(感情を殺せ。常識を捨てろ。一点のみを見据えろ——勝つために)

盤上に浮かび上がる駒の一つ一つから、人間としての温度が消え、ただの木片になる。相手が最も嫌がる一手、最も残酷な一手を目掛けて思考を巡らせる。

(将を射るな。ここで壊すべきものは——)

「……城主の、大切なものを壊す」

その言葉を口にした瞬間、舌の裏がひやりと痺れ、腹の筋が硬くなる。

「城主の娘は、わたくしと同じく戦場に出ると聞いています。今は、右の牙門の戦場にいると。その娘を捕らえ……その首に、剣を添えて……開門を、要求します」

自身の頭の中で、刃を首に突きつける姿が浮かぶ。色も温度もない、残像の切れ端のように。だが、その言葉の一つ一つを紡いだ唇も、地図を指し示すその指も微かに震えている。

そこに突き刺さる、赫燕の視線。

「まだまだだが、悪くねえ」

その声は、低く喉の奥で笑うような響きと、深く息を吐き出すような響きが、混じり合っていた。そして、彼はゆっくりと立ち上がると、隅に置かれていた一つの古い木箱を引き寄せた。