「あ、あなたに! あなたに、何がわかるというのです!」

尖った声が喉から出ていく。月明かりの下で振り返った赫燕(かくえん)が、こちらに真っ直ぐ視線を投げる。

「……復讐をしたいなら、手を汚せ」

次々と落とされていく首。舞い上がる血飛沫(ちしぶき)。土を覆い尽くす血溜まり。

「あなたの、やり方で……」

むせかえる血の臭い、逃げ惑う悲鳴と命を乞う眼差しが蘇る。

「こんなやり方で、本当に姉上の無念を晴らせるというのですか! 姉上が、喜んでくれるというのですか!」

敵将の心の臓を貫いた時の感覚が、まだ手に残っている。人の命を奪った感触がこの手に残っているのだ。姉が握ってくれた手は、アザだらけになり、そして今や血に塗れている。

「仇を討つために、あなたと同じ、怪物(ばけもの)になれと!」

体が支えを失ったように地へ沈んだ。土の湿り気が手のひらを濡らし、(こら)えていた涙が頬を伝って落ちる。

瞼の裏にこびりついたように、この手で命を奪った敵兵の眼差しがいくらでも蘇る。戦場に出たことを悔やんでいるわけではない。あの男の喉に刃を突き立てるのだから。ただ、溢れ出てくるこの黒い炎の行き先がわからない。

玉蓮は、手の先にある土を握りしめた。

赫燕の足音が静かに近づいてきて、やがて玉蓮の視界にその足元が見えた。そして、玉蓮の目の前まで歩み寄ると、すっとその場に膝をつく。

「——!」

玉蓮の顔が跳ねるようにして上がった。