「……初めてではありません」

精一杯の強がりを込めて答えたその声は、自分でもわかるほど上ずっていた。

「ほう。後宮の鳥かごにいたお前が、いつ男を知った」

「先生の元では、兄弟弟子たちに囲まれておりました。このくらい、なんともっ——!」

言葉が終わる前に、腕を掴む力が、有無を言わさず彼女の体を宙に引き上げた。(あらが)う暇もなく、次の瞬間には、硬い筋肉の塊の上へと落ちていた。

「それは、恐れいったな」

彼の逞しい太ももが、玉蓮の臀部(でんぶ)に触れている。熱を帯びた皮膚の感触が、薄い衣擦れの音さえもかき消すほどに、玉蓮の意識を奪い去る。

目の前には、素肌を(さら)し、(つやめ)かしい光を宿した赫燕(かくえん)の瞳。その瞳は、逃げ場のない獲物を見定めた獣のように、深く、鋭く、玉蓮を捉えて離さない。

「な、にを……」

喉の奥で脈が跳ね、息が勝手に途切れる。目に映るのは赫燕(かくえん)の瞳だけ。伽羅(きゃら)の香が鼻腔をくすぐり、全身を支配していく。

「隙だらけだな」

低く響く声が、玉蓮の鼓膜を震わせる。

「お、お(たわむ)れを! おやめくださいっ」

震える声で抗議し、唯一自由な左手で彼の胸を押し返そうとする。しかし、鋼のように筋肉が浮き上がった体はまるで岩のように微動だにせず、逆に彼女の指先がその強靭(きょうじん)な筋肉に吸い付くようだった。

「ぁ……」

赫燕の指が玉蓮の顎を掴み、軽く持ち上げる。もがく小動物の抵抗を楽しんでいるかのように、赫燕が微笑む。

近づいてくる瞳に、玉蓮は金縛りにあったように動けない。彼の呼気が彼女の頬を撫でる。濃い酒の匂いと男の匂いに玉蓮がぐらりと揺らいだ。