冷たい風が吹き抜け、衣擦れの音が(むな)しく響く。

涙を拭う間もなく、気配が差し込んだ。見上げれば、朱飛が闇を踏みしめて立っていて、銀色の耳飾りが鈍く、優しく輝く。

「……行くぞ」

いつもと変わらない低い声が、玉蓮の張り詰めていた意識を、現実に引き戻していく。

「……朱飛」

「なんだ」

「あの人は……あの人は、なんなのです。道を、作るなどと」

玉蓮は、絞り出すような声で呟いた。

朱飛が、ただ黙って、その震える肩を支えてくれる。彼の指先から伝わる微かな温もりに、張り詰めていた玉蓮の体の力が、ほんの少しだけ抜けていく。