「——お頭、朱飛です」
天幕の外から届けられた、静かで無機質な声。
目の前の男の動きが、ぴたりと止まる。だが、赫燕は玉蓮を解放するどころか、そのままで、ただ「入れ」と短く返した。
幕が上がる音、次に朱飛が中に入ってくる足音が耳に届く。そして、普段よりも、わずかに長く、深い息を吐き出す音がした。
「……何を、しているんですか」
「見てわからねえか。戯れている」
朱飛の視線が、肌に突き刺さる。いっそ、このまま意識が途絶えてしまえばいい。そう思うのに、赫燕から目を逸らすこともできず、動くこともできない。
「……その遊びは、他でやってもらえませんか」
朱飛の静かな言葉に、ようやく赫燕の視線が玉蓮から彼へと移った。そして、まるで飽きた玩具を放るように、少し乱暴に玉蓮を膝から下ろす。
「こいつを受け取りに来たのか?」
「……いえ、報告が」
赫燕と朱飛の会話をよそに、玉蓮はよろよろと立ち上がり、乱れた衣服を整える。一刻も早くこの場から逃れようと出口に向かい、入り口を塞ぐ獣皮に指先が触れた、その瞬間——
「おい。まだだ」
背を撃つような声が落ちた。ゆっくりと振り返れば、そこには不敵な笑みを湛えた男。玉蓮は、奥歯で何かを噛み砕くように耐え、再び赫燕の背後へ戻った。
今度は、体重を乗せて、ぐっと指先に力を込める。やはり鋼のような筋肉は、それでもびくともしない。
「まあ、ないよりはましだな」
赫燕は、楽しげに喉の奥で笑った。指先から染み込む熱が、じわじわと血管を巡り、おかしな痺れとなって心臓を絡め取る。

