闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


 赫燕は鼻で笑うと、地図の上に置かれた玉蓮の「兵」の駒を、指先でピンと弾き飛ばす。駒がコロコロと乾いた音を立てて転がっていく。

「勝たなきゃ、益もクソもねえ。死人に口なし、敗者に領地なしだ」

「ですが——」

「お前が城壁の前で律儀に陣を張り、攻城(こうじょう)(やぐら)を組み立てている間に、敵の援軍に背後を突かれ、食い物がなくなり、兵が倒れ、士気が落ちる。そのくだらん道とやらに従って、お前の兵が無駄に死ぬ」

 地図上の玉蓮の兵の駒が次々と薙ぎ倒されていく。

「いいか、玉蓮。城壁を殴り続けるだけの鈍重(どんじゅう)な戦など、俺はやらねえ。真の戦場はこのだだっ広い平原と国そのものだ」

「……国、そのもの?」

 彼の指が、地図の上を滑るように、動く。

「決まった形を持つな。敵が前方を守れば、その後ろを。敵が後方を守れば、その前を食い破る。あの城を、あの都を堕とすなら、敵が疲弊し、飢え、内側から腐り落ちていく機をつくる……」

 冷たく昏い瞳が、玉蓮を捉えた。そこに宿るのは、どこまでも深い闇。

(かなめ)を壊せ」

 赫燕の言葉は、どろりとした毒のように、玉蓮の耳から入り込み、腹の底へと落ちていく。吐き気がするほど残虐な論理。なのに、どうしてだろう。指先が痺れるように熱い。

「要を……壊す」

 復唱する自分の声が、歓喜に震えているように聞こえた。身を乗り出している自分がいる。地図を指す赫燕の次の言葉を、乾いた喉で待っている自分がいる。

 その事実に、玉蓮は己の唇を噛み切らんばかりに強く結んだ——だが、地図の上を滑る赫燕の指先から、視線を離すことができなかった。