その夜更け、玉蓮は、赫燕(かくえん)の天幕に呼び出された。

天幕に一歩足を踏み入れると、むわりと、甘ったるい香と強い酒の匂いが彼女の鼻をつく。先ほどまで、あの女たちが彼の腕の中にいたのだ。その匂いが、玉蓮の胸を締め上げる。

赫燕は、素肌に外套(がいとう)だけをかけて、座っていた。

「……お頭、何かご用でしょうか」

玉蓮の棘のある声も気にせずに、赫燕は卓に広げた地図を睨みつけながら、ごきりと音を立てて、大きく肩を回す。

「肩を揉め」

「……はい」

玉蓮は、戸惑いながらも彼の背後に立つ。

その背中は、まるで岩壁のように広く硬い。恐る恐るその肩に手を置くと、指先が微かに震えた。硬質な筋肉の上に置かれた自分の手が、あまりにも小さく、頼りない。

外套(がいとう)越しに、じんわりと熱が伝わってくる。


その時、彼の胸元に、革紐に繋がれた二つの紫水晶がゆらめいているのが、ふと目に入った。天幕の油灯(ゆとう)のあかりを反射して、妖しく光るその奥に、一瞬何かが見えた気がして、玉蓮は目を凝らした。

「なんだ、男に触れるのは初めてか」

(あざけ)るような低い声が響き、玉蓮ははっとして、肩を掴む指に力をいれる。