意を込めて現状を訴えた。

 白楊(はくよう)国の侵略は、もはや看過できない域に達している。このままでは、いずれ自国が滅ぼされかねない。国境線は常に緊張状態にあり、いつ大規模な侵攻が起こってもおかしくない状況だった。しかし——


「——理由など良い」


 大王の冷徹な声が、謁見(えっけん)の間の重い空気を震わせ、頭を下げていた崔瑾の瞳が見開く。

「その戦、許可しよう。お前を総大将とし、大孤(だいこ)やその周辺の騎馬民族をまとめあげ、ともに白楊(はくよう)国に侵攻せよ」

 息を呑んだ。ざわりと逆撫でされるような感覚が肌を()っている。

「戦に勝利した(あかつき)には、白菊を献上せよ。血に(まみ)れ、崩れ落ちた姿でも良い」

「だ、大王……!」

 これは、戦の許可ではない。いや、許可ではあるが、それは彼に与えられた名誉ある使命ではなかった。目の前が暗くなり、全身を駆け巡る血液が煮えたぎるような感覚に襲われる。