闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 朱飛(しゅひ) ◇◇◇

 ふらりと(かし)いだ彼女の体を、間一髪で受け止める。鼻先をかすめる甘い伽羅(きゃら)の香りが胸を(えぐ)る。だが、朱飛はその残酷な匂いごと、彼女を抱き止めた。

 玉蓮は、震える声で言葉を紡ぐ。

「……熱いのです」

 朱飛の衣を握りしめる、白く小さな手が震えている。

「あの人の熱が……身体の奥まで……消えないっ……」

 言葉は嗚咽(おえつ)に溶け、彼女は救いを求めるように朱飛の胸に(すが)り付く。

「……っ」

 一瞬、玉蓮を抱き潰すほどの強い力が腕にこもった。指の関節が白く浮き出るほどの力。だが、次の瞬間にはふっと緩み、壊れ物を扱うような優しさに戻る。何も言わず、その震える背中を、不器用な手つきで撫でた。

 腕の中で、玉蓮の体が小刻みに震え続けている。まるで、今にも消え入りそうな小さな炎のように。

 朱飛は、今にも崩れ落ちそうな玉蓮を抱きかかえた。小さな体の温もり。それが、これまで武骨な生き方しか知らなかった己の胸の奥に、じんわりと染み込んでいく。まるで、凍てついた大地に、初めて陽の光が差したかのような、そんな感覚。

 ゆっくりと寝台に横たえ、頭を撫でてやると、やがて、彼女の呼吸が穏やかになり、小さな寝息が聞こえ始める。

 朱飛は、その華奢な体に布と毛皮をかけた。涙の跡が残る頬を、指の背でそっと拭う。だが、その指先は、決して届かぬものに触れるかのように、微かに震えている。

 吸い寄せられるように、顔を近づける。彼女の寝息が頬にかかる距離。あと少しで、その柔らかな額に触れられる。だが——月明かりに照らされた首筋の、赤い痕が朱飛の視界を刺した。

「……ッ」

 弾かれたように身を引く。伸ばしかけた手は、行き場を失い、空中で強く握りしめられた。