復讐姫と二人の英雄 —殺戮将軍と天才軍師の執着。その天命の盤で美しく狂い咲く—



 濃厚な伽羅(きゃら)の香りと、つい先ほどまでの情事の熱気が未だに籠る天幕の中。乱れた寝台の上に、一枚の地図が無造作に広げられた。赫燕(かくえん)は、自身の汗ばんだ逞しい肌を隠そうともせず、寝台の縁に腰掛けている。

 その隣で、体の火照りが収まらない玉蓮が、乱れた息を整えようと努めている。赫燕は、玉蓮(ぎょくれん)が整然とした装いを取り戻すのを待つことなく、冷ややかな声を落とした。

「お前なら、この城を、この都をどう攻める?」

 何度目かわからない、その問いかけ。玉蓮は、散らばっていた衣を手にして急いで羽織ると、すぐに体勢を正し、深く息を吸い込む。思考を研ぎ澄まし、脳裏に刻まれた兵法書の知識を、現実の地図の上に重ね合わせる。

「……三重の包囲網を敷き、土塁《どるい》と物見(やぐら)を築きます。そして、兵器での城壁攻めで、門が開くのを待って——」

 ——トン。

 玉蓮の言葉を遮るように響いた音。それは、赫燕が地図に描かれた城を叩く音だった。赫燕は、玉蓮の瞳を捉えることなく、その力強い指を、城の中心から外へ向かって、ゆっくりと、まるで何かの軌跡を描くようになぞる。

「待つ、か。お前が三重の包囲網なんてものを悠長に築いてる間に、敵の援軍が俺たちの背中に集まってくる。お前の《《王道》》はな、敵に『どうぞ俺たちを包囲してください』と教えてやるようなもんだ」

「では——」

「待つな。待たせろ」

 地図に描かれた城ではなく、その周辺に広がる村々や水源に兵の駒が置かれていく。

「城の周りの村を焼く」

「なっ……」

「畑を潰し、井戸に塩を撒く。敵の領地を、城の外から腐らせていく。そうすれば、城の中の者たちはどうする?」

「……領地を腐らせれば、我々が手に入れた時の益も損なわれます。それは、覇者の道ではありません」

「覇者? 笑わせるな」