外は、既に激しい雨音に包まれていた。革張りの幕を、雨粒がまるで無数の小石を投げつけるかのように、乱暴に、激しく叩き続けている。
赫燕が静かに、追い詰められた王を動かして、盤面の戦況を変える。
「——弱いままでいれば、奪われる」
ぽつりとした呟き。赫燕の一手に対して、必死に次の一手やその先を考えていた玉蓮の意識が、その小さな声に奪われた。
「奪われ続けるんだ」
唐突なその言葉は、ただその空間に漂うように響く。赫燕の顔を見ても、盤面に落とされた視線はこちらを向くことはない。
「……」
盤を見ているようで、何も捉えていない瞳に、玉蓮は言葉を返すことができなかった。空気は、ひどく重く、夜露に濡れた絹のように肌にまとわりつく。
「……あの将を斬った夜、眠れたか?」
赫燕は、視線を動かさず、ただ唇からこぼれ落ちるようにして事実だけを問うような平坦な声で尋ねた。
玉蓮は、あの日を思い出して、深く息を吸い込んだ。あの夜の土と鉄の混じった匂いが、鼻腔をかすめる錯覚に陥る。
今でも、敵将の心の臓を貫いた、あの確かな感触が手に蘇る。骨と肉を断ち切る抵抗。そして、自分を食い入るように見ている瞳が、光を急速に失い、空虚を映して白く濁っていく様が、脳裏に灼きついて離れない。
赫燕が静かに、追い詰められた王を動かして、盤面の戦況を変える。
「——弱いままでいれば、奪われる」
ぽつりとした呟き。赫燕の一手に対して、必死に次の一手やその先を考えていた玉蓮の意識が、その小さな声に奪われた。
「奪われ続けるんだ」
唐突なその言葉は、ただその空間に漂うように響く。赫燕の顔を見ても、盤面に落とされた視線はこちらを向くことはない。
「……」
盤を見ているようで、何も捉えていない瞳に、玉蓮は言葉を返すことができなかった。空気は、ひどく重く、夜露に濡れた絹のように肌にまとわりつく。
「……あの将を斬った夜、眠れたか?」
赫燕は、視線を動かさず、ただ唇からこぼれ落ちるようにして事実だけを問うような平坦な声で尋ねた。
玉蓮は、あの日を思い出して、深く息を吸い込んだ。あの夜の土と鉄の混じった匂いが、鼻腔をかすめる錯覚に陥る。
今でも、敵将の心の臓を貫いた、あの確かな感触が手に蘇る。骨と肉を断ち切る抵抗。そして、自分を食い入るように見ている瞳が、光を急速に失い、空虚を映して白く濁っていく様が、脳裏に灼きついて離れない。

