闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 会談の天幕へと入ると、赫燕がこちらを見ずに、無言で手を差し伸べた。玉蓮が手を合わせれば、太い指が絡められ、強く引き寄せられた。

 そのまま、彼の隣——上座の席へと座らされる。全身が、赫燕の放つ熱と苛烈な気配に包まれる。

 やがて、重厚な足音と、控えめな咳払いが聞こえ、場に新たな緊張感がもたらされた。玄済国の代表団が姿を現したのだ。そして、その中心に立つ男によって、場の空気が、それまでの緊迫感とは全く異なる静謐(せいひつ)なものへと一変する。


 ——崔瑾(さいきん)


 彼が現れた瞬間、場を支配していた赫燕の荒々しい熱気が、一瞬にして冷たく凪いだ。纏う空気は、赫燕の放つ、全てを飲み込まんとする苛烈な「闇」とも、劉永の眩しいほどの「光」とも違う。どこまでも深遠な静けさ。

 まるで深い森の奥、一切の波紋を寄せ付けぬ底なしの湖。湖面は微動だにせず、全てを映しながら、同時に呑み込んでしまいそうな畏怖を抱かせる。

 崔瑾(さいきん)が身に纏うのは、燃えるような深い緋色(ひいろ)の衣。その色に映える涼やかな瞳が、悠然と、そして真っ直ぐに向けられている。

 赫燕と崔瑾(さいきん)。正面から向き合った二人の怪物が放つ凄まじい重圧の狭間で、玉蓮は押しつぶされぬよう、深く息を吸い込み、膝の上で拳を強く握りしめた。