闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 制圧した城の中、玉蓮は、牢の前にいた。城主の父と子をそこに入れたのだ。

「おい……」

 口輪を外された男が、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、震える声で玉蓮を呼んだ。

「なぜだ……」

 男は、自分の右手を見ていた。そこには、血こそ付いているものの、五本の指がしっかりと残っている。

「なぜ……俺の指がある……?」

 玉蓮は、懐から布を取り出し、自身の手についた血を丁寧に拭った。

「本当に切り落とす必要はありません。必要だったのは、あなたの指輪がはまった指だけ」

 戦場には、名もなき死体などいくらでも転がっている。形と大きさが似た指を探し出し、事前に奪っておいた指輪をはめることなど、造作もない。それに血を塗りたくれば良いだけだ。

「ハッタリは、戦の常套手段です」

「なっ……」

 男は呆然と口を開け、腰を抜かした。

 玉蓮は、冷ややかな瞳で見下ろして、口の端を吊り上げる。背を向けて、牢を後にする。

 廊下の暗がりに差し掛かった瞬間、玉蓮は、剣の(つか)を握りしめた。震える手を止めるために。あるのは、手のひらに残る死体の指の冷たい感触と、任務を遂行したという事実だけ。玉蓮は闇を見据え、迷いのない足取りでその場を去った。