声の振動が、耳から直接、脳を揺らす。親指が、彼女の首筋の脈打つ喉元をつう、となぞった。
その瞬間、どくん、と。まるで、もう一つの心臓が生まれたかのように、脈が跳ねた。その熱い脈動に導かれるように、冷たい刃がそこを貫く幻影が、鮮明に脳裏に浮かぶ。鮮血が舞い、命が絶たれる感触。 そのあまりに生々しい死の気配に、玉蓮は耐えきれず、ぎゅっと瞳を閉じた。
(……喉笛に、剣を)
覚悟を決めるように奥歯を噛み締める。だが、待っていた痛みは、来なかった。喉元に食い込んでいたはずの指の力が、ふっと抜ける。絞め上げる代わりに、親指の腹が、早鐘を打つ玉蓮の脈動を確かめるように、優しく、あまりにも優しく撫でた。
「ん……」
愛撫へと変わる、その境界線の曖昧さ。なぜか、赫燕の手が微かに震えたような気がして、玉蓮は恐る恐る目を開けた。目の前には、闇を纏った赫燕の美しい瞳。だが、そこにあるのは冷徹な昏さではない。代わりに揺らめくのは、行き場のない感情を持て余したような痛切な色。
「……っ」
赫燕の親指が、喉から頬へ、そして玉蓮の柔らかな唇へと滑る。その視線は熱を帯びて玉蓮を捉え、彼の顔がゆっくりと傾いていく。いつもの通り、唇が触れ合うだろう。玉蓮は抗うことを忘れ、そっと目を閉じた。
彼の唇が近づくのを待つ自分と、その闇に呑まれることを恐れる自分が、胸の中でせめぎ合う。赫燕の吐息が、鼻先をかすめた。その時。
「……朱飛のところへ戻れ」
ポツリと。吐き捨てるような、けれど縋るような低い声が、鼓膜を打った。
(え……?)
あまりにも唐突な拒絶。半ば反射的に目を開け、彼の顔を見上げる。赫燕は、苦しげに眉を寄せていた。
(なぜ、そんな瞳を向けるの——?)
「お頭、どうい——んっ!」
言葉を塞ぐように、彼の唇が押し付けられる。触れ合うなんて優しいものではない。貪るように吸い上げ、舌を絡め取っていく。
「んんっ」
抵抗する間もなく、彼の腕が玉蓮の腰を強く抱き寄せ、二人の間に隙間を許さない。息もできないほどの激しさに、玉蓮の意識は白く染まる。
「……っは、何っ」
一瞬離れた唇が、酸素を求める間も与えず、再び深く塞ぐ。玉蓮は彼の胸元を押し返そうと手を置いたが、その僅かな抵抗が、赫燕の抱擁をさらに強くした。玉蓮の髪を撫でる指の動きは乱暴で、その指先は玉蓮の頭皮に食い込んだ。
「戻れ、いいな」
「——ぁっ」
命じる唇が、次の瞬間には玉蓮の全てを塞いでいる。思考が追いつかない。ただ、熱い舌が口内を蹂躙する感覚だけが、鮮烈な現実として脳を焼き尽くしていく。
その瞬間、どくん、と。まるで、もう一つの心臓が生まれたかのように、脈が跳ねた。その熱い脈動に導かれるように、冷たい刃がそこを貫く幻影が、鮮明に脳裏に浮かぶ。鮮血が舞い、命が絶たれる感触。 そのあまりに生々しい死の気配に、玉蓮は耐えきれず、ぎゅっと瞳を閉じた。
(……喉笛に、剣を)
覚悟を決めるように奥歯を噛み締める。だが、待っていた痛みは、来なかった。喉元に食い込んでいたはずの指の力が、ふっと抜ける。絞め上げる代わりに、親指の腹が、早鐘を打つ玉蓮の脈動を確かめるように、優しく、あまりにも優しく撫でた。
「ん……」
愛撫へと変わる、その境界線の曖昧さ。なぜか、赫燕の手が微かに震えたような気がして、玉蓮は恐る恐る目を開けた。目の前には、闇を纏った赫燕の美しい瞳。だが、そこにあるのは冷徹な昏さではない。代わりに揺らめくのは、行き場のない感情を持て余したような痛切な色。
「……っ」
赫燕の親指が、喉から頬へ、そして玉蓮の柔らかな唇へと滑る。その視線は熱を帯びて玉蓮を捉え、彼の顔がゆっくりと傾いていく。いつもの通り、唇が触れ合うだろう。玉蓮は抗うことを忘れ、そっと目を閉じた。
彼の唇が近づくのを待つ自分と、その闇に呑まれることを恐れる自分が、胸の中でせめぎ合う。赫燕の吐息が、鼻先をかすめた。その時。
「……朱飛のところへ戻れ」
ポツリと。吐き捨てるような、けれど縋るような低い声が、鼓膜を打った。
(え……?)
あまりにも唐突な拒絶。半ば反射的に目を開け、彼の顔を見上げる。赫燕は、苦しげに眉を寄せていた。
(なぜ、そんな瞳を向けるの——?)
「お頭、どうい——んっ!」
言葉を塞ぐように、彼の唇が押し付けられる。触れ合うなんて優しいものではない。貪るように吸い上げ、舌を絡め取っていく。
「んんっ」
抵抗する間もなく、彼の腕が玉蓮の腰を強く抱き寄せ、二人の間に隙間を許さない。息もできないほどの激しさに、玉蓮の意識は白く染まる。
「……っは、何っ」
一瞬離れた唇が、酸素を求める間も与えず、再び深く塞ぐ。玉蓮は彼の胸元を押し返そうと手を置いたが、その僅かな抵抗が、赫燕の抱擁をさらに強くした。玉蓮の髪を撫でる指の動きは乱暴で、その指先は玉蓮の頭皮に食い込んだ。
「戻れ、いいな」
「——ぁっ」
命じる唇が、次の瞬間には玉蓮の全てを塞いでいる。思考が追いつかない。ただ、熱い舌が口内を蹂躙する感覚だけが、鮮烈な現実として脳を焼き尽くしていく。

