「……任務ですから。眠れぬはずがありません」
玉蓮が答えると、赫燕はまるで幼子を諭すかのように、ふっと息を漏らす。その短い吐息が、玉蓮の張り詰めた平静を、わずかに揺るがせた。
「任務、か。便利な言葉だな。だが、夢に見なかったか。斬った相手の顔を」
駒を掴む手に、思わず力がこもる。
「一人殺せば、そいつの顔が夢に出る。十人殺せば、十の顔だ。百人殺せば、もう誰の顔かもわからなくなる。ただの肉の塊に変わる」
彼は手にした杯の縁を指でなぞりながら、独り言のように呟く。
「だが、そうなっても、たった一人だけ、忘れられない顔が残る」
赫燕の視線が虚空を彷徨った。
いつもは揺らぐことのない、その瞳が微かにでも揺れてしまえば、玉蓮の心の臓がそれに呼応するかのようにぐらりと不安定に軋んでいく。
「そいつは、お前が殺した相手じゃねえ。お前のせいで死んだか、あるいは、お前が守れなかったやつの顔だ」
その瞬間、彼の眉根がほんのわずかに寄り、杯を持ったままのその指は、強く、白くなるほど握りしめられる。赫燕は、杯を口元に運びながらも、口をつけずに、唇をただ引き結んだ。
玉蓮が答えると、赫燕はまるで幼子を諭すかのように、ふっと息を漏らす。その短い吐息が、玉蓮の張り詰めた平静を、わずかに揺るがせた。
「任務、か。便利な言葉だな。だが、夢に見なかったか。斬った相手の顔を」
駒を掴む手に、思わず力がこもる。
「一人殺せば、そいつの顔が夢に出る。十人殺せば、十の顔だ。百人殺せば、もう誰の顔かもわからなくなる。ただの肉の塊に変わる」
彼は手にした杯の縁を指でなぞりながら、独り言のように呟く。
「だが、そうなっても、たった一人だけ、忘れられない顔が残る」
赫燕の視線が虚空を彷徨った。
いつもは揺らぐことのない、その瞳が微かにでも揺れてしまえば、玉蓮の心の臓がそれに呼応するかのようにぐらりと不安定に軋んでいく。
「そいつは、お前が殺した相手じゃねえ。お前のせいで死んだか、あるいは、お前が守れなかったやつの顔だ」
その瞬間、彼の眉根がほんのわずかに寄り、杯を持ったままのその指は、強く、白くなるほど握りしめられる。赫燕は、杯を口元に運びながらも、口をつけずに、唇をただ引き結んだ。

