闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 たどり着いた天幕。重たい獣皮(じゅうひ)を赫燕は押し上げて、玉蓮を中へと促す。足を踏み入れれば、いつも通り、外の喧騒が遠のいて密やかな空気と香が玉蓮を包んだ。

「あっ……」

 天幕に入るなり、彼の腕が有無を言わさず玉蓮の身体を絡め取り、言葉を発する間もないまま、背中が寝台の柔らかさに沈む。大きな手は、玉蓮の頭を包み込むように添えられたが、直後、彼自身の重みがのしかかり、その硬い胸板に肺の空気が押し出された。

 肺の中まで、甘く重い伽羅の香りで満たされる。覆いかぶさる赫燕の髪が、(とばり)のように外界を遮断する。そこにあるのは、夜の闇より深い、漆黒の瞳だけ。射抜かれる。吸い込まれる。

「玉蓮……」

 吐息混じりの低い声が、呪いのように鼓膜を震わせ、体の芯を熱く溶かしていく。視界が彼の顔で覆われ、近づいてくるその瞳を見つめ返すしかできない。

 食らいつくような荒々しさで唇が塞がれ、次の瞬間には、柔らかな舌が、慈しむように唇の輪郭をなぞる。こじ開けるでもなく、許しを乞うでもなく、当然のようにそのまま入り込み、彼女の呼気を根こそぎ奪っていく。

「ん……はっん」

 息ができない。思考ができない。彼の熱が、脳の奥まで侵食してくる。理性など、とうに焼き切れて、灰になっている。

 彼の手が、玉蓮の手首を捉える。昼間、死体を掴み、敵に刃を向けた指先に、赫燕が唇を寄せた。

「……震えは、止まったか」

 低く囁かれた言葉に、玉蓮の喉がひきつる。この男は、全てお見通しなのだ。

 あの時、敵が降伏しなければ、全てを壊さなければならなかった。自らが将として一つの城を蹂躙(じゅうりん)しなければならなかったかもしれない。その現実に、策が成ったにもかかわらず後から後から震えが起こったのだ。

「……はい」

 彼の指が、玉蓮の肌をなぞっていく。顎から、首筋へ。そこから鎖骨の窪みを辿り、心の臓の真上へと。指先が触れるたびに、ぴり、と痺れが走り、その軌跡が肌に焼き付いた。

 彼女の中から「否」という言葉を奪い、意味のない甘い吐息へと変えてしまう。赫燕の鼓動が、じかに胸に響いてくる。その力強い音が、自分のものよりずっと速く、熱い。その熱が、律動が、玉蓮の全てを塗り替えていく。