◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇



夜、玉蓮はなかなか寝付けずに、天幕の外へと足を向けた。あれほど騒がしかった宴の喧騒は完全に消え失せている。今はただ、満月が輝き、遠くで虫の音が響く。焚き火は落ち、煙だけが空に薄くのびていた。

灰の匂いに、ほんの一筋だけ伽羅が混じった気がして、風上に視線を巡らせる。天幕から少し離れた、大きな岩の陰、そこにあったのは、たったひとりで佇む男の姿。

紫紺(しこん)の衣の裾が月に鈍く濡れ、黒髪の先が風に触れて揺れた。彼は、静かにあの紫水晶の首飾りを手のひらに載せ、じっと見つめていて、無骨な指が、儚く揺らめくその石をゆっくりと握りしめる。

玉蓮は、息を呑んだ。

天を突くかのように真っ直ぐに伸びている、あの屈強な背中が、ほんの僅かに丸まり、闇夜に浮かび上がる横顔が、まるで世界の果てに、たった一人で置き去りにされた子供のように見える。

利用すべき、ただの刃。恐れるべき、ただの獣。そう、自分に言い聞かせていたはずなのに、その意思が、がらがらと崩れていく。

懐の布越しに、木の鳥の輪郭を確かめたとき、足裏の小石が転がり、かすかな音を立てた。

(わたくしは、何を?)

足元を見れば、一歩、踏み出しかけている自分に気づく。

二人の間に横たわる静寂の中で、玉蓮は、水鏡に映る自分を見ているかのような錯覚に陥っていく。痛みを訴える胸を押さえつけて、言葉を交わすことなく、彼と同じようにただ月を見上げた。

月に引かれて、二つの影が同じ方向へ細く伸びる。